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覚悟

作者: CLIP


高級クラブのママとして

そしてプライベートは20歳年上のヤクザ・牧野の愛人として

裕子は充実した毎日を送っていた。

高級マンションの最上階の部屋

身に付けるものすべてに一切不自由のない暮らし

牧野は優しく、毎日のように部屋を訪れては愛してくれていた

頻繁に通うエステや美容院

30歳になってもまったく崩れない身体も維持できるし

ブランド物のアクセサリーもバッグも電話ひとつで手に入る

それもみんな牧野から裕子への愛情だった。

もちろん、そんな生活も、牧野も、裕子は大事にしていた。

この暮らしがいつまでも続けばイイ、そう思っていた。

そう、あの日までは…。


出逢いは、今思えば陳腐だったかもしれない。

地方に出掛けた牧野に呼び出され、裕子はある地方都市に行った。

牧野と一晩、ホテルで過ごし、裕子だけまた東京に戻る時だった。

高速に向かう抜け道を行ったのがいけなかった。

何もない畑道で、裕子の運転する車がエンストしてしまった。

機械に詳しくない裕子にはまったくわからない。

修理工場に電話しても、来るまでに時間が掛かると言う。

「待つしかないのかなあ…」

裕子は車のそばで途方に暮れていた。

高速インターへの抜け道だけに、通り過ぎる車は少なくない

ただ、誰一人車を止めてまで手助けをしてくれようと言う車などなかった。

そこへ来たのが、正樹だった。

「どうしたんですか~?」

真っ黒に日に焼けた顔に白い歯が光り、泥だらけの作業着の正樹は

車を脇に止め、裕子に声を掛けてきた。

裕子が事情を話すと、正樹はすぐさまエンジンルームを開け、

首を突っ込んで見てくれた。

「バッテリーが上がってるだけですよ」

眩しいような笑顔で正樹はそう言い、自分の軽トラを近づけると

あっという間に問題を解決してしまった。

「ハイ、これで大丈夫…念の為、東京に帰ったら見てもらって下さいね」

裕子があっけに取られてると、また白い歯を見せて笑った。

「ナンバー、東京だから…それにあなたみたいな人、

こんな田舎にはいないですからね」


それから1時間後…裕子は正樹と向かい合って

『地元の人しか知らない』と言うお蕎麦屋にいた。

決してキレイとは言えないお店だったが驚くほど美味しかった。

裕子が素直にそう言うと、正樹は嬉しそうな顔をして言った。

「きれいな空ときれいな水、すべて天からの恵みが作ってくれるんです」

裕子にはまったく縁のない話だった。

ほとんどを室内で過ごし、夜中心の生活。

店を出て、そのまま散歩をした。

青い空、きれいな空気、豊富に涌き出ている水、輝く緑

ここでは、裕子が身に付けている

高級ブランドの服もアクセサリーも、まったく色褪せて見えた。

実家の農業を継ぎ、広大な畑を父親とやっていると言う正樹

「東京に行こうと思った事はないの?」

裕子の質問に、正樹は空を見上げながら言った。

「東京にこの空がありますか?」

ここで農業をして行く事に何の迷いもない、そんな晴れやかな顔だった。

「食べる事は生きる事。すべての基本です。そんな素晴らしい事を

仕事に出来て幸せだと思ってるから」

強がりでもなく、卑屈でもなく、本当に心からの気持ちなのだろう

裕子は、そんな正樹の笑顔をまっすぐに見る事が出来なかった。

「それに比べて私は…」

帰りの車の中でも、裕子はそんな事を考え続けていた。


あれは自然がただ珍しかっただけ、毎日いれば飽きてくるし嫌になるだろう。

東京でのいつもの生活に戻った裕子はいつしか自分にそう言い聞かせていた。

でも…

あの日以来、贅沢の限りを尽くす牧野からの愛情も

そんな愛情に囲まれた裕子の豪華な暮らしも、何となく色褪せて見える

そう、あの時、あの空の下で感じた気持ちと同じだった。

忙しくしている時は良かった、ただ一人になると心にぽっかりと

