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ドレッドノート  作者: 岩裂根裂
第3章・その矢、月の煌めきを纏いて
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第26話・おかえり

 馬車に揺られること数時間。

 ツキノミヤに着いた俺は、ひたすらに走った。

 フェイが待ってる。ただひたすらに、走った。

 途中でガイとすれ違ったけど、手だけ振って走り去った。


 「シキ!!持ってきた!!」


 「おおっ!?」


 フェイが眠っている部屋の扉を勢いよく開けると、そこには少し寝ぼけてるシキの姿が。

 目の下のクマがすごい。体もふらついてる。俺よりよっぽど疲れてそうだ。


 「こんな顔で出迎えて悪いな、蒼吾……」


 「い、いや……大丈夫なのか?」


 「なに、問題はない。それより、リカバ草を」


 「はい、これ!」


 シキにリカバ草を渡す。シキはそれをしばらく眺めた後、何かを決意したような表情になった。


 「確かに受け取った。あとは任せてくれ」


 「……頼む、シキ!!」


 シキは微笑んで、扉を閉める。

 扉を見つめていると、少し汗をかいたガイと、息を切らしたフォルティス、リュウキの三人がやってくる。


 「着いたばっかで猛ダッシュってあんた……」


 「元気があるにも程があるぞ……!」


 「ごめん……すぐにでも渡したかったんだ」


 「とりあえず三人、無事で何よりだ」


 ガイがほっと息を吐き、俺の頭に手を置いてくる。一日とちょっとの間離れてただけなのに、かなり久しぶりな気がした。


 「リカバ草はもう渡したのか?」


 「うん。だからあとは……」


 「シキを信じて待つだけ、ね」


 三人と一緒に、頷き合う。

 今はただ、シキと、フェイを信じて待つしかない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 フェイが眠っている部屋の前に座り込んでいると、部屋の扉が開く。

 中からは、満足そうな顔をしたシキが出てきた。


 「治療完了だ。毒は完全にフェイから取り除けた」


 「よっしゃあ!!」


 「やったな、蒼吾!」


 「ふーっ!苦労して採ってきた甲斐はあったわね」


 「シキ、サンキュー!!」


 「自分はただ薬を作っただけだ……礼は、いらない……うっ……!」


 話しながら突然、シキの体が大きく揺れる。倒れそうなところをリュウキが支えた。


 「……すまない、リュウキ……」


 「気にするな。イズモ様と俺がいない間、よくツキノミヤを守ってくれた」


 「蒼吾、フェイは、夜には目を覚ますはずだ……」


 「シキを休ませてやりたい。すまないが、後のことは頼む」


 「ああ。二人とも、ゆっくり休んでくれよ」


 リュウキとシキの二人が去るのを見送ると、ガイに背中を押される。


 「わっ!?何するんだよ、ガイ」


 「フェイが目を覚ました時、誰かがいてやらないとだろう」


 「そーね。側にいてやんなさい、蒼吾」


 「お、おう……分かった」


 そのまま二人にぐいぐいと部屋の中に押し込まれて、扉を閉められる。

 部屋の中には、静かに眠っているフェイがいた。


 「フェイ……」


 大丈夫なのは、なんとなく分かる。

 それでも、目を覚まさないと安心はできない。

 俺はベッドの隣にある椅子に座ると、不安を紛らわすようにフェイの手を握った。

 祈るように目を閉じて、そのうち、意識が沈んでいった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ここは、どこでしょう。

 見渡しても見渡しても、周りには黒い壁しかありません。


 「夢……?」


 こんな夢なら、早く覚めてほしい。

 私は楽しい思い出を浮かべながら、ぎゅっと目をつぶりました。


 蒼吾さんと出会った思い出。蒼吾さんに抱きしめられた思い出。蒼吾さんと星空の下て、夢を語り合った思い出。

 蒼吾さんと海を見た思い出。蒼吾さんに頭を撫でられた思い出。そして……。


 「そうでした。私は、蒼吾さんを庇って……」


 木を操る魔物から蒼吾さんを庇って、私は……。


 「死んでしまったのでしょうか……?」


 そう考えれば、この闇に満ちた空間にいる理由にも、納得がいきます。

 ですが、何故でしょう。

 涙が、止まりません。


 「姉さんに、会えなかった……蒼吾さんにも、みんなにも、もう会えない……」


 蒼吾さんを庇ったことに、後悔はない。

 でも。でも。

 せめてもう一度、会いたかった。


 膝を折ってしゃがみ込んでしまう。もう立ち上がる気力もなかった。

 そんな時。

 この空間に突然、一筋の光が差し込んだ。


 「これ、は……?」


 温かい光が、この暗い空間を満たしていく。

 ふいに、右手が誰かに引かれた。


 「誰……?」


 〔帰り道、分からない?〕


 私は、今はもう一切の闇もない光の空間を、誰かに手を引かれながら歩く。


 〔こっちだよ〕


 「あなたは、誰……?」


 〔わたしはあなた。あなたはわたし。でも今は、そんなことよりもほら!早く行こ!〕


 目の前が、光に覆われていく。


 〔全てここから始まるよ。あなたが望んだ明日が!〕


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「……ん……?」


 俺はフェイの手を握ったまま、寝ちゃってたみたいだ。慌てて椅子から立ち上がって、大きく伸びをする。


 「ん〜〜!よく寝たぁ……」


 「相変わらずお寝坊さんですね、蒼吾さん」


 「ははっ、寝ぼけすぎてフェイの声……が……」


 目の前にいたのは、いつものように優しく微笑むフェイだった。

 今、一番望んでいたこと。それでも、驚かずにはいられなかった。


 「フェイ……!」


 「はい。フェイです」


 再び椅子に座って、フェイの手を握る。

 あったかい。いつものフェイが、そこにはいた。

 少しの間失っていた当たり前が、戻ってきてくれたんだ。

 俺は溢れる涙を抑えきれずに、フェイに抱きついてしまった。

 フェイは拒むことなく、俺の頭を抱えて、撫でる。


 「フェイだ、フェイがいる……!よかった、フェイ……!!」


 「はい……私は、ちゃんとここにいますよ、蒼吾さん……」


 こんなところを誰かに見られたらどうしよう。

 いや……誰に見られたっていいや。

 フェイが目を覚ましてくれたんだ。

 いいよな、これくらいしても……?


 そうだ。抱きしめるのもいいけど、大事なことを言い忘れてた。

 フェイから少し離れて、涙を拭いて。

 俺は精一杯の笑顔を作って、こう言った。


 「おかえり、フェイ!」


 フェイは笑顔を見せながら、返す。


 「ただいま、蒼吾さん」


 俺にとっての長い、長い戦いが、今終わった。

蒼吾がよく脳内で話す人と、今回フェイの夢の中に出てきた人は、同一人物です。

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