異世界転生を馬鹿にしたDQNだったが10分事にクラスメイトが異世界人に転生し始めた
俺の名前は嵐山竜二。この緑山学園の不良全ての頂点に立つ男だ。
いつものように始業時間ギリギリに来た俺の席の前でメガネを掛けたオタクが何かを読んでいる。
「おい、何読んでんだ?」
「あ……嵐山君」
「見せてみろ」
「……あ、ちょっと」
何々? 異世界転生で転生先の世界で活躍するだと?
「はぁ~、つまんね」
取り上げた小説を投げ捨てる。
「な、何するんだよ!」
「こんな非現実的な小説読んでないで現実を見ろよ、現実を」
「い、異世界転生を馬鹿にするのか!」
「何だよ異世界転生って……意味がわかんねぇよ」
「そ、それにこれは小説じゃなくてラノベって言って……」
「どっちでも変わんねぇよ!」
「か、変わる! 変わるよ!」
「はいはい、で? 異世界転生を馬鹿にするとどうなるんだって? メガネ君?」
「今に見てろ……異世界転生を馬鹿にした奴は、異世界転生の恐ろしさを身に持って味わう事になるからな……」
「へっ、勝手にほざいてろオタク野郎」
始業開始のベルが鳴る。立ったままだと教師に小言を言われるのがうざいからさっさと座る。
教師が入ってきて業務連絡、最近自電車での事故が多いだとか有りがちな事を言っている。早く終わらねぇかなぁ。
「はい、では出席を取っていきますね」
教師が出席簿を広げて出席を取り始めた時だった。
『異世界転生を馬鹿にした者には……』
……あん? 何か脳内に声が響いた気がするが……気のせいか?
俺が机の下で操作していたスマホに目を再び落とそうと思った時に異変は起きた。
「……!?」
教室の中に光が発生した、眩しい光の渦に1つの机と椅子……。誰かが光に飲み込まれている!?
あそこにいるのは……誰だっけ? 正直クラスメイトとか興味ないせいで名前を覚えていねぇ。いや、というか何でこんな異常事態なのに他の連中は悲鳴の1つもあげないんだ!? こいつら肝座りすぎだろ!!
俺がある意味度胸のあるクラスメイトに少し感心していると光が収まっていった。一体何だったんだ……? ふと光が収まった先を見てみると……。
「……!?」
視界の先に滅茶苦茶イケメンな男が椅子に座っていた。長い金髪で蒼目、赤と金色に装飾された鎧を身に纏い腰には銀色の刀を挿していた……。いや、お前誰だよ!!!!
「出席番号5番井上」
「はい」
……え? お前井上なの!? どう見ても井上じゃないだろお前、どっちかというとマイケルとかになっちゃうだろお前の場合。え、教師とか何も思わないの? こいつが井上な事に納得しちゃっているの? 俺が怒涛の勢いで脳内突っ込みをしていると再び教室に光の渦が巻き起こる。
今度は誰だ。確かあの席は……そうだ、山中だ。メガネを掛けた地味な女だったはずだ。というかあいつ友達多かったはずだけど周りの連中何も言わないんだな! お前等の友達今光の渦に現在進行形で飲み込まれているぞ!
先ほどと同じように光の渦が収まっていくのを確認しながら俺は山中の方を凝視する。
……一体、どうなっている?
俺の視界の先には……銀色のロングヘアーに朱色の目、青いドレスを身に纏ったいかにも一国の王女という表現をしてもいいレベルの女が座っていた。……場、場違いすぎる。さきほどの……えっと、井上といい。存在自体は凄いのに教室の椅子に座っているせいで色々と台無しだ。高級料理を紙皿に載せているくらい存在を冒涜している気がする……。俺にはまったく関係のない話なのに何故か俺が申し訳なくなってくる。
「出席番号38番山中」
「はい」
明らかに他の女生徒と比べて声の気品差とか色々と違うが本当にいいのかこれで? 本当にこの女をさらっと流してしまってもいいのだろうか? 明らかにこの空間に異端な存在が2人ほど居る上に俺以外は、普通に認識してしまっているように思えるんだが……。
「はい、では出席番号も取り終えたので5分休憩の後に授業を開始しますよ」
……始業時間が終わりを告げた。俺は思わず井上の元に駆け寄った。
「い、井上……」
「あぁ、嵐山君どうしたの?」
滅茶苦茶イケメンボイスで返答してきやがったこの井上! ふざけんな俺の知っている井上は絶対そんなイケメンボイスじゃなかったぞ、こら!!
