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ランプ

作者: 札中A斬


森の近くに住む少年のジロウ。

ジロウには人間の友達がいない。

ジロウは人間とうまく話せない。

ちゃんと話したいことが決まっているのに。

ことばにならない。

でも、友達はいる。

ジロウは学校が終わると、森へ行く。

ジロウは大木に話しかけるのが日課だ。

「やっぱり、森はいいね。風が気持ちいい。空気も美味しい。それに」

カサッ、カサッと音がする。

「ほら、来た」

小さくて見えないが、ジロウの足にいる。

「よう、ジロウ」

彼の名前はリスのスー。

「今日も持ってきてくれたかい?」

「もちろんだ」

ジロウはリュックサックからパンを取り出す。

給食のおじさんがあまったパンをいつもくれる。

ジロウはそれを切り株に置いた。

「ほら」

「こんなにある。すごいよ。ジロウ」

「召し上がれ」

「食べきれるかな?」

「デュランのぶんも残してね」

「あいつは今日は来ないよ」

スーはパクパク食べた。

すると、小鳥がパンを食べに来た。

「ダメ、ダメ」

スーは小鳥を追い払った。

「すこしぐらい、あげればいいのに」

「小鳥にはぜいたくだよ。これは」

サッサッサッ。草むらから音がする。

「チェッ。あいつ来たんだ。いやしいやつだ」

スーは不満そうな顔をした。

ウサギのデュランが駆けてくる。

「やあ、デュラン」

デュランはあっというまに切り株のそばまで来た。

「やあ、ジロウ。元気かい?」

「デュランも元気そうだね」

「うん。元気だよ。おう、おいしそうだな」

「召し上がれ」

「子供たちのぶんをもってくのはなしだよ。デュラン」

「スーは厳しいな」

スーとデュランは夢中でパンを食べた。

「ゆっくり食べればいいのに」

すると、ドングリがスーとデュランに向かって飛んで来た。

「いたい」

スーとデュランは叫んだ。

こういうことをするのはあいつしかいない。ジロウはそう思った。


何かの動物が木から木に飛びうつってやってくる。

「おーい。俺にもくれよ」

サルのサスケだ。

サスケはいつもパンを横取りする。


「おー。うまいうまい」

サスケはお腹いっぱいになるとお礼も言わないで帰って行った。 「ほんとにいやなやつだ。あんなふうにだけにはなりたくない。」

ジロウは言った。

「ジロウ、ドングリ集めを手伝っておくれ」

スーは口をモグモグさせながら言った。

「うん」

「ジロウ、そっちがおわったらキノコ取りもね。子供たちがお腹をすかせて待っているんだ」

「うんうん」

ジロウはいつもより、いっぱいいっぱいとってあげた。

「ジロウ、ありがとう」

デュランとスーは帰って行った。

ジロウは切り株に腰を掛けて一休み。目を閉じた。

目を開けると、あたりは真っ暗だった。

「 しまった」

ジロウは夕方の音楽を聞き逃してしまった。

音楽がなったら帰るといのがママとの約束だった。

でも、大丈夫。ジロウのママはこういう時のためにリュックにランプを入れてくれてた。

「よし帰ろう」

ランプを持って歩き出したジロウ。

「あれっこっちだっけな」

あたりがくらいせいでいつもと違って見えた。

ジロウが道に迷っていると。

「あっ。いたた」

ジロウの頭にドングリが当たった。

「いたい」

ジロウは飛んで来た方向に目を向けた。

「あれは」

木の上にはサスケがいた。

「やっぱり、お前か」

「どうした。道にでも迷ったのか」

サスケは笑いながら言った。

「僕にはこのランプがあるんだ。君はなにもしてくれないんだから、帰ってくれ」

ジロウは目の前の獣道に入って行った。

「おい。そっちはだめだ」

サスケは言った。

「うるさいな」

ジロウはランプを照らし、さらに奥へと進む。サスケがどこかに行ってしまった。

ガサッガサッ。草むらから音がする。

夜になるとその音はとても怖い音に聞こえた。

「おい。何してるんだ。人間の子供」

狐のテリーが不気味に笑った。「うちへ帰るんだ。うちへ」

