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ドレッドノート  作者: 岩裂根裂
第2章・平和を脅かすもの
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第11話・青空の下、出会ったもの

 ソムラから出て、それなりの時間が経った。

 ふと後ろを振り返ってみると、俺達の故郷がもう、うっすらと見えるくらい小さくなっていた。


 「俺、こんなにソムラから離れたの、久しぶりだ」


 「自警団の見回りじゃ、ここまで来ないからな。俺もここまで来るのは久しぶりだ」


 たまーに他の村に行くガイの背中にくっついてったり、父さんの鉱石発掘を手伝ったり。ハマシブキやツキノミヤなんかにも、野菜を売るのについて行ったりもしたな。

 おつかいのような、散歩のような……とにかく、冒険なんて言葉とは程遠かった。


 けど今は違う。


 俺はフェイとガイと一緒に、旅に出てる。

 この旅の途中で何が起こるのかが、全然分からない。どんなやつと出会うのかも分からない。

 ソムラにいた頃は全然なかった、なんていうか、身体が疼く感じ。

 今の俺は、ワクワク感を全身に纏っていた。


 「俺、どんなもんが見れるのか、今からすっげー楽しみだ!」


 「おいおい、先に言っとくが、これは人探しの旅なんだぞ」


 「でも折角なら、景色を楽しみながら旅、したいですね」


 フェイが俺の意見に賛成してくれる。やっぱフェイは旅の醍醐味を分かってるぜ!

 俺は旅すんの初だけど。


 「まぁ……フェイにとっては、初めての旅だからな。仕方ない、俺も少しは、景色を楽しみながら行くとするか」


 まったく、素直じゃないんだ、ガイって。

 でも景色を楽しもうって言ってくれて、嬉しかった。

 どうせ一緒に旅するなら、同じ気持ちで行きたかったんだ。

 俺は嬉しい気持ちを顔全体で表現しながら、また歩き出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「さて、そろそろ次の村に着くな」


 ガイが地図を取り出し、俺とフェイに見せる。


 「俺達が今いる場所は、ソムラから約一時間の地点。このまま進めば次の村、ミヤビを経由して、日が暮れるまでにはハマシブキに到着できる」


 「交易拠点の港町、ですね」


 「そうそう!フェイ、ハマシブキってすげーんだ!海が綺麗で、魚料理が美味くて、そんでそんで!」


 「こらこら、行く前に全部話したらつまらないだろう……着いてから話してやれ」


 やってしまった。フェイの初めての景色、俺が奪っちゃうところだった……。


 「ごめんな、フェイ」


 「いえ、気にしないで下さい。蒼吾さんがそんなにも凄いって言うハマシブキ……私、もっと楽しみになっちゃいました」


 笑って許してくれたフェイ。こんな時でもフェイは優しい。

 むしろいい感じに話がまとまった。早くフェイに、ハマシブキを見せてやらないとな。

 俺は先頭に立って、進む方向を指差す。


 「よっし!善は急げだ、ハマシブキ……の前に、ミヤビに出発だー!」


 「出発です!」


 「全く……」


 走り出す俺の後ろを、笑顔でついてくるフェイと、呆れたように笑うガイ。

 この三人なら、どんな時も楽しく旅できる気がした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ソムラとよく似たのどかな村、ミヤビに到着。

 この村の周辺は薬草なんかが多めに採れる。店に並ぶのは、ほとんどが薬。

 一回風邪を引いた時は、ここの薬に世話になったなぁ……めちゃくちゃ苦かったけど。


 俺達は傷薬なんかを調達して、ミヤビを後にした。

 時間はちょうど昼時。野菜をたっぷり挟んだパンを食べながら、再びハマシブキへの道を行く。

 けど、ガイが突然足を止めた。俺は気になって、ガイに声をかける。


 「ガイ?」


 「気配だ。誰かいる」


 「野盗か!?」


 鞘から天蒼刀を抜き、構える。フェイもガンビットを展開し、ガイも大剣を構え、鋭い目つきで草むらを睨みつけていた。


 「いるのは分かっている、出て来い!」


 ガイの声を聞いて、草むらが震える。そしてぞろぞろと、二人の男と一人の女の子が現れた。


 「ちッ……待ち伏せがバレたか」


 「だから普通に頼みましょうって言ったのに〜リーダーのバカ〜」


 「そっすよーこの人ら優しそうじゃないっすかー!土下座すれば分かってくれたっすよー!」


 「ええいうるさいうるさい!黙って従え!」


 上から、目つきの悪い男、背の低いとんがり帽子の女の子、細い身体つきの気弱そうな男。

 俺達に何かを頼むつもりで、わざわざ待ち伏せてたのかな?

