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「いえ、とく何もしていないです」

 高校生を相手に「普段、何をしているの?」と尋ねたことがある。

 というのは、僕はアルバイトとして塾の講師をしている。それで、今の高校生はどういう生活を送っているものなのかと聞いてみた。で、返って来た答えがタイトルにある通りである。


 「何もしていない」というのは、どういう意味だろうか。何もしていないはずがない。だって、生きているのだから。少なくとも、朝は何時に起きて、テレビを見たとき、スマホで・・・などの行為を行なっていたはずだから。きっと、その高校生は「特別、何かをしているわけではない」と言いたいのだろう。他の人がしていないような習い事をしているわけではないし、こだわりのある趣味をもっているわけでもない。だから、自分と同じ高校生と変わりない、誰もがしていることを私はしている。

 それらのことを含めた回答が「特に何もしていない」になる。


 しかし、そんな質問をした僕自身も、同じ質問をされたら困る。「普段、何しているの?」という問いに対して、普通に昨日のことを言うのもは、何か物足りなく感じる。でも、普段の生活というのは、そういうものではないだろうか?突然、重大な出来事が起きることはまずないし、それではもはや「普段の生活」ということもできない。


 でも、たまに自分にとって大きな出来事がやってくる。学校への進学、就職、引っ越し、旅行、大会出場などは、普段の生活を経てやってくる。そう考えると、普段の生活という、特別何かをしていたわけでもないことが、自分の人生を築いていることがわかる。日々の9割の時間は、普段と変わらない日常である。その9割が、たった1割の大きな出来事に関わる。

 ドラマや映画は、その1割を作品に落とし込む。人々は、その1割の出来事に感動し、自分にも訪れないかと思う。だけど、作品に反映されない残りの9割が、重要なのである。重要なことは、往々にして見えないものである。


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