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ドレッドノート  作者: 岩裂根裂
第2章・平和を脅かすもの
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第14話・太陽の届かない場所、緑龍の策謀

 「君達を、拘束する!」


 「は……はぁ!?」


 突然やってきた、ツキノミヤの警備隊を名乗る連中に、俺達は拘束される?

 状況が全く飲み込めないぞ。リザルカってやつが襲ってきたのにも納得してないってのに。


 「なぜ俺達が拘束される?教えてくれないか」


 ガイが一歩前に出て、槍を持つ男……リュウキに質問する。けど答えたのは、リュウキの隣にいる、髭を生やした一人の男。逆手に持つ剣を揺らしながら、男が歩いてくる。


 「最近ツキノミヤに現れた占い師がこう言った。紋章を持つ少年と傍らにいる少女は、この大陸に災いをもたらすとな。あの占い師は信じられなかったが……どうやらその通りだったようだ」


 占い師?災い?

 また訳の分からない単語が出てきた。


 「しかし、シキ……拘束しろとは言われたが、こんな子供達が、町の人間を襲ったのか?俺は信じられん」


 「事実はどうあれ、イズモ様が拘束を命じたんだ。自分達は従うしかないよ。それにイズモ様は、あの占い師を随分と信用しているようだからね」


 会話を終えて、顔をしかめるリュウキ。その手に握られた槍を俺達に向けながら、ゆっくりと歩いてくる。


 「すまないがついて来てもらうぞ。大丈夫、抵抗しなければ危害は加えない」


 「ふざけんな!訳も分からず連れてかれてたまるか!」


 「……どうするつもりだ、少年」


 「押し通るに決まってんだろ!」


 天蒼刀を構えて、リュウキに走って向かっていく。けど────。


 「遅い!」


 「なっ……!」


 俺が突き出した刀は簡単に弾かれ、町の床に刺さる。首元に槍を当てられ、俺は動けなくなってしまう。


 「蒼吾さん!」


 「近づかないでもらおう」


 俺のところに行こうとしたフェイ。ガンビットを構えて走り出したけど、その動きは、髭の男……シキに止められてしまう。

 今の俺は人質みたいなもの。俺がいる限り、ガイも動けない。


 「槍に刀で勝つには、相当の技量が必要だ。今の君では、何度やっても結果は同じ。さて、どうする?」


 「く……くそっ……!」


 左手に持つ刀を地面に落として、へたりと腰を落とす。そんな俺を見て、リュウキは一言。


 「……すまない」


 そう言って歩いていく。

 周りの兵士達に指示を出したようで、俺の周りを兵士達が取り囲む。天蒼刀も取られた。

 俺達は、負けた。

 でも、そんな俺達を、町の人が助けてくれようとしたんだ。


 「ちょっと!待ちなさいよ!」


 「全く軍の連中はよぉ!子供を寄ってたかっていじめやがって!」


 「そうよそうよ!そっちの大剣のお兄さんなんか、アタシを助けてくれたんだから!」


 騒ぎ立てる町の人達。俺達をなんとか助けようとしてくれているのが分かると、胸の奥が熱くなった。

 そんな町の人達を、シキが一喝する。


 「黙れ!!」


 一転して静まり返る、ハマシブキの町。

 シキは続けて言う。


 「これ以上邪魔をするなら、自分達にも考えがある。イズモ様に進言し、この町に住めないようにしてやる事だって出来るんだ」


 冷たい目つきで町の人達を睨むシキ。

 俺も思わず震えてしまうくらいの威圧感だった。

 町に住めなくなる。そんな事を言われては、兵士のやり方に口など出せない。

 これ以上町の人に迷惑はかけられない。そう思っていると、拘束から抜け出したフェイが笑顔で言う。


 「大丈夫です、皆さん。またいつか戻ってきます。私の姉を一緒に探してくれて……ありがとうございました」


 この人達は、俺とフェイの話を聞いて、親身に接してくれたんだ。

 そんな人達を困らせたくない。フェイの優しい気持ちからくる言葉に、俺は少しだけ悲しくなってしまった。

 俺達の旅、こんな結果で終わるのか……?


