第11話・青空の下、出会ったもの
ソムラから出て、それなりの時間が経った。
ふと後ろを振り返ってみると、俺達の故郷がもう、うっすらと見えるくらい小さくなっていた。
「俺、こんなにソムラから離れたの、久しぶりだ」
「自警団の見回りじゃ、ここまで来ないからな。俺もここまで来るのは久しぶりだ」
たまーに他の村に行くガイの背中にくっついてったり、父さんの鉱石発掘を手伝ったり。ハマシブキやツキノミヤなんかにも、野菜を売るのについて行ったりもしたな。
おつかいのような、散歩のような……とにかく、冒険なんて言葉とは程遠かった。
けど今は違う。
俺はフェイとガイと一緒に、旅に出てる。
この旅の途中で何が起こるのかが、全然分からない。どんなやつと出会うのかも分からない。
ソムラにいた頃は全然なかった、なんていうか、身体が疼く感じ。
今の俺は、ワクワク感を全身に纏っていた。
「俺、どんなもんが見れるのか、今からすっげー楽しみだ!」
「おいおい、先に言っとくが、これは人探しの旅なんだぞ」
「でも折角なら、景色を楽しみながら旅、したいですね」
フェイが俺の意見に賛成してくれる。やっぱフェイは旅の醍醐味を分かってるぜ!
俺は旅すんの初だけど。
「まぁ……フェイにとっては、初めての旅だからな。仕方ない、俺も少しは、景色を楽しみながら行くとするか」
まったく、素直じゃないんだ、ガイって。
でも景色を楽しもうって言ってくれて、嬉しかった。
どうせ一緒に旅するなら、同じ気持ちで行きたかったんだ。
俺は嬉しい気持ちを顔全体で表現しながら、また歩き出した。
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「さて、そろそろ次の村に着くな」
ガイが地図を取り出し、俺とフェイに見せる。
「俺達が今いる場所は、ソムラから約一時間の地点。このまま進めば次の村、ミヤビを経由して、日が暮れるまでにはハマシブキに到着できる」
「交易拠点の港町、ですね」
「そうそう!フェイ、ハマシブキってすげーんだ!海が綺麗で、魚料理が美味くて、そんでそんで!」
「こらこら、行く前に全部話したらつまらないだろう……着いてから話してやれ」
やってしまった。フェイの初めての景色、俺が奪っちゃうところだった……。
「ごめんな、フェイ」
「いえ、気にしないで下さい。蒼吾さんがそんなにも凄いって言うハマシブキ……私、もっと楽しみになっちゃいました」
笑って許してくれたフェイ。こんな時でもフェイは優しい。
むしろいい感じに話がまとまった。早くフェイに、ハマシブキを見せてやらないとな。
俺は先頭に立って、進む方向を指差す。
「よっし!善は急げだ、ハマシブキ……の前に、ミヤビに出発だー!」
「出発です!」
「全く……」
走り出す俺の後ろを、笑顔でついてくるフェイと、呆れたように笑うガイ。
この三人なら、どんな時も楽しく旅できる気がした。
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ソムラとよく似たのどかな村、ミヤビに到着。
この村の周辺は薬草なんかが多めに採れる。店に並ぶのは、ほとんどが薬。
一回風邪を引いた時は、ここの薬に世話になったなぁ……めちゃくちゃ苦かったけど。
俺達は傷薬なんかを調達して、ミヤビを後にした。
時間はちょうど昼時。野菜をたっぷり挟んだパンを食べながら、再びハマシブキへの道を行く。
けど、ガイが突然足を止めた。俺は気になって、ガイに声をかける。
「ガイ?」
「気配だ。誰かいる」
「野盗か!?」
鞘から天蒼刀を抜き、構える。フェイもガンビットを展開し、ガイも大剣を構え、鋭い目つきで草むらを睨みつけていた。
「いるのは分かっている、出て来い!」
ガイの声を聞いて、草むらが震える。そしてぞろぞろと、二人の男と一人の女の子が現れた。
「ちッ……待ち伏せがバレたか」
「だから普通に頼みましょうって言ったのに〜リーダーのバカ〜」
「そっすよーこの人ら優しそうじゃないっすかー!土下座すれば分かってくれたっすよー!」
「ええいうるさいうるさい!黙って従え!」
上から、目つきの悪い男、背の低いとんがり帽子の女の子、細い身体つきの気弱そうな男。
俺達に何かを頼むつもりで、わざわざ待ち伏せてたのかな?
