第28話・繁栄の大地にて
三人称でやってみます。
「さあ皆さん、着きましたよ!」
シンガジマとレスタリカを繋ぐ橋を渡り終え、馬車が停止する。
馬車から降り、蒼吾達が目にしたもの、それは。
「うっわぁ……!すげぇ!!」
ツキノミヤの王宮、アリシバンのグランフォレス城よりも高い建物が立ち並ぶ、煌びやかな都市だった。
それらの建物は、今まで蒼吾が見てきた建物とは、あまりにもかけ離れている見た目をしていた。
蒼吾にはそれが、ほぼ全ての建物が透明な壁によって作られているように見えた。
「あ、あの家……壊れたりしないのか?」
「あれはガラスっつってね。あれ一つ一つに防御術式が埋め込まれてるから、下手な攻撃じゃ傷一つつかないわよ」
フォルティスが得意げに語る。『ガラス』は、フォルティス以外の三人にとっては全く未知のものだ。
だからこそ信じられない。あんな透明で薄いものが、攻撃を防げるとはとても思えなかった。
疑ってかかる蒼吾達に、フォルティスは「それじゃあ」と一つの手鏡を取り出した。
「鏡、だよな?それ」
「まー見てなさい、ビックリするから」
手鏡を地面に立て、その手鏡に向けて銃を構えるフォルティス。
撃ち出された銃弾はまっすぐと手鏡に向かっていく。そして。
「……本当に防ぐとはな」
「これが街全体にあるなんて……」
「すごいけど、手鏡にこんな機能いるか!?」
銃弾は手鏡を貫くことなく弾かれる。
反応はそれぞれだが、三人はその光景に驚いているようだった。
「レスタリカの製品はとりあえず術式くっつける癖があんのよ。仕事柄、この手鏡には結構助けられてるけどね」
手鏡を抜き、指でクルクルと回しながら話すフォルティス。
そんなフォルティスに、レスタリカの製品への興味が爆発した蒼吾が目を輝かせながら問う。
「なあ、なあ!他にはないのか!?」
「こらこら落ち着きなさい。これから見に行くんでしょ」
街の方を指差すフォルティス。蒼吾もフォルティスが指差す方向を見る。そして考える。
あの街には自分の知らないものが多くある。考えただけで、蒼吾は興奮を抑えられないほどになっていた。
今すぐ街へ走り出したい衝動に駆られる。が、その前に。
「ここまでありがとな、兵士さん!」
「いえ!お役目ですから!」
ぺこりと頭を下げる蒼吾とフェイに、ピシッとした敬礼を返す兵士。
「リュウキとシキ……あと、イズモさんによろしく!」
「ええ、伝えておきます。皆さんお気をつけて!」
四人は手を振る兵士に背中を向けて、レスタリカ大陸へと歩き出した。
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「すっげぇ……!!見たことないもんばっかりだ!!」
「これがレスタリカ大陸か……!」
レスタリカ大陸最大の都市にして、全大陸で最も発展しているとされる場所『カルガザンド』。
シンガジマにもアリシバンにも無かった、機械と呼ばれるもの。
蒼吾やガイ、フェイにとって、カルガザンドにあるもの全ては、全く未知のものだった。
「なあなあフォルティス!あれ何!?」
蒼吾は一つの機械を指差しながら、フォルティスの腕をぐいっと引く。
蒼吾が指差す方向には、車輪をつけた機械がいくつも並んでいた。
「あれは『電車』って言ってね。加速術式を何個も搭載してる。馬車よりずっと早いって代物よ」
「馬車よりずっと!?すげー!乗りてー!」
電車と呼ばれた機械の周りで蒼吾がはしゃぐ。フォルティスはそんな蒼吾の首根っこを掴み、何か文字が表示された機械に近づいていく。
「どうしたんだ?」
「あの電車に乗るには、専用のカードってのが必要なのよ」
フォルティスが手早く機械を操作する。四つのカードを購入し、蒼吾、ガイ、フェイにそのカードを投げ渡した。
カードには『ロド広場前』と書かれていた。
「ロド広場……?」
「人を探すんなら、人が集まる場所で聞き込み調査が一番手っ取り早いってね。さ、行くよ!」
機械に向かって歩くフォルティス。フォルティスが扉の前に置いてある台座にカードをかざすと、扉が開いていく。
蒼吾達も同じようにカードをかざし、電車に乗り込んだ。
蒼吾達は電車の窓から見える、風のように流れていく景色を楽しんでいた。
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「いやー……見つからないもんね」
「結局、手当たり次第になるとはな」
プラスペリリでも特に人が集まる場所、ロド広場。
