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始まり

名もなき少女の名もなき旅路へ

貴方は選ばれた

私は今日死んだ。


自殺でもなく、他殺でもなく、事故でもなく、ただ死んだ。


冬の闇夜に降り落ちる雪のように静かに


野に咲く花が枯れて散っていくように穏やかに


行くあてもわからず、消え行くのだと…眠りの落ちる中思っていたハズだった。


「ここは何処?」


永遠に閉じたハズのまぶたの裏の光で目が覚める


キラキラと木漏れ日差す大木を中心に大きな湖の水を吸い


風に遊ばれながら揺れる草花の上で私は寝ていた。


ただただ美しい景色がそこには広がっていた。


「天国?」


突拍子もない発想が頭をかすめて思い直した。


そうして混乱する私の考えをやめさせるように目の前にそれは現れた。


「貴様はなんだ?」


「えっ!?」


空を映したような明るい青に光が差し込んだ鱗がとても綺麗で


一瞬自分に起こったことが理解できなかった


「ド…ドラゴン!?」


「貴様はなんだと問うておる」


私の困惑とは真逆に蒼龍の声は静かにそれでも確実に鈍色の瞳で私を捉えていた


「あの…わかりません。どうしてここにいるかも…」


そう聞くと納得したように龍は優しく呟いた


「なるほど…新入りか。自分の名は覚えておるかの?」


「えっと…あれ…」


忘れるほど難しい名前ではなかったはずなのに、


自分という存在にかかわる記憶が声に出されることを拒否するように


私の手から消えている


「あの…ごめんなさい」


普通なら覚えていていいはずの当り前がわからない、


答えられないとここまで不安が押し寄せてくるのか


なにもかもわからなく怯える私には


ただ、ただ目の前の蒼龍に謝ることしかできなかった


「何、気にするな。ここではよくあることでの。


この場所に慣れることで落ち着き、取り戻すものもおる」


来たばかりで心細かろうて。


そう言いながら蒼龍は私の隣に腰を落ち着かせ話を続けた。


「この世界を儂らは忘れられた場所と呼んでいる」


「忘れられた…場所?」


「そう、ここにいる者達はみな何かを忘れている。


あぁ、聞いておいて名乗っていなかったの。


儂はエルムここで皆を守っている」


「貴方はなにを…」


言いかけて聞いてはいけなかった事だったのではないかと口をつぐんだ


「大丈夫じゃよ。儂はそうじゃの。来た場所、来た理由を忘れてしまっての」


「ここは…理由があってくる場所なのですか?」


だとしたら私は全て忘れていることになる…なんて情けないのだろう。


そう落胆する私に気づいてか、エルムはそっと私に呟いた。


「さぁ、どうなんじゃろうか…儂が勝手に思ってることでの。


理由なく赴くものなどないというのが持論じゃて」


「何にでも理由はある…」


「そういうことじゃ、他に聞きたいことはあるかい?」


「あの…どうしてここを守っているんですか?」


どんな場所かわからないなら、どこが出入口でどんな生き物が来て、、、


見る限りここはとても穏やかだ


「そうじゃの…お主が言いたいこともわかる。


だが、不思議なことに訪れる者はいつもここで倒れておる主のようにの。


そしてここではわからぬ事に怯え生活する者もおっての。


そういう者達が少しでも気が休まるように儂はここにいる」


そう聞いて、私はやっと気づいた。


考えてみればわかることだった。


もしも自分がこの世界で慣れたばかりで歩いていて、


そんな時目の前に見慣れない生き物が寝転がっていたら、


自分の目の前で目を覚ましたら…どんな性格かもわからない。


自分に攻撃してくるかもしれない。


その時自分は無事でいられるのか。予想ができない。


それはとてつもなく恐ろしいことだ。ましてここでは必ず何か忘れるという。


忘れていることが重要なことなら尚の事安心できないだろう。


「貴方は…すごいですね。恐ろしくはないのですか?」


「まぁ、儂はここに来てずいぶん経つ。


同時に守り主としても…流石になれたわい」


そうエルムは微笑んだ。とても優しい顔だ。


例えるなら我が子を安心させる父のように偉大な…安心する顔だった


「さて、お主名が解らぬのじゃったな?


そういうものは自然と儂が名づけることになっているが、いかがかな?」


「お願いします」


そう頼むとエルムは目を閉じフムと考え始めた


「そうじゃのぅ…


お主と話しておると川のせせらぎののように心地よく静かだと感じる。


…ミアプラなんてどうかの?」


「ミアプラ…」


南極の星群にある星のひとつ…とても素敵な名前だと思った。


それが自分の名だというのだ、嫌なはずがない。


「ありがとうございます」


「ウムではミアプラ、これからシリウスをつけさせよう。この世界をみておいで」


そういうや、エルムは笛のような鳥のような声を一つあたりに響かせた


そうしてしばらく待つと私はさらに驚く光景を目の当たりにした。


大鷲のように大きく白鳥のように美しい白い翼を力強く


それでいてゆったりと動かし、私達に近づいてきた。


それは紛れもなく、一匹のペガサスだった。


「何か御用ですか?エルム」


「シリウス、こっちはミアプラ今来たばかりの新芽じゃよ。


いつものように案内を頼めるかの」


「構いませんよ。ミアプラ、貴方は何を覚えていますか?」


慣れた様子で話している二匹を呆然と見てると突然声をかけられた。


「あ、、あの……」


「どんな些細なことでも構いませんよ?そう、例えば私の所属など…


様子を見る限りご存知かと思ったのですが…」


戸惑う私にエルムとはまた違った雰囲気で優しく問うシリウスに自然と安心した。


「えっと…ペガサス…によく似ているなって」


ドラゴンに、ペガサス。昔読んだ本に書かれていた…当の昔に絶滅した種族…


それを今目の当たりにしているという事実がにわかに信じがたかった。


「ペガサス!それが私の種なのですね!


あぁ、そういわれればとてもしっくりくる」


「よかったのぅ…シリウス。


ミアプラ、シリウスはの自分の種に関しての記憶がないんじゃよ」


「え…?」


「じゃから今まで色んな者達に訪ねてみてが収穫は得ることができんかった。


お主の博識のおかげじゃよ」


「ええ本当!これで一歩やっと前に進めます!ありがとうミアプラ」


そう嬉しそうに話してくる二匹に私も顔を綻ばせた。


純粋に役に立てたことが嬉しかった。


「それでは、我が恩人。この世界を案内させていただきましょう。良き友として」


シリウスはそういうと私を背中に乗るように誘導した。


「あの…エルム。また、ここを訪ねてもいいですか?」


そう聞くとエルムもシリウスも一瞬驚いたような顔をし、優しく微笑んだ


「もちろん儂はお主の名付け親であり、友だ。またいつでも遊びにおいで」


「えぇ、道が解らなくなってしまえば私の名を呼んでください。


あなたならいつでもどこでも連れてゆきましょう」


「ありがとうございます」


そう言葉をかけてくれた二匹に心から感謝を述べた。


そして、私はエルムのもとをシリウスとともに後にした。


ペガサスのシリウス案内の元森を訪れたミアプラ

そこで出会った人たちと生き物

見たことがない世界に一歩足を踏み入れた

次話ー住む場所ー

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