第1話・女神の夢、嵐のような一日の始まり
夢を見た。
銀髪で、女神みたいに綺麗で、優しそうな女の人と出会う夢。
この夢は、最近になって見るようになった。
目を開けるとそこは、いつも通りの場所。
鏡のような地面、見渡す限りの黒い壁、うっすらと天井から差す光……。
不気味なような、神秘的なような。ずっと暮らしている村ほどじゃないけど、俺はこの場所が気に入っていた。
周りを見渡していると────いつも通り、女神さんが急に現れる。
「こんにちは」
「こ……こんちは!」
「ふふっ、あまり固くならないでください」
俺たちの会話には、いつも他愛のない始まりと終わりがあるだけ。
今日はどんなことがあったのかを聞かれて、俺が答えて。それで少ししゃべって終わり……だった。けど今日は────。
「あなたには、願いはありますか?」
こんなことを聞かれた。
願い? いざ聞かれると、パッと出てこない。
今思い浮かぶのは……。
「今日のメシは肉がいいなぁ」
くらいだ。「ご家族の方に言ってください」と極めて冷静に返される。そりゃそうか。
願い……。あるにはあるんだけど、俺みたいな子供が口にしてもいいんだろうか。
「どんな願いだとしても、いいんです。あなたの願いを聞かせてください」
心を読まれた!?
ならもういっそのこと迷わず、答えを出す。
俺は────。
「英雄になりたい。ただの英雄じゃなくて……誰にも負けない、どんな人だって守れる最強の英雄に!」
俺がそう告げると女神さんは……。
「あなたが純粋な心で願いを求めるなら……いつかきっと、叶います」
いつもの優しい笑顔でそう言ってくれる。俺も心があったかくなって、笑顔を返した。
そして、女神さんは急に去っていく。これもいつも通りだ。
この後は、いつも通り目の前がもやもやして、身体が重くなって……いつもの布団で目が覚める。
だけど今日は、普段とは違う一日になりそうな気がしてた。
夢を打ち明けたのは、親友以外じゃ初めてだ。
女神さんに俺の夢を話せたからか、なんだか俺はいつもよりやる気が漲ってるような気がした。
目が覚める。
今日も俺の────高槻 蒼吾の一日が始まる。