蒼吾達は初めて見るものに興味を寄せつつ、道行く人達にフェイの姉、フォウ・レイネージュの居場所を聞きながら歩いていた。
この場所に来て得た情報は二つ。
フォウ・レイネージュは、レスタリカ大陸一の大企業『フランシス・カンパニー』の社長秘書を務めていること。
その『フランシス・カンパニー』に今現在、フォウ・レイネージュはいないこと。外出している、とのことだ。
ならば地道に探すしかない、とフェイの覚えているフォウの外見を頼りに、再び通行人達に話を聞いていったのだが、結局見つけることは出来なかった。
気がつけば、空の色もすっかり濃い紫に染まっており、あれだけいた通行人ももう少なくなっていた。
「これだけ探しても見つからないなんて……」
「だ、大丈夫だよフェイ!今日はたまたま見つからなかっただけだよ!」
「明日また探そう。手はいくらでも貸す」
落ち込むフェイを慰める蒼吾とガイ。多少元気を取り戻せたのか、フェイはわずかに微笑みを浮かべた。
その様子を見ていたフォルティスは「とりあえず」と切り出す。
「明日も探すなら、早いとこ宿を見つけないとね」
「そうだな。フォルティス、案内してくれ」
「はいよー」
蒼吾達は、フォルティスの案内で宿へと向かった。
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「うーん、美味くもないし、不味くもない」
「なんというか、普通……の味がします」
宿に到着した蒼吾達一行は、手早く宿泊の申請を済ませ、食堂へと赴いた。
蒼吾は食事もさぞかし凄いのだろうと期待していたが、出てきた料理は、とにかくバランスを重視したようなものだった。
「他所の大陸から来た連中は口を揃えて、味気ない!って言うわね。アタシはもう慣れたけど」
宿の店員が言うには、これらの料理は機械によって生み出されたものらしい。
機械が料理を作っているのには、蒼吾達も驚きを隠せないが、味の方は大したことがなかった。
「でもま、健康メニューなんて名前だし、食っとけばとりあえず健康は維持出来るんじゃないかしら」
「適当だな、お前……」
つまらなさそうな顔で料理を口に運ぶフォルティスに、ガイは呆れたような表情になる。
健康にいいということは分かる。だが、それで満足出来るような人間ばかりが他の大陸から来る訳ではない。
「なんだこのマズ飯はぁ!!」
「こんなもんで金取ってんじゃねぇぞ!!」
文句を言う輩も、中にはいる。
ガラの悪い男達は料理を機械に投げつけ、店員にもっと美味い料理をよこせと言い出す。
それを見かねた蒼吾は、感情のままに立ち上がろうとするが、ガイに止められてしまう。
「止めるなよ!」
「ああいう連中には言うだけ無駄だ」
なんとか腕を振り解こうとする蒼吾だったが、ガイの鍛えられた腕に掴まれては、そう容易く動くことはできない。
まだ店員に詰め寄っている男達。
助けないとダメだ。そう思っていると────。
「おい」
赤いコートを着た背の高い男が現れ、ガラの悪い男達の肩を掴む。
「ああ?誰だテメエは!」
「……フン。この大陸で、俺の顔を見知らぬとはな。よほど頭が弱いと見える」
「んだとお!!」
ガラの悪い男は、赤いコートの男に掴みかかろうと腕を伸ばす。だが。
「ぐおぁ!」
赤いコートの男は伸びてきた腕を難なくかわし、その腕を掴んで投げ飛ばした。
怒りに満ちた表情の男がもう一人、赤いコートの男へ向かっていく。
彼は涼しい表情で相手の足を蹴り、体勢を崩したガラの悪い男の顔面に掌底を叩き込んだ。
「……弱いのは頭だけではないようだ」
圧倒的、と言わざるを得ない。
ただただ、赤いコートの男は強かった。
そんな男を見るフォルティスが、少し嬉しそうな顔つきになっているのを、蒼吾は見逃さない。
「どうしたんだよ?」
「……こんなとこで会えるとはね」
「あの男を知っているのか?」
「知ってるも何も、超がつくほど有名なヤツよ。そんでもって、アタシらの目的にも結びつく男」
目的に結びつく?
言葉の意味をよく理解できなかった蒼吾は、どういう事かともう一度フォルティスに問いかける。
フォルティスは一度フェイに目を向けたが、すぐに視線を赤いコートの男に写してこう述べた。
「あの男の名前はガングレイヴ。『フランシス・カンパニー』の社長にして……史上最強の男!」
────史上最強。
その言葉を聞いて、蒼吾はその身を震わせた。
自分の目指したものが今、目の前にいる、と。