穴が開いたような、そんな寂しさを感じていた。

「あの空の下にまた行きたい。そして彼に逢いたい…」

裕子は自分の置かれている立場も忘れて、彼の事を思うようになっていった。

牧野が一週間ほど東京を留守にする、裕子は1日中あの空と正樹の事を思っていた

そして…店が終った真夜中の高速道路、裕子は車を走らせていた。

裕子の中の何かが、後の事も何も考えられないほど

大胆な気持ちにさせていたのだった。


突然訪ねて行った裕子を、正樹は笑って受け入れてくれた。

何も聞かずに、ありのままの裕子を見てくれた。

ただ、裕子は簡単に正樹の胸に飛び込んでいけない事情がある。

それは正樹も、そして裕子自身も嫌と言うほど理解していた。

正樹が裕子の事を、裕子が思うように必要としてくれているのか

そんな事は今はどうでも良かった、ただ側にいたい…

自分の心からの気持ちとして裕子はそれを貫き通したかった。

牧野がいない夜には、車を飛ばして正樹に逢いに行く

そんな日々をしばらく続けていた。


でも、いつまでもそんな事をしている訳にもいかない。

だったら気が付かれる前に…

牧野に話そう…今の生活すべてを捨てて彼の元へ行きたいと。

はい、そうですか、で済む問題じゃないと言う事は判っている。

牧野が彼に一切手を出さないように、自分がけじめをつけて行かないと…

裕子はどうすればいいか、そればかりを考えていた。

(殺される…?)

ふとそんな事を考えてもみた。背筋が凍るような思いがした。

でも…それならそれで仕方ない。

心の叫びに気が付いてしまった以上、もう今までの暮らしは出来ない。

だったら、死んでも魂になって彼の元へ行きたい。

あの空から彼を見ていたい。

裕子の願いは今、それしかなかった。


「なんだって…?」

牧野の顔色が変わった。

ここを出て、ある場所へ行きたい、ここにはもう戻らない。

裕子はただそう言うと、頭を下げた。

「ある場所…あの男の所か…」

牧野は知っていた。知ってて気が付かないフリをしていたのだ。

「熱もいつか冷めると思って知らん顔してたが…まさか本気とはな」

牧野は考え込んでいる。思ったより落ち付いているようにも見える。

「お願いします。今までお世話になっておきながら…

勝手とは判っています。でも…」

「東京のヒマな奥さんが勝手に遊びに来てる、

向こうは本気じゃないかもしれないんだぞ、それでも行くと言うのか?」

確かに、正樹に『待ってる』と言われた訳じゃなかった。

「そこがダメだからって、戻って来る訳にもいかない

そしたら君はもうどこにも帰る場所がなくなるんだぞ」

牧野との暮らしを選んだ時に、裕子は身内と決別した、

それから付き合いは一切なかった。

それでも裕子の決心は固い、ただ頷いているだけだった。


長い沈黙があった。そして牧野が口を開いた。

「俺にもどうしたらいいか判らないよ。こう言う時どうすればいいのか…」

お前が男だったら…牧野は話を続けた。

「半殺しにして、指でもつめて、落とし前を付けさせる

二度と普通の生活が出来ないように、薬でも使う事も出来る…」

裕子は黙って牧野の顔を見つめていた。

また長い時間が流れ、裕子はある決意をした。

「1時間ほどで戻ります…」

そう言うと静かに部屋を出て行った。


裕子はマンションを出て商店街を歩いていた。

5分ほど歩くと、裕子の目指す店があった。

赤と青と白のサインボールが回る店…床屋だった。

躊躇わずに店のドアを開けると中に入った。店には客はいなかった。

「いらっしゃいませ」

いきなり入って来た女性客に少し驚いたような顔で店主が言った。

「何か…?お顔剃りか何かですか…?」

黙って立っている裕子に店主が尋ねている。

「髪を切って下さい」

裕子は思いつめたようにそう言った。ただそれだけだった。

背中の中ほどまでの長い髪を、きれいにカールさせている裕子を見て

店主は驚いていた。こんなにキレイな髪をここで切れと?

