表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪党がゆく  作者: ばん
6/43

そしてわたしは悪党になった

 昨日の朝はこれからどうなるのかと不安でしたが、頼りになる新メンバーも加入したことだし、きっとなんとかなります。着実に一歩前進してます。

 ポンプさんはまだ別の宿なのでギルド集合です。 


 とりあえず、あっさりとメンバーが決まったので募集を取り下げておかないといけませんね。こういう後処理は私の仕事だったりします。というか、基本みんな忘れているので私が仕方なくやっているんですが。

 受付の人に頼んで依頼を取り下げてもらって合流すると、なにやらジークさんとポンプさんが明らかに昨日より仲が良い感じになっています。昨日、解散してから二人でもう一件行くとか言ってましたが……


 「おはよう。ナナリーさん」

 「おはようございます。ポンプさん」

 「じゃあみんな揃ったところで作戦会議だ」


 といっても、昨日とあまり変わらない内容な気がします。どこまで潜れてどれが一番稼ぎそうか、そんな話です。


 「なぁちょっといいか」

 あまり積極的に会話に参加してなかったポンプさんから提案があるそうです。

 「俺は正直言うと、このままやっても埒が明かないと思う。俺はスラムで育ったし、そのアンディっていう奴隷商人は知らないがだいたい予想はつく。蛇の道は蛇だ。危ない橋かもしれないが……」


 そういって聞かされたのは600万はどうせ払えないから吹っかけられたということと裏の仕事があるということでした。ポンプさんはスラムに伝手があるといってどうするか判断は任せるといって席をはずしました。


 「彼の言うこともわかる。ダンジョンに潜っても すぐに大金は手に入らない。僕はカレンを早く助け出したいんだ」

 「しかし、裏の仕事となればダンジョンに潜るよりも危険だぞ」

 「とりあえずどういう仕事があって報酬がいくらなのかで決めませんか?そんなに危険じゃなくて割のいい仕事っていうのもあるかもしれませんよ?」



 しばらくしてポンプさんが戻ってきました。とりあえず話だけでも聞いてみてから決めるという前向きな考えで私たちは知り合いがいうというスラムへ向かいました。




 だいぶ歩いて街外れのボロボロの小屋の前で掃除をしている赤い髪の細身の男がいました。ポンプさんが足を止めるとこちら男がに気付いたようで声をかけてきます。


 「よう、ポンプじゃねぇか久しぶりだな。冒険者になったって聞いたぜ。生きてたんだなー」

 「ああ。久しぶりだなマッチ。お前まだやってるか?」

 「そりゃあ……ってお連れさんは冒険者仲間ってやつか?」

 「そうだ。仲介を頼みたくてな」

 「ここじゃなんだから中で聞こうか」


 なぜとかなにをとか色々抜けてるんですが、いかにもって感じでちょっとドキドキします。マッチさんの後に続いて中へ入ります。


 「まぁ事情はきかねぇけど、お前さんらにできる仕事なぁ……」

 そういってあごをさするマッチさん

 「無ければ他を当たる」

 と、あっさりなポンプさん

 これがスラムのやり取りってやつなんでしょうか。


 「無いとは言ってないぜ。そうだな、ガルドまでの運び屋ぐらいならできるか」

 「報酬は?」

 「500万だ。そんなにやばいブツでもない。ただ、貴族絡みなんだよ」

 「ちょっと相談させてくれ」

 「わかった。お茶でも淹れてくるわ」


 そういってマッチさんが席を外してくれます。作戦タイムです。

 「運び屋ですか。思っていたより普通じゃないですか?」

 「まぁ、誰かを殺せとかそういうのじゃなかったし僕は受けてもいい」

 「だが、報酬の500万では足りないぞ?」

 「そこは俺がなんとかするよ」


 報酬を600万にあげれたら受けるということで決まりました。交渉は任せて欲しいとポンプさんが立候補したのでポンプさんが担当です。ポンプさん頼りです。


 「それで相談は終わったかい?」とお茶を給仕するマッチさん

 「まぁだいたいはな。しかし、貴族絡みってのがな。どうせスラムの奴等は誰も受けてねぇんだろう?700万だ」

 「お前なぁ……仲介してくれって来たのはそっちなんだぜ?550万だ」

 「こっちはCランクパーティでガルド周辺のモンスターも余裕で狩れるぞ。600万」

 「わーったよ。そんなに自信があるなら600万でいい。失敗だけはすんなよ」


 す、すごいです。100万も報酬に上乗せしちゃいました。

 なんだかトントン拍子で決めてしまいましたが、大丈夫ですよね?

 ポンプさんが頼りになりすぎて怖いです。ポンプさんについていけばオールオッケーでしょう。余裕です!


