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ドレッドノート  作者: 岩裂根裂
第1章・蒼の紋章
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第10話・始まりの夜明け、旅立ちの日

 「あなたの未来が永遠に輝くことを、祈っています」


 いつか夢見た景色。

 女神さんが、笑っている。

 その笑顔は、フェイによく似ていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「……んあ?」


 気の抜けた声を出しながら目を覚ます。

 いつもよりぐっすり眠れたはずなのに、どこか違和感を覚える。


 「いつもはこんなこと、ないのにな……?」


 寝ぼけた目をこすり、顔を洗い、着慣れた服を纏う。

 いつもと同じ目覚め。いつもと同じ朝。

 けれど今日は、いつもとは違う一日の始まり。

 階段を下りるとそこには────。


 「蒼吾さん、おはようございます」


 「おはよう、もうゴハン出来てるわよ」


 「おはようさん」


 父さんと、母さん。そして、フェイがいた。

 マジに新鮮な朝だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 明日は旅立ちの日。

 今日は、フェイにソムラを案内しようと思う。

 暇そうにあくびをしていたガイも誘って、三人でソムラを練り歩く。


 「さーてフェイ、なんか見たいもんとかあるか?」


 「ほとんどが初めて見るものなので……あっ! あれはなんですか?」


 フェイが目をキラキラ輝かせながらこちらを見てくる。指差す方向には、コッコッコッと鳴く、二匹の鳥の姿。


 「あれはニワトリってんだ。昨日の夕飯に、たまごってあったろ? ニワトリが、あれを産んでるんだ」


 「へぇ……口からたまごを吐き出すんですか?」


 「いや、尻から」


 「お尻から!はぇ〜……すごいです、宇宙の神秘です」


 宇宙関係あるか?

 フェイからしたら、ニワトリの産卵は神秘的みたいだ。


 「あのモーモーと鳴いてるのは……?」


 「あれはウシだな。ウシの乳を絞って出てくる飲み物は、健康にいい。飲んでみるか?」


 「は、はい。では少しだけ……」


 ガイがフェイに白い液体の入ったコップを渡す。恐る恐る液体を口にするフェイ。一口飲んでからハッとした顔になり、そのまま全て飲み干した。


 「こっこれ……美味しすぎます!」


 気に入ってくれたみたいで何より。

 俺も牛の乳は大好きだ。だって背が伸びるから!


 それからは農具の説明や、農作業の手伝いなんかをしていた。

 フェイは餌やりを一番気に入っていた。


 しばらく歩いていると、村の子供達に囲まれる。

 やっぱフェイは気になるよな。母さん達とは違う、いわゆるお姉さんだから。


 「おねーちゃんあそんでー!」


 「え、えっと……蒼吾さん、ガイさん、助けて〜」


 オロオロしながら助けを求めてくるフェイ。なんだか新鮮だ……今日一日、フェイの表情がコロコロ変わりまくってる。


 「そうだフェイ、あの人形を出せば?」


 「人形? ……あっ」


 思い出したように握り拳を作るフェイ。ポン!という音とともに、人形が出てくる。


 「わーすげー!」「どうやったのー!?」


 子供はとても喜んでいる。フェイもそれを見て笑っている。


 「ムラオサさんの家では見せませんでしたが、こんな事も出来ますよ。えい!」


 フェイの指から小さな光が放たれ、光が人形に吸い込まれていく。すると。

 カシャカシャと音を立てて、人形が動き出した!すげえ!

 子供達も俺と同じような反応をしている。あれは面白いだろーな……。


 「大人気だな、フェイ」


 「あったり前だろ! フェイの魔法はすげーんだから!」


 「なんでお前が誇らしげなんだ」


 冷静にツッコミを入れられてしまう。子供にフェイが取られて悔しかったんだぁ。

 そのまま子供達とひとしきり遊び、村のみんなにもフェイの魔法を披露する。

 今日一日、俺もフェイもみんなも、ずっと笑っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「俺、旅に出る。フェイについてくよ」


 時間が経ち、夜。夕飯の時間、俺はフェイと旅に出る、と両親に言う。

 怒られるかも。行くなと言われてしまうかも。俺はこの時正直、怖かった。

 けど父さんも母さんも、笑っていた。


 「ああ。行ってこい」


 「……え?それだけ?」


 「あなたももう15歳よ?旅に出るくらい止めないわ。まぁ、心配だけど……フェイちゃんがいるし、大丈夫でしょ」


 「ちがっ! 俺がフェイを守るためについて行くんだよ!」


 「はいはい。おかわりいる?」


 「誤魔化しやがった!」


 「フェイ。ウチのバカ息子を、よろしくな」


 「ふふ……はい! 任せてください」


 「フェイまで……俺、そんなに頼りないかぁ?」


 食卓に笑いが起きる。

 もっと色々と言われると思ってたけど、父さんも母さんも旅に出ることを快く許してくれた。


 これで俺も、旅に出られる。

 夢を目指せるんだ!

