第22話・嘲笑う悪意、怒りの狩人
木を伝い、まるで獣のように森を抜けていくリーフ。
俺達は何が起こっているのか分からないまま、リーフをただ見送ることしかできなかった。
「どうしちゃったんだよ、リーフのやつ……」
「あの紙を見てから、一気に雰囲気が変わったが……」
「エルフの王女とダークエルフの王子が結婚、ね。戦争起こさないためにはいい手なんじゃないの?」
投げ捨てられた紙を拾い、まじまじと見つめるフォルティス。そのフォルティスの目も、リーフのように驚きに満ちていた。
「これ……異常ね」
そう言って、紙を渡してくるフォルティス。
リュウキと二人、その紙を見ると……。
「このリンドビルデってやつ以外、みんな笑ってない……?」
「結婚……それも、二つの種族が結ばれる結婚ともなれば、誰もが祝福するはずだ」
「だから異常ってんのよ。間違いなく、このダークエルフ……リンドビルデが、何かしたに違いないわ」
フォルティスが言い終えると、険しい表情のヤムじいさんが、静かに近づいてくる。
「……リーフが行ったのは、この結婚を怪しんだってだけじゃないんだ。フェアリ王女は、リーフとそれはもう仲が良かった。それはもう、恋人みたいに……
それに、お前さん達を連れてくる前まで、リーフはいつものようにフェアリ王女と森を歩いていた。事情があって別れたらしいが、こんなことになるとは……」
リーフと、このフェアリって人は恋人。つまりフェアリは、リーフの大切な人。
その二人の間を引き裂いた、リンドビルデ。
優しいリーフがあんな顔するのには、そういう理由があったんだ。
今の俺と、何も変わらないって思った。
俺の事をフェイが庇って倒れた時、俺は苦しかった。
リーフだってきっと同じだ。でも、リーフは俺と違って、今は一人なんだ。
ほっとける訳ないよな。
「リーフを助けに行く。フォルティス、リュウキ。手、貸してくれないか?」
そう言うと、フォルティスは俺の頭をポンと叩き、俺の隣に立つ。
「なーにを今更……ここまで来たら最後まで付き合うに決まってんでしょ」
いつになく真剣な表情を見せるフォルティス。リュウキも俺の隣に立って、笑いかけてくる。
「一人ででも行くつもりだったんだろう?お前を一人で行かせて、大怪我でもしようものなら……」
「アタシらがガイにぶっ殺されちゃうわ」
フォルティスがカラカラと笑いながらそう言うと、いつもの銃を空間から生み出す。
リュウキも背中から槍を抜き、二人は俺の前に立って、微笑を浮かべながら振り返る。
「さっさと助けて帰るわよ」
「フェイとガイに、笑顔で勝利報告をしてやろう」
俺は、何も言わずに力を貸してくれる二人を見て、なんだか胸が熱くなって。
ちょっと泣きそうになるけど、首を振って堪える。
俺も武器を取り出し、二人の前に出る。
そんな俺達を見て笑うヤムじいさんが、光の玉を指に乗せながら歩いてくる。
「リーフは恐らく、グランフォレス城に向かった。グランフォレスまでの道案内は、この妖精がしてくれるだろう」
「サンキュー!よろしくな、妖精さん!」
ふよふよと浮かぶ妖精が俺の周りを飛び回る。それをしばらく見ていると、ヤムじいさんが俺達に頭を下げる。
「どうか、どうか……リーフとフェアリ王女を、頼む……!」
「か、顔上げてくれよ、ヤムじいさん!任せとけ、しっかり助けてくる!」
顔を上げたヤムじいさんに向かって、笑いながら親指を立てる。
妖精が回るのをやめて、森の方へと向かっていく。俺達もそれを追って走り出す。
リーフ、今行くからな……!
フェイ。もうちょっとだけ、待っててくれよな。
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ぜぇぜぇと息を切らしながら、木を降りる。
辺りはすっかり夜になっていたが、オイラはようやく、グランフォレスにたどり着いた。
「フェアリ、待ってろ……!」
息を整えて、城への道をひた走る。
警備兵が目を離した隙に、アンカーを外壁へと突き刺し、ツタを握って登っていく。
謁見の間の近くに降り立ち、壁に身を隠す。
扉の前に立つのは、大きなあくびを浮かべるダークエルフの兵士が二人。これならすぐに片付けられそうだ。
弓を構え、持っている武器に向かって矢を放つ。
武器を壊され、慌てふためく兵士。その隙を逃さないよう駆け出し、弓で兵士を殴りつける。
もう一人の兵士が槍を突き出してくるが、なんとかかわす。右手でそのまま頭に手刀を叩き込むと、兵士はすぐに気を失った。
謁見の間の扉を開ける。
わずかな月明かりに照らされているだけのこの部屋では、目を凝らしても何も見えなかった。
やがて、燭台に火がついていき。
玉座の隣に置かれた燭台に火がついた時、奴は姿を現した。
虫酸の走る笑みを浮かべながら。
「ヒャハハハハァ!遅かったじゃないか、リーフ・ベルトムットぉ!」
「リンドビルデぇぇ!!」
目の光を失ったフェアリを肩に寄せながら笑う、リンドビルデ・マリス。
オイラの大事なものを取り戻す戦いが、今始まった。