そんな表情が見て取れる。

「は、はい…じゃあとりあえずこちらへ…」

それでも裕子のただならぬ表情に押されたかのように

店主はイスの方をさした。黒いがっちりとしたイス、

裕子が毎日のように通っていた美容院のそれとはまったく趣が違っていた。

「で、どんな感じにしましょうか…」

彼がカットクロスを広げながら聞いた。

長い髪を持ち上げて首の回りにしっかりと巻き付けた。


「丸坊主にして下さい」

裕子は鏡越しに、店主の顔をしっかり見据えてそう言った。

はっきりした口調だった。

「は、はい?今なんて?」

今自分が聞いた事がまったく信じられないと言った様子で聞き返す。

「丸坊主にして下さい」

裕子はもう一度同じ言葉を繰り返した。心に迷いはない。

「そんな事出来ません…」

何か恐ろしい事を言われたかのように彼は首を振ってそう言った。

ただの主婦にはとても見えないこの女性の髪を丸坊主にするなんて

簡単に引き受けてはいけない…

それは店主の勘であったけれど、長い時間客商売をやってきたと言う

そんな自信から来るものでもあった。

「事情はおありでしょうが、どうか考え直して…」

「事情があるから、やって欲しいんです。お願いします」

やんわりと断ろうとした彼の言葉を遮って裕子は更に頼んだ。

「どうしても…して欲しいんです。ご迷惑は掛けませんから」

店主はトラブルを恐れているのだろう、そう思った裕子は言った。

「で、でも…」

「だったら…バリカンを貸してください、自分でしますから…」

裕子は必死だった。自分だって…したい訳じゃない、でもこうするしか…。

沈黙の後、ようやく店主が口を開いた。

「わかりました、じゃあやりましょう」

裕子の必死な様子にとうとう根負けしてそう答えた。


いざ…あんなに必死に頼んでいたのに、いざOKされると

裕子は途端に怖くなった。勢いで来てしまったけれど

この長い髪を切り落として丸坊主になる…

鏡の中の自分の顔が見る見る不安気に変わっていくのが判る。

「じゃあばっさりやりますよ、いいですね…」

霧吹きで裕子の長い髪を湿らせながら店主がもう一度確認する。

「は、はい…」

不安な気持ちを悟られてはいけない。

「少し切らないとバリカン入れにくいかな…」

彼は裕子に話す訳でもなく独り言のように言いながらハサミを取り出した。

バリカンが入る…その言葉にまるで心臓を撃ち抜かれたような気がする

裕子はカットクロスの下でひじ掛けをきつく握り締めた。


長い髪に華やかなカールを加えた裕子の髪はかなりボリュームがある

その髪の、ちょうど顔の横に下がっている部分をひとつかみにすると

耳の下辺りにハサミを当てた。そして…

『ジャキッ…ジャキッ…』

一度に切る量が普通のカットの時より多いのだろう、

ハサミを何度か動かし思いきり切り落とした、と言う感じがする。

切り口が少しガタガタになっているような気もするが…

「ま、とりあえず短くするだけだから…」

裕子の気持ちを読んだかのように彼はまたつぶやいた。

切り落とされた長い髪…40センチくらいの髪の束…

を彼はそのまま床に落とした。

耳の下辺りでぷつんと不恰好に切られた髪が少し広がっている。

『ジャキッ…ジャキッ…』

裕子の動揺にはまったくお構いなく、彼は今度は耳の横

