本編
初めて書いてみました。拙い文章のため見苦しいと思いますが、お手柔らかにお願いします。展開がはやめですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。
昔、物語の悪役はどうして悪役になってしまったのだろうと考えたことがある。
最後に倒される悪者は、何を思うのだろう、悲しい気持ちはあるのだろうか。
そんなことを気にするのはお前だけだよ、と母親に言われたんだっけ。
しかし今、物語の悪役を少しでも気にかけていたツケが回ってきたとしか思えない事態に、リーゼは激しく後悔していた。
『なっ人間が残っているぞ!捕らえて牢にぶみこめ!!』
「「「「「「はっっっ」」」」」」
ほんとに一体どうしてこんなことに…!
リーゼはとある国のお姫様の侍女であった。7つも年下の姫に使える齢22のリーゼは、立派な行き遅れであったが、可愛らしい妹のような姫のわがままを聞いてあげる毎日は充実しており、なんら不満は抱えていなかった。
姫は腰まである綺麗な銀髪が輝かしく、琥珀色の大きな瞳で見つめられればどんな男も傅いてしまうほどの美貌の持ち主で、それは魔界に住む魔王とて例外ではなかった。
ある日気まぐれに人間界にやってきた魔界の王であるガーランドは、一目で姫を気に入り無理やり連れ帰った。世話係として、傍らにいたリーゼも共に。
さて、物語はここから2つにわかれる。強大な力を持つ魔界の王と美貌の姫が、最初は無理やりだったのにも関わらず徐々に想いを通じ合うのか、はたまたイケメン勇者が姫を連れ戻しにやってくるのか。
…結果は後者であった。イケメン勇者は塔に幽閉され泣き続けている姫を颯爽とさらい、共に乗り込んできた兵士達と魔王の城を壊滅状態にした。
泣いてばかりで自分を見ようともしない姫に、ドレスを仕立てるため魔王が留守にしている間の出来事である。強大な力と統率力を持つ魔王の不在は、城にいるものを十分に混乱させた。
いやいや、魔族の力どうなってんの?タイミングも悪くない?と突っ込みたくもなるが。
ちなみにそのとき私は、城の地下にある厨房で姫のための食事をせっせと作っていた。まったく間抜けな話である。
魔王が異変を察知して帰ってきたときには姫がいるはずの塔はもぬけの殻、さらには壊滅状態の城に激怒し、人間界に行って大暴れした。それだけでは飽き足らず人間界につながるゲートをぶっ壊し、今後数百年間は人間界に渡れないようにしたのがつい先ほどのこと。その間およそ5分間。
そう、バカなわたしは料理を作ることに夢中で、自分が魔界にただ1人の人間として取り残されたことにまったく気がついてなかった。
牢に入れられた時、ご丁寧に先の事件の説明をしてきた魔王の従者によって、ようやく気付かされたのだった。
……………………嘘でしょう?
*
『お前、姫の世話係だった人間か。どうしてまだここにいる?』
地に這うような低い声が謁見の間に響く。
今、リーゼは玉座に座るガーランドの前に転がされている。否、両側から押さえつけられているといった具合か。
こんなに恐ろしい声を出しているんだもの、そりゃあ姫様も泣き続けるはずだわ。と、どこか冷静に考える。
『えっと…置いていかれまして。』
下を向いたままで答える。我ながら言っていて惨めで泣けてくる。
一瞬間が空いて、ガーランドは笑い出した。
『クッはははっ!!惨めなだな、お前も、わたしも。』
そう言って笑った声はどこか物悲しく、先ほどまでの身を裂かれそうな、ピリピリとした声の威圧感はない。
確かに、姫様を助けに来た勇者達に忘れられた自分も十分に惨めだが、惚れた女に逃げられたあげく、留守中に家を荒らされるというのもなかなか惨めである。
しかし、そんな風に悲しそうに笑われると、自分のことを差し置いて可哀想に思えてしまうお人好しのリーゼである。
『あの…そんなに落ち込まないで下さい。きっと良いことがありますわ。』
自分でも何を言っているんだ、と思う。人、いや、魔族を励ましている場合ではないのだ。
人間界にも帰れず、城にいる魔族達にとって人間など目障りな存在。行く末など目に見えているのに。
良くて死ぬまで幽閉、もしかしたら見せしめに処刑されるかもしれない。しかもこんな取って付けたような気やすめの言葉をかけて、気に触れたかもわからない。
でもなんだろう、倒された悪役ってこんな感じなのかな。と、昔考えていたことをふと思い出す。
気がつくと視線の先に足があった。床に引きずりそうなマントも一緒に視界に写っていることから、それが魔王ガーランドであることがわかる。
『お前如きに慰められるような我ではない。いつまで下を向いている?顔をあげろ。』
どこか挑発するような口調に、おそるおそる視線をあげて正面から魔王を見上げる。
『…………え、かっこいい…』
思わず、という風に口からもれる。
魔王様は、とっても綺麗な顔してました。
*
『…………今なんと?』
魔王も、周りにいた従者達も唖然としている。
『とっても素敵です、魔王様』
もう一度今度ははっきりと口にする。
2メートルはあるであろうしっかりとした体格に、いつも目深に被っているマントは今日は被っておらず、マントの下のお顔は、とても麗しかった。頭から禍々しく弧を描くツノが二本生えていようと、口から八重歯をさらに鋭くしたようなキバが生えていようと、その綺麗なお顔を際立たせるオプションにしか感じない。
赤い切れ長の瞳にスッと通った鼻。濃紺の髪の毛は絹糸のように胸元までさらりと伸びている。
ぼーっと眺めているわたしに魔王ガーランドは我に帰ったように声をあげる。心なしか顔が少し赤い。
『なっっお前、命が惜しいからと謀るつもりか!』
もしかして魔王様、純情なのかしら。それにしてもおかしいわね、姫様はイケメンが大好物だっていうのに。リーゼの頭の中は、危機的状況など隅に追いやられている。
『嘘ではございません。…失礼ですが、姫様に顔を見せたことは?』
『あるわけないだろう、こんな恐ろしいツノや顔、見せたらさらに泣いてしまうに決まっている!』
わざわざ言わせるなと言わんばかりの顔で声を荒げる姿も麗しい。
あーーーーなんてこと!もしも姫様に魔王様のお顔をみせていたら。物語の結末は変わっていたかもしれない。しかし怒り狂った魔王様がゲートを壊してしまったため、もう後戻りはできないのだ。
リーゼは頭を抱えたくなった。
…こうなったら。
『魔王様、私、もうここにはお世話する相手がいらっしゃいません。』
ガーランドは訝しんでリーゼをみつめる。
『な、なんだいきなり、先程から妙な女だな。人間界に返せなど、聞き入れることはできぬぞ。』
『魔王様のお世話をさせてくださいませ。』
こうして物語の悪役と脇役は、新たな物語を始めていくのだった。
今後、魔王目線がメインの本編と、番外編を書く予定です。(3話くらいで終わるかも?)リーゼの容姿にも次回触れます。