そんな中、目つきの悪い男が俺達を指差して名乗りを上げる。
「お前ら!俺達は盗賊ギルド百鬼!!……の、新入り……だ!命が惜しいなら、食料を寄越せ!」
「百鬼の名、怖いでしょ!?ほら、大人しく食料を渡してほしいっす!」
「私達〜昨日から何も食べてないんです〜どうかお情けを〜」
リーダー格の目つきの悪い男はやたら威張り散らし、身体の細い男は腰が引けている。とんがり帽子の女の子はぺこぺこと頭を下げている。
俺はその様子を、なんていうか、見てられなかったっていうか。
三つ買ったパンのうち二つを、三人に渡してやる。
「ほら。これでいいか?」
「えっ……い、いいのか!?」
目つきの悪い男がガクッと足を崩し、俺に跪くような姿勢になる。他の二人も食い入るようにパンと俺を交互に見ていた。
この視点、なんか気分がいいぞ。
「俺たち、百鬼なんてギルド知らないけど……なんかあんたらは、悪いやつに見えなくてさ。よかったら、もらってよ」
「あ、ああああ、ありがとうございます!!このご恩は一生忘れません!!」
「旦那、最高っす!!大事に食います!!」
「旅人さ〜んありがとうございます〜」
男二人と女の子が土下座しながら、後ろに下がっていく。器用だな……。
振り返ると、呆れたように笑うガイと、ニコニコと笑顔を浮かべるフェイの姿。
「全く……お人好しだな、お前は」
「そこが蒼吾さんのいいところですよ」
「だってあいつら、悪いやつには見えなかったんだ。それに、メシならハマシブキでも食えるだろ?」
「まぁそうだが……見ず知らずの人間に、あまり善意を振り撒きすぎるなよ。そこにつけこむ奴もいる。あの三人はそういう心配はなさそうだが、他の奴は分からん」
「なんだよ、説教か?」
「助言だ。もうすぐ日も暮れる、ハマシブキに急ぐぞ」
そう言って、ガイは先に行ってしまう。
ガイの言ってる事は分かるけど、なんか、胸のモヤモヤ感が消えない。
そんな俺に、フェイが優しく声をかけてくれる。
「私は、蒼吾さんの行いは正しいと思います。ガイさんだってきっと、蒼吾さんが自分の友達で、誇らしいと思ってくれていますよ」
「そうかな……俺には、怒ってたように見えたんだけどな」
「心配なんですよ、蒼吾さんの事が。そうじゃなければ、あんな風に言ったりしません。ただ、わし達に相談くらい、して欲しかったですね。私達は仲間なんですから……」
「あ……」
そうか。俺一人で、勝手に決めちゃったから。
俺にはちゃんと、仲間がいるのに……。
フェイを連れて、足早にガイを追う。
かなりゆっくり歩いていたのか、俺達を待ってくれていたのか。すぐに追いつく事ができた。
「ガイ!」
「……どうした?」
「ごめん、俺……自分の考えだけで動いてた。次からはちゃんと、相談する!」
「……そうか」
ガイが俺の頭を乱暴に撫でてくる。ちらっと見たガイはなんだか晴れやかな顔をしていた、と思う。
少し赤みを増してきた空と笑顔のフェイが、はしゃぐ俺とガイを見守ってくれていた。
盗賊三人組の名前は未定です。再登場する時までになんとか考えておきたいですね。
彼らはようやくありつけた食事を、とても幸せそうに食べていたそうな。




