5. 再挑戦
「あなたの願い事を一つ叶えてあげましょう」
ペットボトルから顔をのぞかせて僕がそう言うと、その女性は顔をしかめた。
「またあんたなの……。幻覚じゃなかったのね」
「ええ。何か願いはありますか?」
「あるわ。一生食べるに困らないだけのお金が欲しい」
来た。
即答だったところからすると、きっと、前回僕が帰ってから、後悔して願いを考えたんだろう。
お金に関することは、僕が今まで色々な人から聞いた中で、一番多かった願いだ。
「なるほど。具体的に、いくら必要なんですか?」
「え? ええと……。じゃあ、三お……いやいや、待って。私がここで金額を言ったら、あんたはどうするの? どこかから盗んででもくる?」
「そんなことはしませんよ。偶然の積み重ねであなたが儲かるように、確率を調節するんです」
「なんだか凄いわね。でも、お金が儲かった分、別のところで不幸になるなんてことがあるんじゃない?」
「さあ。それはあなたの心掛け次第ではないですか?」
「…………」
女性はしばらく黙って何か考えていたが、
「……やっぱり、いいわ。だってこういう話って、欲をかくと不幸な結末になるに決まっているんだもの」
「願い事はない、ということですか?」
やや意外に思いながら僕が訊くと、女性は頷いた。
「ええ。地道に頑張るわ」
「そうですか。では、契約の権利を放棄するということで、よろしいですね。さようなら」
僕はペットボトルの中へと去った。
「さようなら。……もったいないことしたかしら」
最後にそんな声が聞こえた。
この女性は、大きなチャンスを逃した。けれどきっとこの先も、詐欺の被害に遭うことはなく、自分で言った通り、地道に頑張っていくのだろう、と僕は思った。




