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ドレッドノート  作者: 岩裂根裂
第5章・大陸間戦争
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第45話・集う英傑

 土煙舞う、カイゼル平原。

 侵攻軍と連合軍による戦争は未だ続いていた。


 だが……レスタリカ以外へ侵攻するための余力を残した侵攻軍に対し、この場にある総力をあげて戦わねばならない連合軍では、思うように戦況を動かすことは出来なかった。


 なんとか押しとどめられてはいるものの、このままでは敗北は必至。


 「……シキさん。アリシバンとゼルドヴィンからの援軍は?」


 今の戦況を覆せるほどの打開策など浮かぶはずがない。フォウは当初から作戦に組み込まれていた、他大陸からの援軍はどうなったのかをシキに尋ねる。


 「あと少しで到着するはずです。しかし……それまで我々が持ち堪えられるかは……」


 「それでも、なんとか持たせなきゃ死ぬだけよ」


 「……せめて、我が軍に予備戦力のようなものがあれば……」


 こんな状況だ。軍師といえど、戦果もままならない今では、無い物ねだりもしてしまう。


 そんな時だった。予備戦力……ではないが。


 「お呼びかい?」


 「ん? あなた方は……?」


 並みの兵士よりかは遥かに強力であろう、筋骨隆々な戦士達が訪ねてきたのは。


♦ ♦ ♦


 「くそッ! 多すぎだぜ!」


 「確かに、文句の一つも言いたくなる数だ」


 「それに、一体一体が手強い……!」


 蒼吾、ガイ、リュウキの三人は戦場の中心で、背中合わせの大立ち回りを繰り広げる。

 しかし、押し寄せる魔物を相手にし続け、すでに限界を迎えそうなほどに疲弊していた。


 「くうッ……このままでは持たん!!」


 「それでも諦めるな!! 援軍の到着までは、あとわずかなんだ!!」


 「くっそぉぉ!!」


 必死の抵抗で敵を倒していく三人。

 どれだけ斬っても湧く魔物達を前に、ガイもリュウキも、蒼吾でさえも諦めかけていた。


 その時。

 三人にとっての救世主が、この場に颯爽と現れたのだった。


 「オォラァァッ!」


 迫る魔物を吹き飛ばすのは、鉄を纏う拳。

 術式も着けずにこんな真似が出来るのは、蒼吾が知る中では、一人だけ。


 「よう! 生きてっか?」


 「おっさん!!」


 ジーク・クエンサー。

 かつて闘技大会で、蒼吾と力をぶつけ合ったり男が、そこに立っていた。


♦ ♦ ♦


 「マジで助かったよジーク」


 「なーに、礼なんざいらねえよ!」


 残った魔物を蹴散らし、一時の休息を勝ち取った蒼吾達。

 助太刀に入ってくれたジークに対し礼を言い、三人はその場に腰を下ろす。


 「ようやく、一息つけるな……」


 「それでも一時しのぎだ。奴らはまたすぐにでも来るだろう」


 迎撃に成功こそしたものの、まだ戦いは続いている。

 そんな不安を拭うように、ジークはむん、と自分の拳に力を入れる。


 「安心しとけや小僧ども。おめェらがへばってる間は、俺の拳でなんとかしてやっからよ」


 「はは……ほんと、頼りになるよ」


 「それによ、助けに来たのは俺だけじゃねぇ」


 振り返るジーク。三人もそれに続いて後ろに目をやるとそこには。



 「おらああッ!」


 「雑魚どもがぁ! この先には行かせねえよ!」


 兵士とともに戦っているのは、レスタリカに滞在していたギルドや傭兵団のメンバー。

 そして、闘技大会の出場者達だ。


 蒼吾が見知っている者もいる。

 ハーケンマイア、ブリックス、リハード。彼らもまた、レスタリカを守るために戦っているのだとジークは言う。


 「ここは俺らの国、そんで俺らの戦場だ! 魔物なんぞに壊させやしねぇ!」


 「……そうだよな。守らなきゃ、いけないよな!」


 蒼吾は一息に立ち上がり、ガイとリュウキに手を伸ばす。


 「二人とも。こんな戦争、さっさと終わらせてやろうぜ!」


 「……ああ!」


 「もちろんだ!」