そして耳の後ろまで一気に切り進めていった。

あっという間に横の髪が短くなり、そして休むヒマもなく後ろの髪が掴まれた。

「あっ…」

思わず小さな声を上げそうになり裕子は慌てて口を閉じた。

『ジョキッ…ジョキッ…』

襟足ぎりぎりにハサミが入り、ちょっと引っ張られるように切られてしまった。

彼の手はどんどんスピードを増していく。

首が急に涼しくなったような、そんな気がしていた。

そして…反対側、最後に残っている長い髪を、

今度は一気に掴み、彼はジョキジョキと一気に切り落としてしまった。

どうせ坊主にするのだからこれでじゅうぶん…

まるでそんな事を言うかのような乱暴な切り方だった。

今までふんだんにお金をかけて大事に扱って貰っていた髪…

こんな乱暴な扱いで一瞬にして短く切られてしまうなんて。

裕子は改めて寂しさを感じていた。


「長さはどうしますか?」

髪を切ってしまった事で、少し気が大きくなったのか

彼は落ちついた様子で聞いて来た。

長さ…?

「丸坊主と言っても長さがあるんですけど…五分刈りくらいにしておきます?」

裕子にはそれがどれくらいの長さかも判らない。

「とにかく…一番短くして下さい」

ここまで来たら潔くするしかない、ただそんな思いだった。

「いいんですか?かなり短くなりますよ」

丸坊主と言うだけでかなり短いと思っている裕子には

そんな数ミリの違いはもうどうでも良かった。

裕子が頷くと彼は奥の棚からバリカンを持って来てコンセントに繋いだ。

(あれで…私の髪が…)

鏡に映るそれを見て裕子は身体を固くした。


『ビィーーン…』

バリカンにスイッチが入り、それを持った店主が近づいてくる。

「じゃあ、覚悟して下さいね…行きますよ…」

彼の左手がそっと前髪を持ち上げ、そしてそこにバリカンが迫って来た

『ジジ…ジジ…』

髪が地肌ギリギリで刈り落とされる音がしたと同時に、

前髪がバサバサと雨のように目の前を降って来た。

(う、うそ…いや…)

裕子は無意識に思わず頭を後ろ引こうとして力を入れた。

が…彼の左手が今度は裕子の後頭部をがっちりと捕らえ

裕子の動きとは逆に前に押し出して行くかのように力を込めている。

バリカンが額からまっすぐに這い上がっていく。

前髪を刈ると今度はセンターパートにしてあったトップの髪に潜り込む。

根元から刈り落とされた髪が、自らの重みで落ちて来る。

裕子の目の前を通っていく髪、そのまま横に滑り落ちていく髪、

白いカットクロスの上を滑り、床にバサッと落ちる。

床に落ちないまま裕子の膝の上に溜まっていく髪もあった。


トップに青白い道を作りながらつむじの方まで進んでいったバリカンは

いったんそこで止まり、そしてまた額から入れられていった。

さっき刈った部分のすぐ横の髪をまた根元から

1ミリにも満たない長さに刈っていく。

バリカンを動かす彼の手がさっきより早くなった気がする。

髪がバサバサと休みなく落ちて目の前を通っていく。

(もうやめて…)

裕子がそう思うのと同時だった。

「ここをこんなに刈っちゃったら、もう坊主にするしかないですからね」

店主はトップの髪をどんどん刈っている。まるでその言い訳をするようにも聞こえた。

(自分で決めた事なんだから…もう戻れない…)

