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ドレッドノート  作者: 岩裂根裂
第2章・平和を脅かすもの
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第17話・燃えよ命、地獄の淵で

 「おおぉぉっ!」


 天蒼刀を振り回し、周りを囲む木を斬っていく。斬っても斬っても増殖が止まらない木に、俺達はかなり消耗させられていた。

 堪らず膝をついてしまう。


 「くっそぉぉ……!」


 「さすがに厳しいな、これは……!」


 「だが諦める訳には……!」


 「そんなこと分かって、ぐっ……!!」


 イズモを助けなきゃ。仲間を守らなきゃ。何より、フェイの為に踏ん張らなきゃ。

 心はそう思っていても、身体が言う事を聞いてくれなかった。

 そんな中、フォルティスだけが涼しい顔で立っていた。


 「何よ、もうへばってんの?情けないわねぇ」


 「お前、すげーな……なんでそんなに平気そうなんだ?」


 「こう見えて、そこそこ修羅場潜ってんのよ。ま、こんな化け物相手じゃあ、疲れんのも無理ないわね」


 そう言うとフォルティスは、手に持っていた物を放り投げる。床に投げられたそれはスーッと透明になっていって、消えた。

 同時に、何もない空間からフォルティスはまた黒く光る何かを取り出す。今度は二個で、さっきまで持っていた物よりも小さい。


 「また新しいのが……なんなんだ、それは?」


 「色んな呼び名があるけど、アタシは『銃』って呼んでるわ。レスタリカ大陸じゃ、そこそこ有名ね」


 その二丁の銃を木に向けながら、俺達の前に立つフォルティス。

 不安を感じたのか、リュウキがフォルティスに声をかける。


 「何をする気だ、フォルティス」


 「男連中がくたばってるんじゃ、アタシがなんとかするしかないっしょ?しばらく休んでな」


 「けど、一人じゃ……!」


 「いや。俺も行く」


 ガイが大剣を支えにして立ち上がり、フォルティスの隣に並び立つ。


 「ちょっとー大丈夫なの?誰かを庇いながら戦うなんて無理よ、アタシ」


 「庇って貰おうなどとは考えていない。俺一人でも十分なくらいだ」


 「強がっちゃって……ま、そういう事にしといたげるわ。────やるわよ」


 「任せろ」


 大剣を背中から抜いて構えるガイ。二つの銃をカチリと鳴らし、構え直すフォルティス。

 木へと向かっていく二人の背中を、俺は見守ることしか出来なかった。


 「くそっ!!」


 下を向いて木を殴りつける。

 何も出来ない自分が、悔しくて、情けなくて。

 何度も、何度も、拳を叩きつけた。

 戦う力を持ってても使いこなせないんじゃ、意味なんてない……!


 「蒼吾……」


 「リュウキ……俺、俺は……!」


 そんな時、頭の中から声が響いた。


 〔諦めるのですか?〕


 えっ……!?

 それは、いつか夢の中で聞いた、女神さんの声だった。

 女神さんは優しい声で、俺に問いかけてくる。


 〔あなたはここで、力に屈してしまうのですか?〕


 違う……。


 〔力がないから。そんな理由で、諦めてしまうのですか?〕


 違う……!


 〔あなたは守るべきものを、ここで失ってしまうのですか?〕


 「違うっ!!」


 立ち上がる。

 足は震えたままだ。気合と根性、そして、誰かを守る為の意地が、俺を立たせている。


 「フェイがいるんだ……守るって約束したんだ。仲間が、戦ってるんだ!」


 天蒼刀を天に掲げて、叫ぶ。


 「だから、絶対に諦めない!フェイもガイもフォルティスもリュウキもイズモも、ツキノミヤの皆も……!俺が絶対、守るッ!!」


 喉が張り裂けそうなくらい、声を出した。

 そのせいで、身体がぐらつく。

 気合、入れすぎたかな……?

 でも、俺の身体が倒れることはなかった。

 俺にとっても、リュウキにとっても予想外の人物が、俺の身体を支えてくれていた。


 「そうだ。諦めないでくれ!」


 髭の生えた、少し冴えないこの顔は……。


 「生きていたのか、シキ!」


 リュウキと一緒にハマシブキを襲った、シキの顔だった。

 ふらつく俺の身体をゆっくりと地面に下ろして、緑色に光る手を俺に当てる。

 なんだか、身体の疲れが取れていく感じがした。


 「シキ、なんで俺を……?」


 「今戦っている、あの大剣の青年と銃を扱う女性は、このままでは疲労により倒れる。自分とリュウキも戦うだけの力は残っていない。魔女も先ほどから集中して何かを行っている。だから……」


 シキが俺の手を握って、真剣な顔で見つめてくる。


 「イズモ様を救えるのは、君だけなんだ。頼む、蒼吾君……どうかこのツキノミヤを、救ってくれ!」


 「私からも、改めて頼む……蒼吾……!」


 「リュウキ、シキ……」


 参ったな。

 そんな目で見られたら、断るなんて出来るわけないよな。

 俺は天蒼刀をもう一度手に取り、シキに向き直る。


 「シキ。傷の手当て、サンキューな」


 「蒼吾……?」


 「絶対助ける。ここで待っててくれ!」


 二人とフェイに背を向けて、走り出す。

 ガイ、フォルティス、待ってろよ!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 蒼吾達を守る為、フォルティスと二人で木との戦闘を開始してから、どれだけ経っただろう。

 俺達はまだ、木に囲まれていた。


 「フォルティス、まだ生きてるか!?」


 「あったり前よ!けど……ちょっとヤバイわ、これ」


 「何が────!?」


 振り向くと、フォルティスが木に両腕を縛られてしまっていた。


 「フォルティス!くっ……!?」


 助けに行こうとしても、木が道を阻んでくる。

 このままでは、フォルティスは……!