「そうかい。君、名前は?」

「ジロウだよ」

「ジロウか、僕はテリー。なあジロウ、いいものを持ってるね。見せてよ」

「ランプはだめだよ。これがないと道がみえない」

「いいだろ。ちょっとぐらい」

テリーはジロウのランプを持つ手に噛みついた。すると、ランプは地面に落ちてしまった。

「ああ」

「俺のせいじゃない。君が悪いんだ」

テリーは草むらに姿を消した。 ジロウはランプを拾い上げ、点灯させようとするが、ランプはつかない。

「どうなってるんだ。もう」

ジロウは叫んだ。

夜の森は寒い。気温がぐっと下がった。

風で草むらが揺れるたびにジロウは体はびくびくせする。

「スー。スー。デュラン。デュラン」

ジロウはせいいっぱい叫んだ。 返事はない。

「もうだめだ」

ジロウは途方に暮れた。

ポトッ。ジロウの足元に何かが落ちた。

幸運なことに今日は満月。ジロウはそれは月に照らした。

「これは」

ドングリだった。

ジロウは辺りの木を見渡した。「何をしてるんだ。お前。家に帰るんじゃないのか」

サスケは木からおりて来た。

「このありさまで帰れるわけがないだろ」

「おい、手を噛まれているじゃないか。おっ。その傷はあいつか?」

「テリーに噛まれた」

「そうか。やっぱりあいつか。あいつは狐のくせに、賢くない。だからこんな乱暴のまねをする」

「狐って、賢いの?」

「ああ賢いさ。賢い狐なら、人間様のこわがるお化けに化けて出るさ」

「そうなんだ」

「お前のお仲間は助けにこないのか?」

「ずいぶん離れたところに来てしまったから聞こえなかったんだよ」

「あんな大きな声だったら聞こえるさ。あいつら無視したんだ」

「スーとデュランはそんなことしないよ。友達なんだから」

「やっぱり、気付いてないんだな。お前はパンを持ってくるからあいつらはよってくる。利用されてるだけ」

「そんなことない」

バタバタ、バタバタ。

何かが飛んで来た。

「なっ、なんだ」

サスケとジロウは驚いた。

「こっ、コウモリだ。ジロウにげろ」

コウモリのシドだった。

「おい。人間の子供、血を吸わせろ」

「ジロウ。逃げろ、逃げろ」

サスケは隠し持っていたドングリをシドに投げつける。

小回りのきく、シドはドングリを交わした。

「人間はひさびさだ。人間毛が少ないからすぐ血を吸える。たまんねえな」

逃げ回るジロウに、シドが追い付くジロウの首もとに迫る。

その時。

バタ、バタバタバタバタ。

羽ばたく音。

シドはその音に驚いて、ジロウから離れた。

「くそっ。よし爺。邪魔しやがって」

「サスケ。あれは」

ジロウの足が震えている。

「フクロウのよし爺だ。ここの長老だよ」

「シド。人間の血を吸うなと言ったはずじゃ、神様のお告げを守らんか。この愚か者」

フクロウのよし爺が大きく長い羽根を羽ばたかせながら言った。

「うるさいな。ちょっとからかっただけだろ」

シドは逃げるようにして飛んでいった。

「お主。名を何と言う」

「ジロウです」

「ジロウ、知らないようだから教えてやる。ここは西の森じゃ」

「西の森?」

「そうだ。西の森だ。ジロウは東の森から西の森に迷い混んだのじゃ。サスケ、なぜ教えん」

「いっても分からないと思ったから。それに東の森には長老がいない、森の住人だって知らないやつもいる」

「ジロウ、とにかく西の森は危ないのじゃ。からだをもってわかっただろ。速く帰ったほうがよい」

「でも……」

「ワシが東の森まで案内をする。ついてこい」

よし爺は目を光らせた。

「おう、すごい」

「行くぞ。お前たち」

ジロウとサスケはよし爺のあとをついていく。

「こりゃいいわ」

「サスケ、明るいるね」

「なにをのんきなことを言っている。西の主に会ったら大変なことになる」

「どうなるの?」

「うわさじゃ、西の主は極端に部外者を嫌う。神様が決めた森全体のルールを無視して噛み付く。そして、殺してしまうのだ」

「そうじゃ。サスケ。今の西の主、クマのゴロウは暴れん坊で人のいうことを聞かない。だから、西の森のものは人や他の動物を傷つけようとするやつが多いんじゃ」「そうなんだね」

