第35話・色々な意味で早い男
「おっしゃあーーッ!!」
ハーケンマイアを打ち倒した蒼吾が勝鬨を上げると、会場内は更なる盛り上がりを見せる。
口笛、拍手、歓声。それらが大会会場を満たしていく。
「うぐっ……」
ハーケンマイアが目を覚まし、呻き声を上げる。
だが、一向に立ち上がる気配を見せないハーケンマイアに蒼吾は近づいて、手を差し出す。
「大丈夫か?」
「はは……頭突きが効いちまったみたいだ」
すまないな、と苦笑しながら言い、その手を掴んで立ち上がるハーケンマイア。
目が覚めて間もないからか、まだ体がふらついている。それでもハーケンマイアは、勝者への賞賛を忘れない。
今度はハーケンマイアが、蒼吾に手を差し出した。
「負けたよ……でもいい勝負が出来て満足だ。またやろうぜ、蒼吾!」
歯を見せて笑うハーケンマイアに、蒼吾も笑顔を返しながら、その手を握る。
「おう! 次も負けないぜ、ハーケンマイア!」
再戦を誓う両者。
観客達は二人に、惜しみない賞賛を送った。
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試合の疲れに襲われ、くたびれた様子で控え室への道を進む蒼吾。
控え室前にたどり着くと、そこには見慣れた顔の二人、フェイとガイの姿が。
二人は蒼吾を迎えようと待っていたのだ。
「1回戦突破おめでとうございます、蒼吾さん」
「おめでとう、蒼吾。随分ボロボロになったな」
疲れ切った蒼吾を暖かく迎える、フェイとガイ。
笑いかけてくれる二人を見て緊張感が一気に抜けたからか、蒼吾は思わず倒れそうになってしまう。
「蒼吾!!」
「だ、大丈夫ですか!?」
それを咄嗟に支えるガイとフェイ。蒼吾は二人の両肩にもたれかかる形になり、ひどくやつれた顔つきになっていた。
「あはは……カッコ悪いな、俺……」
いつもの笑顔も浮かべられずにそんなことを言う蒼吾を、フェイは優しく励ます。
「……カッコ悪い訳ないじゃないですか」
「そうだぜ。お前は誰より輝いてた!」
フェイの言葉を遮るのは、背後から聞こえる少し低い声。
その声がした方に二人が振り返るとそこには、この大会会場で最初に出会った男、ジークが立っていた。
「ジークさん、どうしてここに?」
「なぁに、勝者を讃えてやろうと思ってな!」
フェイの問いかけに、豪快に笑いながら返すジーク。
ジークは三人に近づくと、蒼吾の頭をこれまた豪快にガシガシと撫でる。
「俺が、輝いてた?」
「あったり前だろ。お前は戦って、そして勝った。それがカッコ良くなくてなんだ、輝いてなくてなんだ!」
ジークの言葉は蒼吾の不安を拭うように、心に染み渡っていく。
「疲れも傷も戦士の勲章。最強を目指すんなら、これくらいのことでヘコたれんなよ、坊主!」
そう言うとジークは「試合まで医務室でゆっくり休んどけ。次もガンバレよ!」と言い残して、その場を後にした。
ガイは蒼吾を医務室まで運ぼうと、蒼吾の体を軽々と持ち上げて背負う。
「ありがとな、ガイ」
「気にするな。ソムラにいた時は、いつもこうだったろ」
蒼吾は心の中で、そういえばそうだったと零す。
(村で遊んでてすっ転んだ時、走り回って疲れた時、稽古に負けて泣いてた時。いつもガイにおぶってもらってたっけ……)
懐かしい思い出を浮かべながら、蒼吾は眠りについた。
ガイの背中に身を預けて、穏やかな顔で眠る蒼吾を、フェイは優しく微笑んで見守っていた。
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「うーん、気分スッキリ!」
「それは何より」
医務室でしばらく休んだ蒼吾は、医師に治癒術式を施してもらい、その傷を癒してもらっていた。
処置が完了すると蒼吾は、先ほどまでの疲れが嘘だったかのように体が軽くなったと喜んでいた。
「でも、無理は禁物よ。何度も医務室に担ぎ込まれるような真似はしないでね」
「分かってるって。サンキューな、先生!」
この闘技大会に参加する人間のほとんどは、この医務室に来ない日がない。それが屈強な肉体を持つ者であろうと、試合内容によっては何度も医務室に運ばれるほど。
目の前にいるのは、まだ若く背も低い少年だ。心配されるのは当然だろう。
心配された当の本人は、大して気にした様子もないが。
「本当に分かっているのか」と思いため息を吐く医師だったが、度を超える注意はせず、やる気に満ちた少年を、ただ見守っていた。
蒼吾が立ち上がると同時に、会場内にアナウンスが流れる。
『高槻 蒼吾選手。ブリックス選手。まもなく試合開始です』
「よっし、行くか!」
「気をつけてね」
返事もそこそこに、部屋を飛び出す蒼吾。
試合会場に到着し、中に入る。
相変わらず歓声が飛び交っているが、蒼吾も2回目ともなると、さすがに慣れた。
開始位置を示す白線の上を通り、選手同士がその顔を合わせる。
高槻 蒼吾対ブリックス。二人は白線の所まで戻り、武器を構えた。
審判が旗を振り下ろし、試合が開始される。
闘技大会、蒼吾の第2回戦が、今始まった。
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蒼吾対ブリックスの勝負は、早めに決着した。
ブリックスは速度上昇術式を足に付与し、その速度を活かした戦法を得意としていた。
「おらおらぁ、止まって見えるぞ!」
蒼吾の周囲を猛スピードで駆け回るブリックス。手に持った剣で、蒼吾に対し攻撃を仕掛けていく。一撃離脱を幾度となく繰り返すブリックスの戦法は、かなり強力なものと言っていい。
だが、蒼吾に焦りはなかった。蒼吾はそれを追うようなことはぜず、ただひたすらに耐えて、反撃のチャンスを伺った。
この戦い方はかつて、リュウキに対して蒼吾が行ったもの。
蒼吾は『蒼紋』の能力で自身の速度を上げることが出来た。リュウキとの訓練では、主にその能力を使って戦っていた。
結果は散々なものだったが。
だからこそ分かる。自分とよく似た戦法を使うこの男の行動が。
必殺の一撃を狙うタイミングが。
「遅いぜ……! くたばれやぁ!」
ブリックスが蒼吾の正面からまっすぐ向かっていく。
「ここしかねぇ!」
足をしっかりと地面につけ、天蒼刀を振りかぶる蒼吾。
速度上昇の次に自分が好む、硬化の能力を天蒼刀に付与し、向かってくるブリックスの脳天にその刀を、叩きつけた。
「がっ……!?」
ブリックスの頭に、かなりの堅さを持つ天蒼刀が直撃する。
とどめの一撃を蒼吾に届かせることなく、ブリックスはその場に倒れ込んだ。
「痛いだろうなぁ、これ……」
天蒼刀の硬化を解除して、鞘に収める蒼吾。
白目をむいて痙攣するブリックスに両手を合わせて礼をする。
そして観客の方へ振り返ると。
その拳を天に突き上げ、勝利の喜びを叫んだ。




