第16話・地獄と戦う覚悟
「な……なんだよ、これ……」
うねうねと動く大量の木。木は多くの兵士を貫いており、床は血で満ちていた。
この階層にほとんど兵士がいなかったのは、みんなここで死んだから……なのか?
「……こんな、ひどい……」
「蒼吾、フェイ!あれを!」
ガイが指差す方向には、血だまりの中に倒れているリュウキとシキの姿が。
俺は慌てて駆け寄り、必死に呼びかけた。
「おい、リュウキ!大丈夫か!しっかりしろ!!」
身体を揺さぶると、少しずつリュウキの目が開いていく。
「ぅ……お前、は……?」
「よかった、生きてる……!」
本当に小さい声だけど、リュウキはなんとか話せるみたいだ。ゆっくりと起き上がるリュウキの身体を見ると、特に傷ついた様子はなかった。
この惨状を見て、気絶したってところか?
リュウキはしっかり意識を覚醒させたのか、俺達を驚いたような目で見ていた。
「……お前達、なぜここに」
「ちょっと事情があってねー。ま、その辺の説明は後で蒼吾から聞いてよ」
「俺に丸投げかよ! ……なあリュウキ、なんでこんなことに?」
「ハッ……! そうだ、まだイズモ様が……! お前達、今すぐに逃げるんだ!」
「なんだと?」
「イズモ様はもう……手遅れだ……!」
リュウキが言い終えた次の瞬間。
波を打つように動く、先の尖った木が、俺達を捉えていた。
「させるか!」
リュウキが血だまりの中から槍を拾い、襲いかかる木を退ける。
「これは……!?」
「……この木の一本一本が、私達を殺す意志を持っている。ここから逃げなければ、本当に死ぬぞ!」
「イズモを止めればいいんじゃないのか?」
「無理だ。奴の側には、まだ……」
リュウキが玉座に槍を向ける。向けられた槍の先には、緑色の髪の女と……。
顔以外の部分が全て木に覆われている、白い髪の女の子がいた。
「あれが、イズモ……!?」
「隣にいるのが、占い師か?」
そう言うと、緑色の髪の女……占い師が手を上げる。
「ハァーイ! 占い師でーす!」
この状況に全く合わない笑顔を浮かべながら手を振る、占い師。
ふとリュウキを見ると、歯を食いしばりながら震えていた。
「ミデハぁぁぁ……!!」
ミデハ? どこかで聞いたことがあるような……。
そうだ! ハマシブキでガイが戦った、リザルカが言ってたんだ!
『あとはミデハに任せるとしましょう。それでは魔女と契約者、ガイ殿。またお会いしましょう』
七眷龍のリザルカが任せると言っていたなら、こいつは……!
「お前も七眷龍だな!」
「ご名答〜! 七眷龍が一人、緑龍・ミデハちゃんで〜す! よろしくね〜!」
この状況は、あいつが……ミデハが作ったものなのか。
汚いやり方だ……!
「イズモちゃんはぁ〜わたしの忠実なしもべになっちゃったの〜! 早く逃げないと、あなた達も死んじゃうよ〜?」
「こいつっ……!」
確かにこいつの言う通りだ。このままじゃ、全滅する。
だからってどうすればいいのか。作戦なんて、全く思いつかない。
そんな時、リュウキが俺達の一歩前に出た。
「私が食い止める。お前達は、逃げろ」
「なっ……何言ってるんだ、リュウキ!」
「あんなバケモンに一人で突っ込んだら、間違いなく死ぬわよ!?」
「私は……守るべき主君を守れなかった。ならば、まだ生きている人間は、せめて……!」
俯くリュウキ。俺はその表情を見て頭に血が上った。
リュウキの胸倉を掴み、向き直る。
「ふざけんな!お前が死んで、俺達が生き残ったって、いいことなんか何もないんだよ!!主君が死んだからって、後を追うみたいな真似すんな!主君が死んだなら、主君の分まで、死ぬ気で生きろ!でも死ぬな!!」
「それに、俺達が逃げてしまったら、ツキノミヤの人間はどうなる?」
「もう後になんて引けないのよ。ここにいる以上ね」
「なあリュウキ。一人で諦めるにはまだ早いだろ?一緒に生きて、生きて、それでもどうにもならなかった時に、一緒に諦めようぜ」
「……私は……」
震えるリュウキ。そんなリュウキに、フェイは優しく声をかけた。
「リュウキさん。イズモさんはまだ死んではいません。そして……助ける方法が、ない訳ではありません。」
「なに……!?」
「ほんとか、フェイ!?」
いつになく真剣な表情を見せるフェイ。その手には、小さい刀が握られていた。
「それは?」
「……見ていてください」
フェイはそう言うと、地面の木に刀を突き刺した。すると、紫色に染まっていた木から、紫の部分だけが消えていく。
「これって……!?」
「傷を治す、癒しの魔法とは少し違う……蒼の魔女だけが扱える、一部の事象を捻じ曲げる力」
「事象を、捻じ曲げる……?」
「分かりやすく例えると、病気にかかってしまった人の病気を、無かった事にする力……でしょうか」
「つまり……イズモが生み出す木が持っている毒を、打ち消せるのか?」
「すげーじゃん!これなら……!」
「やれるかもしんないわね」
「けど、一本一本にその力をやってたんじゃ、ラチがあかないよな?」
「はい。ですから……イズモさんから毒を取り除けるだけの力を込めた武器を、今から作ります。ですが、時間がかかってしまうんです」
「なんだ、そんなこと!」
武器を構える俺とガイ、そしてリュウキ。
「絶対守ってやる。だから安心して、武器作っててくれ!」
「……はいっ!」
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木が俺達の前に群がる。
そんな中、フォルティスだけが武器を持っていないことに気づいた。
「フォルティス、まさか丸腰で……?」
「んな訳ないでしょ、アタシにもちゃんと武器はあるわよ。────術式展開」
フォルティスが唱えると、両腕に文字のようなものが浮かび上がってくる。
すると、何もない空間から黒く光るモノが出てきた。木製の持ち手から始まり、段々と細長くなっていくような形の武器。その先端には小さい穴が開いていた。
「どこから出したんだ、それは……」
「フェイちゃんとはちょっと違うけど、これも武器を生み出す魔法みたいなもんかしら?ほら、援護してやるからとっとと行った行った!」
なんか釈然としないけど、戦ってくれるならそれでいいか。
イズモ……絶対、助けるからな!
「よし……! フェイの武器が完成するまで、みんな死ぬなよ!」
「お前こそな」
「イズモ様……なんとしても救い出す!」
「さぁーて、魔物退治といきますか!」
フォルティスの攻撃によって、戦いの火蓋が切られる。
こんな不気味な木なんかに、負けるもんかよ!!
フェイの能力は、ゲームで言うデバフ解除と同じです。つまり、HPは回復させられません。治せるのは外傷と、病気のみ。
出血は止められても、出血によって失った血は、取り戻せません。