「よし爺、俺は殺されたくない早く帰ろう」

「サスケ、やっとわかったか」

しばらくして、東の森までだいぶ近づいた。

「だれだ」

突然、太い声が聞こえた。

草を潰して、やって来る。

ゴロウだ。

「お前ら、ここで何をやっている」

「ゴロウ、この子は迷い人じゃ。見逃してやってくれ」

「東の森のサルまでいるじゃないか」

「主、はじめましてサスケです。迷い混んだコイツを連れ戻そうとしたら、ここに入ってしまいました。すいませんでした」

サスケの足は震えていた。ジロウもまた、からだを震わせていた。

「ダメだ。人間の子とサルは殺す」

「ゴロウ、神様のお告げを守るんじゃ」

「主として西の森の汚すものは罰する」

ゴロウはよし爺に鋭い爪の、大きな手を振り下ろした。

よし爺はその手を避けようと。羽根を羽ばたかせた。

「うわっ」

避けきれなかったよし爺、羽根をちぎられた。

ちぎられた羽根が舞散る。

「次はお前たちだ」

ゴロウが、一歩、一歩近づく。

そして、ゴロウはジロウとサスケの前に止まった。

「ひさしぶりの人間だ。サルの肉も人間に似て美味しいんだよな。いいものよりこのんでたべるから」

ゴロウはその手を振り下ろす。「やめろ」

と遠くから聞こえ。

一瞬でゴロウは倒れた。

「ケンさま。来てくださったのですね」

よし爺の丸い目がさらに大きくなった。

ジロウたちの前にはおおかみのケンがいた。

ケンは体当たりをして、ゴロウを倒した。

「ケンさま」

サスケは方膝をついた。

「サスケ、その子に付き添ってくれたのだな。偉いぞ」

「いいえ、ジロウを危険な目に会わせてしまいました。ケンさま」「ジロウというのか。ジロウ。私が東の森の主だ。よろしくな」

「よろしくね」

ジロウは頭をぺこりと下げた。

すると、ゴロウがゆっくりと立ち上がる。

「ん?」

振り向くケン。ゴロウはケンを睨み付けた。

「おい。おい。東の主。主同士の戦いは神様が禁止したはず貴様は神様にそむいた。どうなるかわかっているのだろうな」

「神様に背いた主は、命を断たなければない」

「そうだ」

「西の主。その前に、ここはどこだ。上を見上げて見ろ」

上を見上げたゴロウ。

視線の先には両脇を太い木に挟まれる、背の高い白樺の木。

「ここは。気付かなかった」

「そうだ。ここは西と東の境目。このまわりはで命を奪うことをしてはいけない。神はおっしゃった」

「そっ、そっ、そうだが」

「神はこうもおっしゃった。その者を見かけたら、ためらいなく殺すべし」

「気付かなかった。見逃してくれ」

「見逃す? そんなことはできない」

「頼む」

「頼む? じゃあ俺からも頼まれてくれ」

「何をだ?」

「西の森の住人にいのちの大切さを教えるんだ。俺たち森の住人は何かを食らわなきゃ生きていけない。それは植物であり動物だ。そのいのちに敬意を払わなきゃ。むやみに命を奪っちゃだめだ。お前は綺麗事だと言う。だがこの気持ちを忘れてはいけない。お前のその大きな背中で手本を見せればきっとみんなまねをする。西の森を頼んだぞ。ゴロウよ」

