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ドレッドノート  作者: 岩裂根裂
第1章・蒼の紋章
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第4話・その力の名は、蒼紋

 少女は目の前の状況が理解出来なかった。

 名前も知らない男の子が、小さな二本の木の棒で、巨大な魔物と戦っていた。

 なんのために?

 自分のため?

 いや、違う。彼は。

 私を、守ってくれている?

 ぼやけた視界が徐々に晴れていく。

 彼はぼろぼろになりながら、血を流しながら、私に背を向けて戦っている。


 彼が、吹き飛ばされる。

 けれどまた立ち上がり、壁になる。

 だが──魔物は容赦しなかった。

 巨大な爪で、男の子を切り裂いてしまう。

 傷だらけの男の子が、私のすぐ目の前で横たわる。

 次は私の番か。

 そう思った瞬間、今度は大きな木の板を持った男の人が走ってきた。

 怒りに任せて魔物を叩いているように見える。

 ちらり、と横たわる男の子に目をやる。

 ────まだ息がある。


 私は、彼の意識に潜り込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「あ、れ……ここは……」


 目を覚ます。身体は動く。意識もはっきりしてる。


 「俺、確かあの魔物にやられて……」


 そうだ。女の子を守ろうとして、でも、全く歯が立たなくて、魔物の爪に切られちゃって……。


 「死んだ……のかな」


 「いえ。まだ死んではいません」


 「うわっ!」


 突然聞こえてきた声に驚いてしまう。振り返ると、そこには女の子がいた。

 俺が守っていた、銀髪の女の子だった。


 「はじめまして。私はフェイ。フェイ・レイネージュと申します」


 「あ……は、はじめまして! 俺、高槻 蒼吾!」


 緊張しながらも、なんとか名乗る。

 こんなに綺麗な人と話すの、夢の中の女神さんくらいだったから、どうしても焦っちゃうんだよな。


 「蒼吾さん……私を守ってくれて、ありがとうございます」


 「い、いや! ……ごめんな、守ってやれなくて。あれ、でも俺、まだ死んでないんだよな?」


 「はい。あなたは魔物にやられてしまいましたが、まだ死んではいません。と言っても、危険な状態ですが……」


 魔物にやられた。その言葉を聞いて、少し落ち込む。かっこ悪いな、俺。

 けど生きてるなら、早くここから戻らないと!


 「フェイ! ガイはまだ戦ってるのか?」


 「恐らく。あなたの仇を討とうと、魔物に向かっていきましたから」


 あいつ……嬉しいけど、喜んでる場合じゃない。


 「早くガイを助けに行かないと! フェイ、俺の怪我を治す方法とか、ないのか?」


 「あります。ですが、今のあなたはほとんど死にかけなんです。助けるためには、特別な力をあなたに与える必要があります」


 「特別な力……?」


 おうむ返しをしてしまうが、聞かずにはいられなかった。


 「聞いたことはないでしょうか?古来より伝わる“紋章”の力を」


 父さんから聞いたことがある。

 争いを幾度となく止め、今日まで続く平和を築き続けてきた者達。

 そんな、いわゆる伝説の勇者が持っていた力。それは紋章と呼ばれていた。


 「あなたを救うため、あなたが誰かを救うためには、この紋章をあなたに渡す必要があります」


 「紋章を、俺が……!? 俺なんかでいいのか、フェイ?」


 「……あなたの心なら。見ず知らずの私を守ってくれる、その心なら。この力を、間違った道に進ませることはないだろうと思いました」


 フェイが真剣な眼差しで、俺を見てくる。

 フェイは本気で、俺を信じてくれているんだ。

 そう思うと、なんだか心があったかくなった。

 なら、期待に応えてみせる!


 「よっし! フェイ、紋章の力、もらうよ。バッチリ使いこなしてみせるから、見ててくれ!」


 「分かりました……それでは右手の甲を、私に見せてください」


 言われた通りに、右手をフェイに差し出す。

 するとフェイが両手で、俺の手に触れる。

 蒼い光が、俺の手を包んでいく。光はだんだんと強くなって、そして目の前を覆っていった────。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 蒼吾は死に、少女は目を覚まさない。

 そんな中、俺は一人、必死に魔物と戦っていた。


 「ぐっ!! はぁッ、はぁッ……くそっ……!! 蒼吾の……仇を……!!」


 親友の命を奪ったこいつだけは……!

 疲労と怪我とでぼろぼろの身体で、魔物に立ち向かっていく。俺は今にも地面に倒れてしまいそうだった。気力でなんとか持ち堪えているだけだ。

 ────そんな身体で集中力が保つ訳もなく。

 俺は魔物に吹き飛ばされてしまう。


 「ガッ……!!」


 死ぬのか、俺は?

 蒼吾の仇も討てずに、女の子も救えずに。

 母さんのいるソムラも、守れずに。


 魔物が眼前にまで迫る。

 目を閉じて死を覚悟する。だが、魔物の爪が俺を貫くことはなかった。


 「……?」


 目を開けるとそこには、怯えたように後ずさる魔物の姿があった。

 一体何に怯えているのかと、魔物の視線を追ってみる。そこには────。


 「ようガイ! お互い、ぼろっぼろだな」


 ────そこには、蒼い刀身の双剣を持った、俺の親友が立っていた。


 蒼い双剣。蒼吾の右手の甲にある、光放つ紋章。

 それを見た俺は、父親から聞いたある話を思い出した。

 大きな戦争の中心に必ず現れ、多大な戦果を残し、伝承となって語り継がれる英雄がいる。

 その英雄は決まって、紋章をその身に宿していたという。

 俺の親友は────高槻 蒼吾は、聞いたままの伝承の英雄と同じ力を持って、そこに立っていた。


 その力の名は、蒼紋。

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