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ドレッドノート  作者: 岩裂根裂
第2章・平和を脅かすもの
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幕間・その笑みは闇に満ちて

 癒しの名を冠するアリシバン大陸の中心にある『妖精大国アヴァロン』。

 そのアヴァロンから少し離れた場所にそびえ立つ城の廊下を、苛立った様子で歩く褐色肌の青年がいた。


 「ふざけやがって……ふざけやがって……!」


 彼の名は、リンドビルデ・マリス。

 多くのエルフが暮らすこの国では珍しいダークエルフの青年であり、ダークエルフ族の次期当主の座を得ている人物でもある。

 彼が苛立っている理由、それは。

 アヴァロン国王エルローデ・リムサスの一人娘、王女フェアリ・リムサスが、偶然知り合った一人の男とともに、アヴァロン国王の居城から飛び出した事を、知ってしまったからだ。


 「フェアリ……フェアリが……田舎者と愛の逃避行だと!?ふざけやがって!!」


 フェアリを連れ出した男の名は、リーフ・ベルトムットというらしい。

 いや……フェアリを想う彼にとっては、連れ出した男の名前なんてどうでもいいのかもしれない。

 ただ、自分の知らない男が、フェアリを連れ出したという事実。

 その事実を知った時に芽生えた、いわゆる嫉妬の感情が、彼を苛立たせていた。


 「カァァーーーッ!!」


 壁を殴り、床を踏みつけ、花瓶を投げ。

 彼は城内のあらゆる物に、感情に任せた八つ当たりを行なっていた。

 そんな彼を、妖しく笑いながら見つめる影が一つ……。

 荒れ狂い、やがて立ち止まったリンドビルデの元に、その影が少しずつ近づいていく。


 「ハァ……ハァ……」


 「随分と荒れているね。ダークエルフ」


 「ヒィッ!?」


 突然声をかけられ、驚いたリンドビルデは怯えた様子で後ずさる。


 「だ、だっ、誰だ貴様ぁ!誰の許可を得てこの城に!」


 「落ち着いてくれ、ダークエルフ。全身が産まれたてのシカのように震えている」


 影は月明かりを浴びて、徐々に姿を現していく。

 現れたものは、紫色の髪の男性だった。

 男性はリンドビルデに手を差し出す。

 リンドビルデはその手を取って立ち上がり、訝しむように男性を見つめる。


 「僕の城に無断で立ち入ったのか、貴様は」


 「驚かせてすまなかった。私の名は、ラーデンク。少し君に、用があって来た」


 「フン……僕はリンドビルデ。この僕に、一体何の用だ」


 「君に見せたい物があってね」


 お互いに名乗ると、ラーデンクは懐から、薄紅色に輝く、美しい石を取り出した。


 「それは……」


 「君の才能を引き出す道具。君にとっての、王者の証だ」


 「王者の証だと?戯言を……」


 「ならば問う。これを手にしない限り、君は想い人を手に入れられないと言ったら?」


 「ッ……なんだと……!?」


 「自由を求めた王女。自由を愛する旅人。彼らを結ぶ想いにもはや、君の立ち入る隙はない」


 ラーデンクはリンドビルデに背を向け、少しばかり進む。


 「そして、国王エルローデはダークエルフにあまり印象を抱いていないと聞く。さて、この状況において……。

 君が望むものは、手に入ると思うか?」


 振り返り、冷たい光を放つ瞳でリンドビルデを見るラーデンク。

 リンドビルデは俯き、今の自分の立場を理解し、歯を軋ませた。

 そして……。


 「────その石を寄越せ」


 「む?」


 「僕はなんとしてもフェアリを手に入れる。いや……この大陸そのものを、僕の理想の大陸に染め上げる」


 「ほう……」


 なんと欲望に満ちた、歪んだ目か。

 ラーデンクは少しばかり身体を震わせ、笑って水晶をリンドビルデに渡す。


 「その石の名は『魅了の魔石』。この魔石は、生きとし生けるもの全てを、君の支配下に置くことが出来る」


 「……全てを……」


 「ああ。王女フェアリ、国王エルローデ。そして……世界をも手中に収められるほどの力を秘めた魔石だ」


 リンドビルデはその魅了の魔石を握りしめ、ラーデンクを見つめる。


 「ラーデンク。なぜこれを僕に?」


 聞かれたラーデンクは喉をクツクツと鳴らし、微笑みを浮かべながらこう返す。


 「癒しなどという名を冠しておきながら、中身は闇で満ちている。エルフとダークエルフ……100年の時を経てなお手を取り合えない愚かな種族が暮らす場所。

 君であれば、このくだらぬ大陸を変えられるのではないかと思ってね」


 「僕がこの大陸を……変える?」


 「クク……君のような、能力のある者が歴史に埋もれていくのは忍びない。君が歴史を作るんだ。この大陸の、新たなる王となって」


 「この大陸の、王……!」


 喜びに満ちた表情を見せるリンドビルデを見て、ラーデンクは再び妖しい笑みを浮かべる。


 「感謝するぞ、ラーデンク」


 「その言葉は、大陸を支配した時にでも聞かせてもらおう。また会いに来るよ、リンドビルデ」


 「ああ!その時は、ダークエルフの皆で盛大に持て成そう!」


 わずかに口元を歪めた後、ラーデンクはまた闇の中に去っていく。

 リンドビルデはしばらくそれを見送り、再び魔石を握りしめた。


 「物は試しだ。まずは……エルローデ。奴から傀儡にしてやる……!見ていろ、愚かなエルフども!アハハ、アハハハハ!!」


 月が雲に覆われ始める頃。

 悪魔のような笑い声が、アリシバン大陸に響いていた……。

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