 そんな中、目つきの悪い男が俺達を指差して名乗りを上げる。


 「お前ら!俺達は盗賊ギルド百鬼ひゃっき!!……の、新入り……だ!命が惜しいなら、食料を寄越せ!」


 「百鬼の名、怖いでしょ!?ほら、大人しく食料を渡してほしいっす!」


 「私達〜昨日から何も食べてないんです〜どうかお情けを〜」


 リーダー格の目つきの悪い男はやたら威張り散らし、身体の細い男は腰が引けている。とんがり帽子の女の子はぺこぺこと頭を下げている。

 俺はその様子を、なんていうか、見てられなかったっていうか。

 三つ買ったパンのうち二つを、三人に渡してやる。


 「ほら。これでいいか?」


 「えっ……い、いいのか!?」


 目つきの悪い男がガクッと足を崩し、俺に跪くような姿勢になる。他の二人も食い入るようにパンと俺を交互に見ていた。

 この視点、なんか気分がいいぞ。


 「俺たち、百鬼なんてギルド知らないけど……なんかあんたらは、悪いやつに見えなくてさ。よかったら、もらってよ」


 「あ、ああああ、ありがとうございます!!このご恩は一生忘れません!!」


 「旦那、最高っす!!大事に食います!!」


 「旅人さ〜んありがとうございます〜」


 男二人と女の子が土下座しながら、後ろに下がっていく。器用だな……。

 振り返ると、呆れたように笑うガイと、ニコニコと笑顔を浮かべるフェイの姿。


 「全く……お人好しだな、お前は」


 「そこが蒼吾さんのいいところですよ」


 「だってあいつら、悪いやつには見えなかったんだ。それに、メシならハマシブキでも食えるだろ?」


 「まぁそうだが……見ず知らずの人間に、あまり善意を振り撒きすぎるなよ。そこにつけこむ奴もいる。あの三人はそういう心配はなさそうだが、他の奴は分からん」


 「なんだよ、説教か?」


 「助言だ。もうすぐ日も暮れる、ハマシブキに急ぐぞ」


 そう言って、ガイは先に行ってしまう。

 ガイの言ってる事は分かるけど、なんか、胸のモヤモヤ感が消えない。

 そんな俺に、フェイが優しく声をかけてくれる。


 「私は、蒼吾さんの行いは正しいと思います。ガイさんだってきっと、蒼吾さんが自分の友達で、誇らしいと思ってくれていますよ」


 「そうかな……俺には、怒ってたように見えたんだけどな」


 「心配なんですよ、蒼吾さんの事が。そうじゃなければ、あんな風に言ったりしません。ただ、わし達に相談くらい、して欲しかったですね。私達は仲間なんですから……」


 「あ……」


 そうか。俺一人で、勝手に決めちゃったから。

 俺にはちゃんと、仲間がいるのに……。

 フェイを連れて、足早にガイを追う。

 かなりゆっくり歩いていたのか、俺達を待ってくれていたのか。すぐに追いつく事ができた。


 「ガイ!」


 「……どうした?」


 「ごめん、俺……自分の考えだけで動いてた。次からはちゃんと、相談する!」


 「……そうか」


 ガイが俺の頭を乱暴に撫でてくる。ちらっと見たガイはなんだか晴れやかな顔をしていた、と思う。

 少し赤みを増してきた空と笑顔のフェイが、はしゃぐ俺とガイを見守ってくれていた。

盗賊三人組の名前は未定です。再登場する時までになんとか考えておきたいですね。


彼らはようやくありつけた食事を、とても幸せそうに食べていたそうな。

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