「……お前さ、何かこう変わってない?」
「あ、そうだ。お前髪切ったよな井上」
後ろの席の名前もわからない坊主が勝手に話に乗ってきやがった。黙ってろ坊主、これ最早髪切ったとかそういう次元じゃねぇよ。髪むしろ伸びているんだよ。なんなら髪の色変わってる上に顔も整形処置施されてんだよ。
「あぁ……ちょっとイメチェンしてみたんだ。似合ってない?」
滅茶苦茶似合ってるわ、ふざけんなよ。 というかイメチェンとかいう次元超えてるって言ってんだろ。イメチェンでそこまでいけるなら俺もイメチェンしたいわ。
「そ、そうか……どこの美容院で切ったんだ?」
俺は一体何を聞いているんだ……? 正直先輩複数人相手に喧嘩する時よりびびってる気がする……。
「あぁ……これはお母さんに切ってもらったんだよ」
お前のお母さんは一体何者だ? 魔法使いか何かなのか?
「はーい、皆席に着きなさい。授業を開始する」
「あ、じゃあね。嵐山君」
「お……おう」
爽やかなイケメンボイスを受け取り席に向かう。……俺もしかして疲れているのかもな。と目を少し瞑って開いた時には、既に教室の一部が光の渦に包まれていた。
おい! 人が目を離した隙に仕掛けるなんて汚ねぇぞ! ……あの席は、駄目だ。誰かわからねぇ。出席も終わってるから尚更だ。俺が頭を抱えている間に光の渦は収まっていった。
……美男子剣士、美女の姫、次は何が来る?
収まった方向を見てみると。髭を蓄え丸々太ったおっさんが座っていた。
おいおいおい、何か色んな意味で次元が違うのがやってきたぞ!! てかあのおっさん、酒飲んでるけど。付属品まで持ってくるとかそんなのありかよ! 教師お前注意しろや!! てかおっさん、いやデブ! 椅子がミシミシ言ってんぞ!! もっと痩せろ、てか黒板が視えねぇんだよ!!
心の中で酒を飲み続けるおっさんを罵倒し続けるが授業は淡々と進み続ける。そんな中で俺は何故かとある事実に気づいてしまった。
……これもしかして時間経過事に光の渦が発生してるのか? すぐ様スマホのタイマーを起動し次の光の渦を待つ俺。いや、来なくていいんだけどな?
しかし、無情にも光の渦に包まれる名もわからないクラスメイト。こんな事ならもっと皆の事知っておくべきだったのかもしれないと後悔し始めた俺を他所に渦が収まっていく。
……ガ、ガキだ。女のガキがいる。いや、待て。あのガキ羽生えてね!?
椅子の上には身長およそ100cmの女の子が座っている。しかし耳は尖っており背中には羽が生えている。手元にはよくわからないステッキみたいなのを持っている。むしろステッキよりこいつの存在の方がよくわからないのだが。
スマホを見てみるとデブのおっさんが降臨してから、羽の生えたガキが降臨するまで大体10分ほどだとわかった。まじで? 1つの授業の内にこんなのが6回起きるの? 今日6限まであるから36回……昼休みとかもいれると42くらいか。おい、待てよ。俺のクラス人数が42じゃねぇか……。これひょっとして俺も変わっちまうのか? 井上みたく美男子だったらまだしも……。
ちらっとデブのおっさんを見る。あ……あぁ、なっちまったらおしまいだ……。俺は震えた。泣きそうになっていた。しかしそんな俺をよそにこの授業が終わるまでにクラスメイトが更に4人変わってしまった。ヘビみたいな鱗の肌をした奴、忍者みたいな服装した奴、犬耳みたいなの生えてる奴、最後の奴何か人間じゃなくて目と口が付いた小さな木だった。もうこの教室地獄絵図だよ。
休憩時間になると皆思い思いの行動をし始める……。変わってしまった連中も含めて。
教室の中を見守る俺。女王山中の周りに女子が集まってるな……。
「きゃ~、山中ちゃん可愛い~」
「毎日可愛くなってるよね~」
今日の上がり幅大きすぎないか? 一山当てたベンチャー企業の株みたいな勢いだぞ。
「全然だよ、私何かよりミホの方が可愛いし」
ミホ?? どこの誰だよ、この女王様より可愛い女って。うん、ミホって可愛いよね~という女生徒達の声を元にミホという人物を見つける……。
「…………」
目と口が生えた木がちょこんと椅子の上に置かれている。え……? あれがミホ?
