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1. 妖精登場

「あなたの願い事を一つ叶えてあげましょう」

 僕がそう言うと、その女の子はびっくりして僕を見つめた。

「ど……、どうして花瓶から人が――」

「僕は妖精です」

 そう訂正すると、女の子はさらに驚いて僕を見た。

「妖精って、もっと小っちゃくて、透明な羽が付いてて、きらきら光ってるんじゃないの?」

「いいえ」

 僕は、花瓶から這い出しながら答えた。

「現実はこんな感じです」

 足の先まで這い出ると普通の人間と変わらない大きさになった僕の姿を上から下まで眺めて、女の子は落胆したように溜息をついた。

「はぁ……。妖精のくせに『現実は』とか言ってるし」

「ほっといてください」

 僕は頭を抱えたい気持ちになった。

 どうやら信じてはくれたようだが、近頃は生意気な子供が多くて困る。

「ねえ、妖精なら、空飛んで見せてよ」

 女の子の口にした言葉に、僕は目を輝かせた(と思う)。

「それがあなたの願い事ですか?」

「え? ううん。まさか!」

 女の子は慌てて首を横に振った。……なんだ。違うのか。

「では、あなたの願い事は何ですか?」

「え、何、願いを叶えてくれるの?」

「だから最初にそう言ったでしょう」

「へえ、凄い。でも、うーん。そうだなあ……。どんな願いでもいいの?」

「どうしても実現できない願いはいくつかあります。死んだ人を生き返らせるとか。でもそれ以外は、一つなら大抵の願いは叶えられます。あ、願い事の数を増やすことはできませんよ」

 僕の言葉に、女の子は腕を組んで真剣に考え始めた。

「……何でも好きなものが出てくるポケットをちょうだいっていうのは?」

「一つのものしか出せなくても良いなら――」

「それじゃ駄目」

「…………」

 耐えろ、耐えるんだ僕。

 僕は必死で自分にそう言い聞かせて、なんとか笑顔をつくった。

「……願い事が特に無いなら、僕には用が無いってことでしょうか。それなら僕は帰らせて――」

「待って!」

 やはりというか何というか、女の子は僕の言葉を遮って言った。

「じゃあ……じゃあ、妖精さんのその力をちょうだい!」

「……僕の力、ですか?」

「そう!」

「その場合もやはり、叶えられる願いは一つだけですよ?」

「いいの」

 女の子は力強く頷いた。

「一生に一つの願いは、時間をかけて決めたいから」

「……僕と同じ力が欲しい。それが、あなたの願いですね?」

 僕が厳かに言うと、女の子は再び頷こうとして――

「あっ、でも、願いが叶ったら魂を()るとか言わないよね?」

 と訊いてきた。

「それは悪魔のやり方です。僕は妖精ですよ?」

「いや、そんな偉そうに言われても、そもそも妖精が願いを叶えるなんて聞いたことないけど。むしろ妖精ってイタズラするものじゃないの?」

「それは種族によります。僕の種族は、人の願いを叶えるのが生きがいなんです」

「変わってるね。……でも、魂じゃなくても、何か取ったりしない?」

「し・ま・せ・ん。……もう一度確認します。あなたの願い事は、『僕と同じ力が欲しい』。それでいいですね?」

 今度こそ、女の子は頷いた。

「――うん」

「契約成立です。あなたの願いは叶いました。……では、僕はこれで」

 こうして、僕は女の子の前から去った。

 しかし、本当に良かったんだろうか?

 あの女の子は肝心なことを忘れている。

 僕の力は、『他人の願い事を、一人につき一つ叶えること』。

 あの女の子の場合は、誰か一人の願いを一つだけ、ということになるが。

 ――つまり、あの子に叶えられるのも、他人の願いだけなのだ。

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