 兵士が俺達を馬車に乗せる。

 馬車がツキノミヤへの道を進む間、俺達は何も話せなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「着いたぞ。降りてくれ」


 馬車が止まり、リュウキに降車を促される。

 見上げるとそこには……。


 桜都の名前にぴったりの、綺麗な桜の木が咲き誇る都があった。

 ……こんな気分じゃなかったら、素直に喜べたんだけどな。


 「ついて来い」


 俺達は町ではなく、裏道を通って城の地下へと連れていかれた。

 さらし者にはしたくないっていう配慮とかかな……なんて考えていると、薄暗い通路にたどり着く。

 数本のろうそくに照らされる鉄格子。俺達はずっと、ここで過ごしてくのか……。


 「……イズモ様への報告が終わったら、呼びに来る。大人しくしているんだぞ」


 そう言って去っていくリュウキ。不気味な薄暗い空間に取り残された俺達は、同時にため息をつく。


 「「「はぁ〜っ……」」」


 「まさかこんな事になるなんてなぁ」


 「ああ。捕まるとは思わなかった」


 「私達、これからどうなるんでしょうか……」


 「怪しいのは、占い師だ。そいつがイズモ様によからぬ事を吹き込んだんだろう。今までシンガジマ大陸が平和だったのは、イズモ様のおかげだからな……」


 「とにかくなんとかしてここから出よう!占い師ってやつには色々と聞いてやらないとな」


 俺達は立ち上がり、何かないかと壁や床に手を当ててみる。

 そうしていると、壁で隔てられた隣の部屋から、声が聞こえてきた。


 「あー無理無理。脱出する方法なんてないわ。大人しく待っときな」


 さっきまでは気配だって感じなかったのに……。

 とりあえず、情報を交換してみることにした。


 「俺、高槻 蒼吾。あんたは?」


 「アタシはフォルティス、フォルティス・トゥード。あんたらより前に、ここにぶち込まれた、カワイソーなお姉さんよ」


 ニヒヒ、と笑いながらそう言って、壁にもたれかかるフォルティス。


 「俺はガイ。一つ聞かせてくれ、なぜ捕まっている?」


 「持ってる荷物が怪しい、ってだけで牢屋行きよ。迷惑しちゃうわよねぇ……あんたらも、冤罪で入れられたクチ?」


 「私達もよく分かっていないんです。占い師という方が怪しいという事は分かっているんですが……」


 「占い師……あー、あの緑の髪の女ね。ま、とにかく脱出は無理よ。今はね」


 「……今は?」


 「もうしばらく待ってれば、その占い師のボロが出るはずよ。だから今は下手に動かない。何かが起きるまでは、ね」


 フォルティスは意味深な発言を残すと、隣の部屋から寝息が聞こえてくる。寝るの早いな……。

 納得いかなかったけど、脱出する方法が無いっていうのは嘘じゃないみたいだ。

 俺達も壁にもたれかかって、少し休む事にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ハマシブキでは悪かったな、シキ」