そう思い直したものの、鏡を見据えている勇気はまだなかった。

トップの次は右サイド。

ちょっと頭を横に倒すように動かされた裕子は

耳の前にものすごい音と衝撃を感じていた。

もみ上げから上に向かってバリカンが一気に上ってくる

バリカンを持っている彼の手の上を通って刈られた髪がまた落ちていった。

髪を刈る音が微妙に変わり、それがさっき刈ったトップと

今刈った部分が繋がった証拠だった。

今度は耳の上…側頭部が見る見るうちに青白い地肌になっていく。

サイドの髪がなくなりトップの部分と繋がりどんどん坊主にされていく…

耳の後ろにもバリカンが入りまた上に上にと移動しながら

髪を刈っていった。

床にもカットクロスの上にも驚くほどたくさんの髪が落ちていた

こんなに切られているんだ…膝の上に溜まった髪に重みさえ感じる。


後ろに回り込んだ彼が今度はうなじにぴったりバリカンを当てる。

「あっ…」

くすぐったさとも違う感触を受け、首をすくめそうになってしまった。

でも、そんな事には容赦せずに彼はうなじから襟足の髪に

バリカンをもぐり込ませ、上へと刈り上げていった。

『バサバサ…』

後ろの髪が落ちていく音がはっきりと聞こえる。

頭をぐっと押さえつけられるように下を向かされ

うなじからバリカンを入れられている自分

裕子は何か信じられない気持ちだった。

(生まれ変わるんだ…これで…)

髪をどんどん刈り落とされながら、裕子はそんな事も考えていた。

後ろもあっという間に終り、後は左側を残すだけになった。

「もうすぐですから…」

彼が左側に回り耳の後ろを刈り始めた。

もうすぐ…ここを刈り終えたら私は丸坊主になる…

目を閉じて後は終るのを待つだけだった。

見なくても、耳の上からトップにかけて刈られている様子が判る

髪が落ちる音、地肌から刈り落とされる感触…

バリカンの振動…刈った後の地肌にひんやりと当たる空気

どんどん神経が研ぎ澄まされて行くようなそんな気持ちだった。

やがてすべての髪が刈り落とされた、その後をもう一度バリカンを走らせ

丁寧に仕上げていた。そして…


「はい、出来ましたよ」

バリカンのスイッチを切ると同時に彼はそう言った。

閉じていた目を恐る恐る開けて見た…これが私…?

裕子はまじまじと丸坊主になってしまった自分を見つめた。

顔や頭に付いている短い髪を蒸タオルで拭ってくれた後、

カットクロスが外された。

まだ震えている足でようやく立ちあがると全身が鏡に映った。

なんだか頭が小さくなった気がする。

でもこれがありのままの私…。

「どうもありがとう、お手数をお掛けしました」

会計を済ませ、裕子は外に出た。

刈ったばかりの頭に、外の風が直接当たる。

通り過ぎる人が、みんな裕子を見ていたが、そんな事は気にもならなかった。


頭を丸めて帰って来た裕子を見て、牧野は息を呑んだ。

「お前、その頭…」

「こんな事で済むとは思っていないけれど、お詫びと覚悟の印です」

裕子はそう言うと牧野の前に土下座をして頭を下げた。

あんなにプライドが高かった裕子が丸坊主になって土下座をしている

そんな姿を牧野は見ていたくなかった。

「もういい、早く出て行け…」

優しさを一切含まない声でそう言うのがやっとだった。

「でも…」

裕子は信じられない、と言うような顔で牧野を見つめる。

「出て行け…今着てる服と…お前の名義になっている車だけはくれてやる」

「あなた…」

裕子は牧野の優しさに胸をいっぱいにしながら、それでも

もう2度とこの人の胸に飛び込んでいく事は出来ないんだ、と

改めて自分のした事の重大さに気が付いていた。

「これもだ…」

牧野がハンドバッグを手渡して来る。

「財布の中に入っている金だけだ。もうカードは使えないぞ」

裕子は頷いていた、涙が流れてくる。

「早く行け…」


初めのうちは泣いていた裕子は、やがて涙も止まり

ひたすら正樹の元へと車を走らせていた。

突然押しかけて行く裕子を、正樹が受け入れてくれるとは限らない。

それでもいい、ただ側にいたい。

ようやく自分の居場所を見つけたのだから…

迷いも不安も何もなかった。ただ心のままに自分の場所へ帰るだけだった。


END

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