住む場所
風が貴方を誘っています
さぁ、さぁ、どうぞこちらへいらしてください。
木々の隙間から木漏れ日がサラサラと音を立てて風と触れ合う静かな森の中
突然巻き起こる疾風に動物たちは顔を上げ何事かと見上げるが、
疾風を起こした者達はすでに村の方角へと先を急いでいた
「乗り心地はどうですか?ミアプラ」
疾風を巻き起こす張本人であるペガサスは
自分の背中で落とされまいと必死にしがみついている
一人の少女に声をかけた
「風が…気持ちいいです」
誰がどう見たってそんな余裕があるようには見えなく、
彼女なりにペガサスを気遣っての事だった
そうとは気づかないペガサスはそう聞くと誇らしげに頷いた
少し考えればわかることだった
どこにいるかわからない彼女がほんの数分で自分たちの前に現れたのだ
空を風より早く飛んでいたって不思議はなかった。
彼女の悠然とした登場に自然とどこか近くにいたのだろうと結論付けしていた
シリウスの第一印象は優雅だと思っていたが、
話しているとその印象も早々に変わりそうだと思った
「もうそろそろ着きますよ!」
そんな事を考えているとシリウスが明るく言う声が聞こえた
限界を迎えようとして俯せていた身体に鞭を打ち顔を上げると
森は開け、木の葉に遮られていた太陽が降り注ぐ
小さな村がそこにはあった
「わぁ…」
感嘆の声をあげる自分を
そっと地面に降ろしてくれたシリウスに礼を述べた
「先ほどの森はドワーフの森、そしてここはその村です」
そんなミアプラを妹のように見つめ優しく教える
そんな二人に近づいてくる小麦色の肌をした男子がいた
「シリウス、久しぶりですね!彼女が新芽ですか?
ようこそ!僕たちの村へ!歓迎します。
僕はこの村の長をやっています、ドワーフのニーベルです。
どうぞよろしく!」
口早にそういい、白い歯を向けて挨拶をするため手を差し出す
ニーベルに圧倒されつつも
「ミアプラです。よろしくお願いします」
と握手をした。
「ミアプラか、いい名前ですね!
僕は気軽にニーベルと呼んでください!
じゃあさっそく行きましょうか!」
握手した手をそのまま引っ張っていこうとするニーベルに戸惑い
笑いを必死にこらえている様子のシリウスに助けを求めた
それに気づいたシリウスはふんわり二人の前に立ち
その先に進むのを制すると今だ笑いをこらえるようにニーベルに言った
「待ってくださいニーベル。彼女はまだ何も説明を受けていないのですよ」
面白おかしそうに言うシリウスにやってしまったと
恥ずかしそうにミアプラに向き直った
「あ、つい急いてしまって…すみません。驚きましたよね。
貴方の事は風の精達から伺いました。
これから向かおうとしていたのは貴方の住まいです。
ここは僕が長をしているので、
ドワーフの村なんて呼ばれていますが、
実際は主に人型達が住む村なんです。
他にも精霊たちの村、聖獣たちの村など様々あるんです。」
貴方は見る限り人型なので、
ここに連れて来られたのでしょうと付け加えるニーベルに
不思議に思っていたことを投げかけた
「あの、ニーベルは…失礼ですが、おいくつですか?」
そう聞くとあぁ。と納得したように一匹と一人は頷いた
「そういえば話してありませんでしたね。
ここでは時は進めど止まったままというのが当たり前なんですよ」
「僕はついこの間ちょうど1800歳になりました」
忘れてたように言うペガサスと平然ととんでもない数字を言うニーベルに驚愕した
ニーベルはそんな歳を重ねているようには見えなく、
17、18が妥当だと思っていたからだ。
「えっ…時は進めど止まったままというのは?」
「そうですね、ここには季節が流れ、太陽も月や星たちも昇ります。
ですが基本ここの住人は歳をとりません。来たままの姿で止まっているのです。
ここでは死の概念が薄く、寿命というのはまずあり得ません。
大半は事故によって亡くなります。
ですが、亡くなっても4つの神殿を回り、神様方に願いさえすれば
七日後には帰ってくるのです」
戸惑うミアプラにゆったりと説明をするシリウス
自分もそれだけ長く生きているというようだ
「願われなければ、帰ってこないのですか?」
そう聞くとシリウスは残念ですがと呟き
今までに帰ってこなかった人はいなかったから大丈夫だと微笑んだ
「さぁ、話が逸れましたがほかに質問はありますか?」
この手の話は苦手だというように話題を変えようとするニーベルに
申し訳なく思い、特にないと答えるとパッと明るい表情を取戻し
笑顔で、ではと話を続けた
「ミアプラ、ここでは皆なにかしら特別な役職についてもらっています
君は何が好きですか?」
唐突の話題に驚きつつも
「本が好きです」
と答えると、ニーベルは喜ぶような、困るよな顔をした
「それはとてもありがたい。是非図書館の司書をやって欲しいんだけど…」
「あら、もしかしてルーカスかしら?」
言いよどむ彼にシリウスが自然と察し問いかけた
「はい…ミアプラとうまくやれるか…
あぁ、ルーカスは図書館の管理人なんですが、
種族が悪魔だったこともあって性格が悪いんです。
悪いやつではないんだけど、どうも口が悪くてね
おかげで、皆ここの図書館には訪れなくて
せいぜい僕や、たまに顔を見せるエルムくらいなんですよ」
はぁと頭を抱えため息をつくニーベル。
だから!と力をこめ突然詰め寄ってきたため、彼の若草色の瞳が間近に映った
「ミアプラが司書をやってくれれば、
皆行きやすくなると思うんです!
皆もともと探究心が多いので、
ここの図書館ではなく他の村に赴くほどなんです!
ですがそれは大変でしょう?
ルーカスは本当口が悪いだけでいい奴なんです!
やっていただけませんか?司書!」
後半から鼻息が聞こえそうな勢いで言われたが
答えは最初っから決まっていたので整然と答える
「あの、すぐにこなすことはできないかもしれないですけど
是非やらせていただきたいです」
そういうとニーベルはその場で飛び上がり喜びをあらわにした
よほど人が寄り付かず、司書になる人もいなかったのだろう
何度も頭を下げる彼に困りながらなんて事ではないというミアプラを
見かねたシリウスはニーベルの距離をひとまず置かせるように
頭を下げ続けるニーベルの首後ろ襟を加えるとズルズルとひきづった
「ほら、ミアプラ困ってますよ。少し落ち着きなさい」
そういわれ我に返ったニーベルは先ほどよりも恥ずかしそうに顔を掻くと
「では、まずミアプラの家に案内しましょう。こちらです」
と平静を取戻し、誘導した。
そんなドワーフが面白い一匹と一人は顔を合わせて笑いながらそのあとに続いた。
新しい住む場所新しい友人新しい職場
優しい人ばかりだと思って心を躍らせていたミアプラ
そんな彼女を遠巻きに観察する人物一人
次話ー図書館ー