 「気にしないでくれ、リュウキ。軍師なんていうのは、役回りが損なくらいがちょうどいいのさ」


 「だがああしなければ、兵士達が何をしていたか……本当に助かったぞ」


 「止してくれよ……」


 桜都ツキノミヤの王宮をシキと並び歩く。

 そんな私の心は、揺れていた。


 「今回の拘束命令、他大陸への侵攻準備……あの占い師が来てから、イズモ様は変わってしまわれた」


 「そうだな……けど、自分達の役目は変わらない。ただイズモ様をお支えするだけだ」


 「しかし、あの占い師は危険だぞ!」


 「分かっている。けど今の状態も、いずれ占い師が動く時までだ。少しだけ、辛抱してくれ」


 「……分かった。お前の判断を、信じよう」


 「助かるよ、リュウキ」


 シキは頭が切れる。だからこそ、ツキノミヤ全体を管理する軍師の名を授かっている。

 勇のリュウキ、智のシキ。私達はツキノミヤにおいてそう呼ばれており、その名に誇りを持っていた。

 だが今は違う。

 従いたくもない命令に従い、ただ戦い、ただ練兵する日々。

 このような場所で……私の信じる正義など、貫けるはずもない。

 シキも同じ考えのはずだ。

 あの占い師が来てから……イズモ様も、私達の生活も、変わってしまった。


 考えていると、イズモ様がいる謁見の間をたどり着く。


 「失礼します!リュウキ・ツカサ、入ります!」


 「シキ・シホウ、入ります。魔女とその契約者の拘束に成功した旨を、ご報告に参りました」


 私達が部屋に入ると、目を細める占い師と、玉座にお座りになっている白い髪の小さい女の子がいた。……彼女こそが、イズモ様だ。

 シキと二人、首を垂れながら座る。


 「うむ。大儀であった。では二人には引き続き、軍備強化を命ずる」


 イズモ様は見た目こそお若いが、かなりの高齢だと聞く。ツキノミヤに伝わる秘術により、お若い頃の姿を保てているのだとか。

 ────今はどうでもいい事だったな。

 まずは真意を問いただす。ここ最近はイズモ様にお会いする機会も少なかった。魔女拘束を終え、ようやく拝謁が叶った。


 「イズモ様。私達が拘束した、魔女と契約者。彼らは、まだ小さい子供でした。そして、災いをもたらすと占い師殿は仰っていましたが、私にはとてもそうは見えませんでした。イズモ様のご意見をお聞かせください」


 「そんな事、あなたが知る必要は……」


 「口を挟まないでもらおう、占い師殿。私はイズモ様に聞いている」


 私の言葉に、苛立った様子を見せる占い師。

 奴がイズモ様から離れれば、すぐにでも動けるものを……。

 そして、イズモ様が口を開く。


 「お前達はただ、妾の命に従っておればよい。一兵士が王に意見を述べるなど…」


 だが、イズモ様は話すのを突然やめる。

 震えている……?何か、様子がおかしい。

 そんな中、占い師がイズモ様から離れていく。


 「あらら……もう限界みたいね。シンガジマが滅ぶとこ、見てみたかったけど……」


 「シンガジマが滅ぶ……!?何を言っている占い師!」


 「キャハ!私、ほんとは占い師なんかじゃないわよぉ。私はぁ〜……」


 纏っていた気配を、異質なものに変えていく占い師。


 「七眷龍の一人、緑龍・ミデハちゃん!よろしくねぇ〜」


 「七眷龍、だと?」


 「そ!……あ〜、ちなみにイズモちゃんにはね〜。ちょっと特殊なお薬を打ち込んじゃったの。だからぁ〜」


 イズモ様が立ち上がる。目は虚ろで、何かうわごとのようなものを呟いている。


 「シンガジマ大陸が滅ぶまではいかないけど、ツキノミヤは滅んじゃうかも〜!キャハハ!」


 人の笑い声にここまで苛立ったのは初めてだ。このような者が『龍』を名乗るなど……!


 「ミデハ、貴様……!!」


 「リュウキ!奴の事はいい、まずはイズモ様を!」


 「ハッ……そうだ!イズモ様!」


 イズモ様の元に駆け寄る。イズモ様はぜぇぜぇと息を切らしていたが、まだ意識はあるようだ。


 「リュウ……キ……シ、キ……にげ……」


 「何を……!?」


 「逃げろぉぉぉぉぉあああアアアアアア!!」


 イズモ様が叫ぶと、彼女の身体から大量の木が溢れ出てくる。

 なんだこれは……!?


 「イズモ様!!」


 「緑龍ミデハ……やってくれたな……!」


 おぞましい姿へと変貌してしまったイズモ様。

 私達はその姿を見て、ただその場に立ち尽くす事しか出来なかった。

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