ミホっていうか…ザキじゃね? ずっと見てると死にそうだし……。
「うんうん、ミホって超スタイル良いよね~」
3サイズ絶対全部同じだと思うけどマジで言ってる?
「あー、今日は暑いな~」
いきなり横を忍者服のやつが通っていった。暑いならまずそのマスク取れや!! 見てるこっちも暑いんじゃボケ!
変わりゆくクラスに脳内で突っ込みを入れているうちに2限目が始まった……。
……4限目が終わり。昼食の時間がやってきた。
俺は頭を抱えてなるべく教室の景色を見ないようにしていた……。しかし、それも長くは続かなかった。
「おい、飯行こうぜ。嵐山」
恐る恐る後ろを振り向いて見ると知らないやつが立っていた。
「え、えっと。お前誰?」
「おいおい、寝ぼけてんのか?佐藤だよ」
あれ、おかしいな。俺の知ってる佐藤は。元サッカー部で顔がいかつくて。部室で喫煙して退部になったクズ野郎の事で断じて吸血鬼のような羽を生やし、真紅のローブを纏い、八重歯をちらつかせながら微笑む。美少女ではなかったはずだぞ?
「ほら、さっさと行こうぜ。食堂の弁当売り切れちまうよ」
「お……おう」
「なんだ、今日元気ねぇなぁ」
「……あ、わかった」
佐藤という名の美少女が微笑む。くそ……俺の知ってる佐藤がこんな美少女になってしまうなんて。元の佐藤に……いや、このままでいいか。
「ヤニが足んないんだろ」
野郎なら何も感じなかったヒソヒソ話が美少女だと耳元で妖艶に囁かれるという描写に早変わりしてしまった。くそー!! さようなら元の佐藤!
「お、おうよ」
「それなら早く言えよ~、俺の分けてやるからさ」
佐藤に腕を引かれ食堂に向かう俺。あれ何か普通に悪くなく思えてきた。
食堂にたどり着くと大半がよくわからない生命体で埋め尽くされていた。前言撤回する。元の世界に戻してくれ。あ、佐藤だけこのままでいいや。
弁当の行列に並ぶ佐藤と俺。普段なら睨みきかせて先頭に進む俺だが……。睨みきかせるどころか睨んだらそのまま死んでしまいそうな見た目の化物が行列にいたので大人しくしている。
しかし、佐藤の方はそう我慢強くはないらしい。露骨にイライラし始めてついには目の前の化物を蹴り飛ばしてしまう。……化物は身長2mくらいはあって筋肉隆々で一つ目だった。薬でおかしくなっていたとしても人類の全てが喧嘩を売らないであろう存在に簡単に喧嘩を売る佐藤。誰か助けてください。
「ちんたら並んでられるかよ! どけよデブ」
「さ、佐藤……おとなしくしよ? ね? いい子だから」
「何泣きそうな顔になってんだよ嵐山、だっせーぞ」
むしろまだ泣いてない事を褒めてほしい、下手な奴だと失禁してると思う。
「……gktkkfsoera!!」
もはや人類が認識出来ないような言語を大声で発生する怪物。やばい、失禁はしないけど吐きそうになってきた。お母さん、お父さん今までありがとう……。親不孝な息子でごめんなさい……。俺が懺悔をしている中で佐藤が怪物を片手で横に投げ捨てていた。
『ドグシャァァl』
「…………」
「どけやごらぁ! ぶっ飛ばされてぇのか?」
文字通りぶっ飛ばされた怪物を見た連中も俺と佐藤に道を開ける。
「嵐山~、大丈夫か?」
「……ダメかも」
産まれたての子鹿のように震えながら佐藤の腕にしがみついて歩行する俺。
「いつものお前ならあの程度の奴ワンパンだろワンパン」
いやいやいや、いつもの俺どんだけやばいんだよ。世界救えちゃうだろそれ。
最前列に着き目の前に並べられた弁当を見てみる……。あれ、おかしいな? 俺の目には人類が食して良い物が見当たらないぞ? このスライム弁当って食べれるのかな? 粘液がパック一杯に詰まってるけど。
「うーん、どれにしようかな~。嵐山は何食べるよ」
「……むしろ、どれなら食べていいですか?」
もはや俺がこの学園で生き残るためには佐藤に縋るしか道はないと確信した。
「今日のお前マジで変だなー、これとかお前好みじゃないか?」
「……」
そう言われて俺が受け取ったのは蝙蝠の姿煮弁当だ。これお前の同類じゃない? 食べて大丈夫なの!? というか蝙蝠って食べれるの? 栄養あるの? 美味しいの? ねぇねぇ!!