 手を取り、二人もまた立ち上がる。


 戦士四名。

 戦場を見据え、再びその中心へと向かう……。


♦ ♦ ♦


 魔物を斬り伏せるガングレイヴ。

 思わぬ援軍の来着……彼にとっては待望の来着であるが。


 彼が呼び集めたギルド、傭兵団、闘技大会の出場者達のおかげで、戦況の維持はなんとか可能になった。

 盛り返すにはまだ手が足らないが、それでも立ち向かうしかない。


 「今度はこちらが打って出る番だ! 続けェ!」


 刀をかざし、全軍に突撃の号令をかける。

 連合軍の進んだ先に現れたのは……。


 「あれは、魔物じゃない!?」


 「ついにお出ましか、ガトリシズの獣人!」


 狼や虎などの、大地を駆ける獣人族。

 物量で勝る連合軍がずっと懸念していた、戦略を覆す戦術を持つ、圧倒的な力を誇る武人達。


 「ガングレイヴ殿、どうすれば……!?」


 「連携して討て! あれは俺でも手を焼く相手だ、絶対に一人で立ち向かうな!」


 音に聞く獣人の姿に焦りを隠せない兵士達。

 対してガングレイヴは、この状況にあっても冷静に指示を出す。


 余裕を持てているわけではないが、指揮官として弱音を吐いてはいられないのだ。


 「オオォーーーッッ!!」


 鬨の声を上げる獣。

 平原に響き渡る音に、兵士達は一瞬怯え……。


 「なっ!?」


 迫る獣人に対して、反応が遅れてしまう。

 だが。


 「やらせるか!」


 蒼吾は、今まさに貫かれようとしていた兵士を突き飛ばし、左手に持つ刀で獣人の爪を受け止める。

 すぐに体勢を整え、右手で片方の刀を鞘から抜き取る。


 獣人の方も、もう一方の腕を伸ばし、防御を固める蒼吾に追撃を仕掛けんとする。

 彼はそれを見切り、爪を防ぐ刀を流すように引く。すると獣人は攻めの勢いを両手に乗せてしまい……。


 「はッ!」


 構えられた刀に、自ら進む形になる。

 蒼吾は身を屈め、構えた刃はそのままに。

 抜けるように獣の身体を斬り裂いた。


 「ぐが……ぁ……」


 「……ごめんな」


 魔物とは違う、明確な殺意以外の感情を持ち合わせた『人』を斬った感覚。

 助けるためとはいえ、蒼吾はついに、刀で人を斬ってしまう。


 自らの汚れた手を見つめる蒼吾。見かねたガングレイヴは、彼に近づく。


 「ガングレイヴ、俺……」


 「見事だったぞ、蒼吾。そしてありがとう。お前のおかげで、俺は仲間を失わずに済んだ」


 戦争だから当然、などとは言わない。

 守るために戦い、敵を倒した蒼吾に向けて、彼は賞賛の言葉のみを与えた。


 「まだ戦いは続く。悪いが、頼むぞ」


 「ああ。覚悟は決まってる……任せとけよ、ガングレイヴ!」


 ♦ ♦ ♦


 侵攻軍の本隊、ガトリシズの獣人族を中心とした軍団との戦闘がついに始まった。


 しかし、実力差は歴然。武力で劣る連合軍は、再び押し返されようとしていた。

 ────その時。


 「ガングレイヴ殿! あれを!!」


 「……! 来たか!」



 「よし、持ち堪えていてくれたか!」


 「ガトリシズ相手にここまでよく……見事なものだ」


 エルローデ・リムサスとブランオード・マリス、両種族の長が率いるアリシバン軍。


 「間に合ったみたいね、エンディオ」


 「ああ。なんとかディクトに恩を売ってやれそうだ」


 エンディオとルキノの姉弟が率いる、人機混成のゼルドヴィン軍。


 要請していた援軍の全てが今ここに到着した。


 「おお!! エルフとダークエルフと……なんだありゃー?」


 「ゼルドヴィンの機人兵ってやつだろう。これでなんとか盛り返せそうだ!」


 沸き立つ連合軍。

 援軍は侵攻軍を挟むように現れた。反撃の好機は、今。


 ガングレイヴは再び全軍に号令する。


 「押し潰せェ!!」


 「おおぉーーッ!!!」


 シンガジマ、レスタリカ、アリシバン、ゼルドヴィン。そしてシーダム。


 五つの大陸を結ぶ戦いも、ついに終結に向けて進み始める……。

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