ゴロウはケンに背を向けた。

「わかったよ」

ゴロウは左手を上げ、草むらに消えた。

「ケンさま。私がついていたのに。ゴロウの暴走を止められず申し訳ない」

「爺はよくやってるよ。これから目を光らせ続けてくれよ」

「私にはもったいないお言葉かたじけない」

ジロウは寒さで震えはじめた。。

「ジロウ。いけない、風をひいてしまう。さあ、乗るんだ。家まで送ろう」

ケンは膝をついた。

「ジロウ、ケンさまを待たせるでない」

「うん」

ジロウはケンの背中に乗った。

「俺もいいですか?」

「これサスケ、調子にのるでないぞ。お前は木を伝っていけ」

「冗談ですよ。よし爺」

「では、爺よ。引き続き頼む」

「承知しました。ケンさま」

よし爺は闇夜へ消えた。

「しっかり捕まれ。ジロウ」

ケンは走りはじめた。

「待ってくださいよ」

ケンは走りながら、斜めを向く。

「しっかり、ついてこいサスケ」

サスケは素早く木を登り、 枝から枝へ移りケンを追った。

「どうだい。おおかみの背中は」「うん。あたたかいよ」

「それはよかった」

ケンは森を疾走した。闇夜を切り裂くように走る。

「風が冷たい。そろそろ雪が降るな。ジロウ」

「もう冬か」

 ケンはスピードを緩めた。

「あっあの切り株が見えたよ。ケン」

「ジロウ、君にあってほしいお方がいるによる。会ってくれるかい」

「いいよ」

ケンは大木の前で止まった。

ジロウがいつも話し掛けている大木だった。

「さあ、降りるんだ」

ジロウは膝をいたケンから下りる。

「まさか、」

ケンは月明かりに照らされる

一輪の黄色い花を口にくわえた。「ジロウ、これを」

ケンから渡された花を手に取ったジロウは大木の根っこに花を置いた。

「夜ははじめて会うね」

すると、枝葉が揺れはじめた。「なっ、なんだ」

サスケはキョロキョロとまわりを見渡す。

「ジロウ。きれいなお花ありがとう」

「大木さん。しゃべれるんだね」「ジロウ。この方は」

ケンはジロウの服の裾を口で引っ張った。

「ケン、そんなことをするでない。ジロウはわたしの友達だ」

「はっはい」

服をはなし、ケンは膝まづいた「ジロウ、今日は月きれいた゛」

「そうだね。もっと眺めていたいけど、帰らなきゃだね。パパとママが待ってる」

「ジロウ、また来てくれるか?」

「うん、もちろんさ」

「ジロウ、さあ行こう」

ジロウはケンの背中にのった。「大木さん。おやすみ」

「おやすみジロウ」

枝葉の揺れがおさまった。

ケンはふたたび走り出した。ケンを追うサスケ。

ジロウたちはすぐに、ジロウの家の明かりが見えるところに出た「ジロウ、ここまでだ」

ジロウはケンの背中から下りた。

「ありがとう。ケン」

見上げるジロウ。枝にぶら下がるサスケ。

「サスケ。ありがとう、君がいなかったら僕は……」

「パンをいつももらっているから助けた。こちらこそありがとうだ」

「じゃあ、帰るよ。ケン、サスケ」

ジロウはこうして無事、家に着きました。

そのあと、ジロウはママたちに大変な心配をかけたのでもう、森へ行けませんでした。

ジロウは残念な気持ちでいっぱいでした。

しかし、ジロウはこの出来事でとっても成長しました。

 それから数日が経ち、雪が降りました。窓の外、しんしんと降る雪。ジロウは眺めていました。遠くから何が来ます。小さな足跡をどんどんのばして。

「あれは」

 あれはテリーでした。

 口にはランプをくわえています。

 テリーは玄関前にランプを置くと、帰っていきました。


 そのあと、ジロウはだれとでも上手く喋れるようになり、友達を作ることできるよう努力するようになります。ちょっとずつちょっとずつだけど、前に進んでいきました。

そして、ジロウが大人になりました。家から離れた大きな街で暮らすようになったジロウ。

 ジロウは久し振りにおとうさんおかあさんの暮らす家に帰ります。

 残念なことに、その森はもうありませんでした。

 思い出の道、アスファルトになってしまった道を辿るジロウ。

 こどもの頃あんなに遠くに感じた距離。広い歩幅を小さくしてジロウは進む。

 あっというまの短い距離。

あの大木が立っていた場所。そこには電柱が立っていました。ジロウは電柱のしたに黄色い花を置いたのです。

電柱のあかりが花を照らします。

「来たよ。大木さん」

ジロウは電柱にてを当てた。

ジロウがその場を離れようとすると、

ウー、ウー。遠吠えが小さく聞こえました。

ジロウは山の方に目を向けて、にっこりと笑いました。その日も満月でした。

ケンたちが生きているか。それはわかりません。しかし、ジロウの頭の中ではあの森はいき続けています。

ジロウの人生にはこれから様々なことが起こるでしょう。でも、あの経験が明かりとなって照らします。

「がんばれジロウ」と。


〈おわり〉

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