 「あー……こりゃマジで、死んじゃうかもなー……」


 「諦めるな、フォルティス!!必ず助けに……!ぐあっ!」


 木を斬りながら進むが、届かない。何度も何度も押し返され、次第にフォルティスが遠くなっていく。


 「フォルティスっ……!諦めるな!」


 こんなところで、誰も死なせたくない。

 いくら他人といえど、短い時間だったとしても、フォルティスは共に戦った仲間だ。見捨てるわけにはいかなかった。

 それでも、届かない。


 「くそっ……!!」


 「……復讐も果たせずに、こんなとこで、死ぬのかぁ……」


 フォルティスの身体を木が貫こうとする。

 だが、その時。


 「双撃襲ソウゲキシュウ!!」


 突然現れた蒼い閃光が木を蹴り飛ばし、同時にフォルティスを縛っていた木を双剣で斬る。


 「大丈夫か?ガイ、フォルティス」


 蒼い閃光は、聞き慣れた声で俺達を呼ぶ。


 「……蒼吾」


 「おう!助けに来たぜ、二人とも!」


 天蒼刀を地面に刺し、俺とフォルティスに手を差し出す蒼吾。

 二人でその手を取り、立ち上がる。


 「ふぅ。……まさかあんたに助けられるとはね」


 「蒼吾にしては最高のタイミングじゃないか」


 「助けてやったってのにそれかよお前ら!」


 全く……とこぼしながら、蒼吾が木の方へ向き直る。


 「ちょっと、やっつけてくる。二人は休んでてくれ」


 そう言って笑う蒼吾の背中は、見たこともないような、頼り甲斐のある背中で。

 俺にとってその姿は、まさしく英雄だった。


 「行くぞ!」


 蒼吾が駆け出していく。

 一つ、また一つと木を斬っていき、凄まじい速さで玉座に近づいていく。

 俺達は二人がかりで、全く進めなかったといううのに……。これが、蒼紋の力なのか?

 いや、これは。蒼吾の、意志の力か。


 「でやぁーっ!」


 快進撃を続ける蒼吾。だがその前に、周りの木に比べて一際大きな木が何本も立ち塞がる。


 「蒼吾!!」


 「大丈夫だ、ガイ!俺は負けない!後ろにフェイが……お前らがいるんだから!」


 蒼吾が言い終えると、天蒼刀が眩い光を放つ。

 輝く天蒼刀を振り、大木を次々と斬っていく。


 「いつかてっぺんの星を掴むまで、夢を叶えるまで!」


 玉座を阻む、壁のように並ぶ木が驚異的な速さで斬られていく。


 「俺は止まらない!二刀流奥義!!」


 最後に残った大木に、さらに輝きを増した天蒼刀で斬りつけていく蒼吾。


 「蒼極星ソウキョクセイーーッッッ!!」


 大木は跡形もなく消え去る。

 玉座への道が、開かれた!

 その時、フェイの声が室内全体に響く。


 「皆さん、お待たせしました!『浄化の剣』、完成です!」


 「おお、ついに!」


 「蒼吾さん、今届けます!」


 走り出すフェイ。再び現れる木をリュウキとシキが貫き、斬り裂く。

 やがて俺達の周りにも木が出現した。フェイの道を開くため、それらを倒していく。

 息を切らしながらも、蒼吾の元へたどり着いたフェイ。『浄化の剣』を受け取り、フェイの頭に手を置く蒼吾。


 「お疲れさま、フェイ。後は任せとけ!」


 「はい……!信じています、蒼吾さん!」


 「よっしゃあ!期待に応えてやるか!!」


 地面に刺した天蒼刀を踏み台にして、蒼吾が跳躍する。

 そのままイズモに、浄化の剣を突き刺す蒼吾。


 「元に、戻れぇぇーっ!!」


 イズモの身体から光が溢れ、木を紫色に染める部分が霧のように消えていく。

 蒼吾は飛び退き、しゃがみながらその様子を見ていた。


 「はぁっ……はぁっ……やった……!」


 蒼吾と共に、俺達も勝利の喜びを噛みしめる。


 俺達はこの時、安心しきっていた。

 ミデハがまだ、この場にいる事すら忘れて。


 「くっ……!契約者、せめてあなただけでも!」


 わずかに残っていた毒の木を蒼吾に向けるミデハ。

 すぐにでも助けに行きたい。だが……。


 「ぐっ……!身体が、まだ……!」


 「この位置じゃあ、射撃も……!」


 「逃げるんだ、蒼吾!!」


 リュウキが必死に蒼吾を呼ぶが、蒼吾ももう動けないようだった。

 誰もが諦めかけていた、その時。

 銀の光が、目の前を横切った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「う……あれ、俺……生きてる……?」


 目を開けると、腹部が暖かかった。

 触れてみると、それは血だった。……あの木は、避けられなかったのか。

 ────いや。

 痛みが、ない。

 身体中は痛いけど、何かに貫かれたような痛みはない。

 じゃあ、この血は……?


 身体を動かそうとしたけど、動かない。

 下を向いてみる。

 そこには、見慣れた銀色があった。


 「………………え?」


 それは、俺をかばうようにして倒れるフェイだった。

 フェイ、あの木から俺をかばって……?


 「う……うそ、だろ?フェイ……おいフェイ、フェ…………」


 何度か揺すってみる。フェイは、目を開けなかった。


 「フェイーーーーーッッッ!!」

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