 ……そういえば、ガイはどうするんだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 悩んでいた。とても。

 明日、蒼吾とフェイはソムラを旅立ってしまうらしい。フェイの姉を探す旅、だそうだ。

 俺も、ついて行きたい。だが、母さんが許してくれるかは分からない。悩みの原因はこれだ。

 けど、あの二人なら。

 二人だけでも、なんとかやっていけるんじゃないか?俺は必要ないんじゃないか?そんな考えが頭をよぎる。


 「俺はどうしたら……」


 「ついてきゃいーじゃない」


 何者かに頭を叩かれる。

 振り返ると、そこには眠そうな顔をした母さんが立っていた。


 「母さん!?」


 「あんたが悩んでるのくらいお見通しだっての。蒼吾君と、フェイちゃんだっけ?行っちゃうんでしょ。あんた、何をウジウジ悩んでんの」


 「……俺は……」


 「送り出す側になって、それであんたは後悔しないの?」


 「……!」


 「母さん」


 「ん」


 「しばらく帰ってこれない」


 「ん」


 「危険な旅だ。命を落とす可能性もあるかもしれない」


 「……ん」


 「だから……母さん。俺がいなくなっても大丈夫なように、今日から家事を頑張ってくれ」


 「旅立つの最後の前の挨拶がそれかい、バカ息子」


 母さんな吹き出す。

 重苦しい空気がなくなり、俺も少し笑う。


 「……ま。村とあたしのことは心配しないで、行っといで」


 「ああ。……母さん」


 「ん?」


 「行ってきます。それと、ありがとう」


 「……行ってらっしゃい、ガイ」


 荷物をまとめる。父親の大剣を、念入りに研ぐ。

 そんな俺の後ろ姿を、母さんは黙って見守ってくれていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 迎えた旅立ちの朝。今日も気分良く目が覚める。

 着替えて荷物を持って、リビングに行く。でも、父さんと母さんはいなかった。


 「別れの挨拶くらい、したかったな……」


 もっと早く起きるべきだったと悔やんでいると、フェイが降りてくる。


 「おはようございます、蒼吾さん」


 「おはようフェイ! じゃあ、行くか」


 「はい!」


 家のドアを開ける。外にはガイがいた。


 「ガイ!」


 「よう。蒼吾、フェイ……旅立つ日にいきなりですまん。俺も……ついて行っていいか?」


 何故か申し訳なさそうにガイが言う。イヤだなんて、言う訳ないのにさ。

 フェイと顔を見合わせて笑う。返事はもちろん。


 「おう!ガイがついて来てくれるなら、安心だ!」


 「ガイさんがいないと、なんだか落ち着きませんからね」


 「二人とも……ありがとう。ま、二人だけじゃあ危なかっしくて、見てられないからな」


 「一言余計だ!」


 折角ついて来ていいって言ってやったのに。まぁ、俺達のノリはこんなもんかな。


 村の入り口に行くと、そこには村のみんながいた。


 「みんな……!」


 「見送りに来てやったぜ、ガキども!」


 「その様子を見ると、サプライズ成功ってところじゃな」


 中には俺の父さんと母さん、ガイの母さんの姿もあった。


 「蒼吾、ガイ、フェイ殿。こんな見送りしかできなくてすまないな」


 「ムラオサ……気にしないでよ。それに、こんな見送りなんて言わないでくれ。めっちゃ嬉しいよ!」


 思わず涙ぐんでしまう。こんなの、ずるい。


 「いつでも帰ってこいよ」


 「ソムラはいつでも、あなた達の家だから」


 「無理すんじゃねえぞ!」


 「おなかこわさないでね!」


 「迂闊に拾い食いはせんことじゃ」


 みんなが見送ってくれる。こんなに嬉しい出発、他にないよな。


 「みんな……行ってきます!」


 「土産話を期待しててくれ」


 「皆さんのこと、絶対に忘れません。またここに帰ってきます!」


 ソムラの入り口をくぐる。俺達の冒険が、ここから始まる!


 いつかまた帰ってこよう。その時は、三人で祝福だ。

 まだ見ぬ未来に思いを馳せて、高槻 蒼吾、行ってきます!

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