「俺はこれにしよっと」
そう言って佐藤が手に取ったのは、取れたて人間の腕サンドだ。血の滴る新鮮な肉をバンズで挟み込んだ特製サンドです……。言ってる場合か!!!! 佐藤と一緒にいるのは危険だ!!
「……わ、悪い佐藤。俺ちょっと今日ガチで体調悪いわ」
「……確かに調子悪そうだもんな。バイクで家まで送ろうか?」
佐藤の優しさに軽く罪悪感を覚えつつ、いっその事家まで送って貰った方がいいのか? と一瞬考えたが今佐藤のバイクに乗ったらどこにたどり着くかわかったもんじゃない。むしろバイクが俺の知ってるバイクである可能性は限りなく低いので丁重にお断りした。
「……教室に先戻ってるな」
「お、おう。無理につれてきて悪かったな」
食堂に足を運ぶ人外達に顔を引き攣りながら自分の教室まで何とか戻ってくる。
……知ってはいたが昼食を食べている間にも降臨は続いているようでどんどんまともなクラスメイトは減っている。
むしろまだまともなクラスメイトに勝手に友情を覚えてきたがどうせこいつらも6限には消えるんだ……。仲良くしてもしょうがないとどこか達観してきた。……王女山中を囲う回も今では全員異質な存在となってしまった。俺は最早どうにでもなれと思いふて寝する事にした。
「…………」
「こら、嵐山。いい加減起きなさい」
「……はっ!?」
がばっと顔を上げる。も、もしかして今までのはただの夢? 目を開けたら平和な世界が……。と思って周囲を見渡すと……。
俺と教師以外全員まともな人物ではなくなっていた。
「……せ、せんせい?」
「どうした嵐山? 顔色が悪いぞ」
「い……いま、なんじですか?」
「もう、後数分で授業が終わるぞ……まったくいつまで寝てるつもりだったんだ?」
クラス中が恐らく若干の笑いに包まれているのだと思う……。しかし音の4割は人間の声じゃないので俺に取って不快な雑音でしかない。
……でも、もうどうだっていいや。後もうちょっとで俺もどこかに行けるんだ……。俺も皆と同じように解放されるんだ。
授業終了のベルが鳴ると同時に俺は目を瞑った。眩しい光が目の前で発生しているのがわかる……。あぁ、皆こんな気持だったのかと俺は少し微笑んでいたのかもしれない。
……光が収まり俺はゆっくりと目を開ける。俺は一体どこに行ったのだろうと。
目を開けると……。
「…………」
目の前にキノコの化物がいた。
「ぁ……」
唖然としながらも周囲を見渡してみるもそこは俺以外変わりきってしまった教室。
あぁ……そうか。教師含めて42人かぁ……。なるほどぉ……。
キノコの化物が何か言っているが俺にはもう理解できないのでまったく聞いていない。それよりも10分待っても光の渦は発生しない。俺はこの世界に取り残されてしまったようだ。
終わりのベルと共に荷物を抱えて猛ダッシュで外に出る俺。
外を見てみると……。確かに町並みは俺の住んでいた世界で間違いない……。間違いないが……。
空にはドラゴンやら機械で出来た大型の鳥やらが無数に飛行し、道路は明らかに車よりも早い馬車や虎や象なんかが我が物顔で走行している。道行く連中も異型なのがちらほら、人型でも日本語を喋ってる奴がいない。
「こ……」
「ここは一体どこなんだー!!!!」
初作品となりますが見て頂きありがとうございます。
ブックマークや感想をしてくださった方々ありがとうございます。
現在長期小説を書いていますが、空いた時間で短編をまた書かせて頂きます。
投稿した時は、是非皆様よろしくお願い致します。