4. 話が始まらない
「あなたの願い事を一つ叶えてあげましょう」
僕がそう言うと、その女性はしばらく黙って僕を見つめた後、
「……疲れてるのかしら。妙な幻が見えるわ」
と言って僕の上に蓋を被せようとした。
「うわぁぁぁ! ちょっと待ってください!」
僕は必死で叫んだ。
確かに、ペットボトルの蓋を開けたら中から妖精が出てきたという状況は、驚くに値するものだけれど。
ここで蓋をされてしまうと、僕の立場というものが……。
――あ。
☆
僕が顔を見せると、友香はちょっと驚いた顔をした。
「あれ、もしかして、来ちゃいけなかったかな?」
そう訊くと、友香は首を振り、
「玄関から来ると思っていなかったから……」
と言った。
「うん。普通に友達らしくしてみようかと思って。それで、どうせなら敬語もやめようかと思ったんだけど、嫌じゃないかな?」
「ううん。大丈夫。じゃあ私も……、いらっしゃい、アル」
「お邪魔します……あれ? するよ、かな? ……まあいいか。お邪魔しまーす」
友香について家に上がると、今日は居間へ通された。
「紅茶でいい? あ、そもそもアルは、お茶は飲める?」
ティーカップやポットを準備しながら、友香が言う。
「うん。人間と同じものが大体食べられるし、紅茶は好きだよ」
僕がそう答えると、友香は嬉しそうにお茶の支度をしてくれた。
二人分のお茶が揃うと、友香は僕の斜め向かいの席についた。
「それで、今日はどうしたの? アル、少し疲れているみたい」
「うん、実はこの前、願いを叶えたせいでおばあさんが一人亡くなってさ……。ちょっと落ち込んでるんだ。今日は今日で、自己紹介する前に追い返されちゃったし」
「大変なのね……」
「そうしたら、なんだか急に友香のピアノが聴きたくなったんだ」
僕がそう言うと、友香はちょっと赤くなった。
「だったら、これを飲み終わったら何か弾くね」
……その後、友香は約束通りにピアノを弾いてくれた。
ノリが良くて思わず踊りだしたくなっちゃうような曲だった。
聴いているうちに僕は元気が出てきて、今日の女性のところへもう一度行ってみようという気になったのだった。




