第2話・ありふれた日常、そして
いつもの朝。
今日も俺……高槻 蒼吾のありふれた日常が始まる。
飛び起きて、顔を洗って、服を着替える。
寝癖気味の髪の手入れもほどほどに、部屋から出る。
「父さん、母さん、おはよう!」
「おう、起きたか」
「おはよう、蒼吾」
両親──高槻 蒼真と高槻 深青──への挨拶。
いつもの日常の、いつもの習慣。
「今日もチャンバラか?」
「チャンバラじゃないよ、修行!」
「怪我しないようにね」
「心配しすぎだって! んじゃ、行ってきます!」
愛用の木刀二本を手にして、家を飛び出す。
畑の野菜にも少し挨拶をして、目的地に向かって走る。
これが俺の、一日の始まりだ。
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“平和”の名を冠する七大陸の一つ、『シンガジマ大陸』。
そのシンガジマ大陸の端っこにある、のどかな村『ソムラ』で、俺は暮らしている。
周辺に魔物はまったくいない、賊も来ない。たまに来るのは紙芝居。
俺はソムラが大好きだ。
いわゆる都会に、憧れがない訳じゃない。
けど父さんと母さんと過ごす時間、親友との他愛ない話、自然に囲まれている環境、可愛い動物達。
そんな、シンガジマ大陸でのありふれた生活が、俺にとってはなによりも大切だ。
その中で最も気に入っているのが……。
「遅いぞ、蒼吾」
親友──眞壁 ガイ──とのチャンバラ……もとい、修行。
ガイは村一番の武芸者、って言われてる。二番目は絶対俺だ!
強くて、優しくて、カッコイイ。そんな親友との修行は、俺の大好きな生活の一部だ。
「ガイが早すぎるだけだって」
軽口を言い合う。俺とガイは、いつもこんな空気だ。
「じゃあ早速……やるか」
ガイが、いつもの大きめの木刀を構える。
「おう!」
俺はいつもの二刀流の木刀を構える。
俺とガイの修行が始まった。
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「んがーーっ! また一本も取れなかった!」
木刀と木刀で打ち合ってから数分後。
やっぱりガイに負けた!
俺は地面に突っ伏し、ジタバタと暴れ出す。
攻め方が毎回同じじゃ結果も変わらない、と冷静に言うガイ。耳にタコができるくらい聞いたセリフだ。
俺はガイとの修行は大好きだけど、始めてこの方、一度も勝てていない。
通算、297敗。
「もうすぐ300戦か……キリのいい数字だし、その時は勝てるかもな?」
「そう言ってお前、100戦目も200戦目も本気だったろ!!」
俺は地面から身体を起こし、指を指しながら抗議する。いつもは手加減してくれてるのに、キリのいい数字の時は本気を出してくる。
手加減ありで1本も取れない俺も俺だけど、やっぱり悔しいもんは悔しい。
「そろそろ一本は取ってもらわないとな。勝ちっぱなしも飽きてきた」
「ぬぐぐ……次やるとき、吠え面かかせてやるからな……」
呆れた表情にカチンときた俺は、いつか絶対勝利すると心に誓う。
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「さて、そろそろ切り上げるか」
修行もひと段落。ここらでいいかとガイが言う。
「蒼吾。この後、予定はあるか?」
「無いけど、なんで?」
「村の外に魔物が出たらしい。村長に討伐を頼まれてな、一緒に行くか?」
ガイが訪ねてくる。魔物の討伐はいつもガイが一人で行く。誘ってくるのは、かなり珍しい。
ガイが一人で倒せないような魔物が出たのかもしれない。それで俺を誘ってくるって事はだ!
「俺の力が必要ってことだな!」
「…………まぁ、そうだ。細かい説明は必要ないな?」
「おう!早速行こうぜ!」
初めての討伐のお誘い、テンションが上がってくる!俺の本当の実力を、ガイに見せてやる時がきた。
討伐の依頼をこなすべく、俺達は村の外に出る。
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「魔物なんていないじゃん」
草と木と花と道を眺めながら、歩くこと数十分。早くも俺は飽き始めていた。
魔物のまの字も出てこない、変わらないソムラ周辺の風景。
これじゃあいつもの散歩と変わらないなぁ……。
「うちの村は争い事には無縁だからな、子供が動物か何かと勘違いしたんだろう。魔物だとしても、別の獲物を探しに、もう他所へ行ったかもしれないな」
俺達は歩き損になるのかとネガティブなことを考えていると。
「あっ!!」
木陰に横たわる人を見つけた。突然のことだったから思わず大きな声を出しちまった。
「どうした?」
「あれって、人、かな」
俺は人が倒れている方向を指し示す。
そこには、銀髪の少女が倒れていた。