 「それじゃ依頼内容だが、依頼人はプルーノ男爵。ここポルムから三日の位置にあるガルドのジェイド侯爵が受取人。ガルド近くの森で受け渡し。ブツと地図は俺と一緒に男爵のとこまで取りにいってもらう。ちゃんと契約書もあるからそんなに心配しなくていい。あとは侯爵からサインもらって返ってくれば完了だ。簡単だろう?」

 「詳しい日時とかはわからないか?」

 「そこらへんは男爵に会って直接だな。通信具で決めるんだろうよ。それじゃあ、閉門する時間ぐらいにまた来てくれ」


 

 なんだか、あっけないくらいにあっさりと仕事が決まってしまいました。昼食を食べて午後からは野営の道具や食料などの準備にあてられることになりました。


 「いくら貴族絡みだからってなんでスラムの人達は受けなかったんでしょうか?」

 「あぁそれは、もし失敗したらスラムが文字通り無くなるからだよ」

 「確かに住むところがなくなったら大変だもんなぁー」

 「それにスラム全体への報復もあるが個人へももちろんあるだろう」

 「なるほどですね。じゃあ冒険者が受けないのは?」

 「たまたまじゃないか?俺達が一番依頼を受けるのが早かった。それだけさ」


 ギルドの依頼も早い者勝ちですし、マーティさんの言うとおりかもしれません。

 とにかく依頼を達成すればいいのです。


 「じゃ、足りないものは確認したし各々物資の調達をして噴水前集合だ」


 私の担当は食料です。根菜や干し肉、調味料などお店で買っていきます。ポンプさんは野営が初めてなのでジークさんと一緒に買いにいきました。マーティさんは盗賊などの情報収集や馬車の手配です。


 特にトラブルもなく噴水前に集まったころにはもう夕暮れ時で、一旦荷物を宿に置いてマッチさんのところへ向かって男爵邸の裏口から入ります。


 マッチさんは臆することなく進んでいき、何やら誰かと話すと中へ招き入れられます。初めて貴族のお屋敷に入りました!高そうな壷とかがありますよー


 「あまりキョロキョロするなナナリー」

 「うぅ、すいません」


 怒られてしまいました。案内してくれる執事さんにまで睨まれてしまいました。この人苦手です。


 「とても高価なものもございますので、お手を触れないように」


 盗ったりしませんよーだ。

 そうこうしてるうちに案内が終わったようです。


 「では、あっしはこれで失礼します」

 「ああ。見られぬよう気をつけて帰りたまえ。それで君達が依頼を受けてくれる冒険者か」

 「はい。よろしくお願いします」

 マーティさんが代表で答えます。

 「依頼内容を聞いていると思うが少しばかり事情を話しておこう。運んでもらう品物だが、とても貴重なものだ。そして今はまだ誰の目にも見られたくない。わかるだろう?品物を見られて噂でも立てられると非常に困ったことになる」

 「事情はわかりました。お約束させていただきます」

 「では契約を交わそう。セバス、契約書を」

 「かしこまりました。旦那さま。こちらにサインを」


 差し出された羊皮紙にサインをしていきました。内容も確認しましたがおかしなところはありませんでした。執事が回収し、男爵も確認します。


 「こちらは私が預かっておく。これが地図だ。それと受け渡しは4日後だ。依頼完了後に報酬を渡そう」


 私たち全員が頷くと執事が銀色のケースと地図をマーティさんに渡しました。

 事情を説明されましたが口ぶりから察するに危険物というよりは人目に触れるとそれを狙う輩がいっぱい増えるような意味で嫌がっているような気がしました。なるほど、だからギルドの依頼ではダメだったのでしょう。ギルドの規定では冒険者は自由に国の行き来ができる分、物資を運ぶ時は品物は明確であることが条件ですし。



 一日あけて翌日、私たちはガルムへ出発しました。

 襲ってくるのはゴブリンだけでそれもポンプさんがあっという間に倒してしまい特に問題なく順調に進みました。

 事件は二日目の野営の時に起こりました。


 「アオーン!」


 木々が風で揺らされざわつく音に紛れてフォレストウルフの遠吠えが聞こえたような気がします。


 「今のは……」

 「あぁ。だが遠いだろう」

 「念の為、見てこよう。ジーク行こうぜ。マーティとナナリーは待っていてくれ」


  この依頼中、率先してモンスターを倒していたポンプさんが責任感の強いジークさんを誘って暗い森の中へ入っていきます。


 「ポンプさんとジークさん、仲良いですね」

 「そうだな。ウマが合うんだろう」


 う、なんか会話が続きません。マーティさんはカレンちゃんの一件から妙に明るかったり、落ち込んでたり上の空だったりすることが増えてます。

 ぶっちゃけめんどくさいやつになってます。

 ここでへたに慰めたりしちゃうとカレンちゃんが戻ってきた時に痴情のもつれが発生したりするのです。


 「それにしてもちょっと遅くないですか?」

 「あぁ。だけど待つしかないだろう。ミイラ取りがミイラになる」

 「なんですミイラって?」

 「なんでもない。大人しく待ってた方がいいってことさ」


 のそりのそりとポンプさんが森から帰ってきました。


 「特に異常なしだった。森っつっても広いからなー」

 「あれ?ジークさんは?」

 「用足しだ。そのうち戻ってくるさ」


 それからだいぶ時間が経ってもジークさんは帰ってきませんでした。


 「いくらなんでも遅すぎる!」

 「そりゃそうさ。おねんねしてるからな」

 こともなげにポンプさんが告げます。

 「いったいどういうことだ!」

 「説明を俺に求めるのか。まぁいいけどよ。お前さんたち今までおかしいと思わなかったのか?」

 「何が言いたい」

 「あっさりパーティメンバーが応募にきたり、裏の仕事を紹介されて報酬が600万?あまりにも都合が良すぎると思わなかったか?」

 「それはポンプさんがいて……くッ!?」

 「わかったみたいだな。ま、この絵を描いたのはオニヅカのアニキなんだけどな。ハハハハハ!」


 「貴様ぁ!オニヅカの手先か!」

 「おしゃべりももういいだろう。かかってこいよ腰抜け」


 そう言うとワナワナ震えていたマーティさんがポンプさんに切りかかりました。けれど一撃もくらわせることなくぶっ飛ばされて木にぶつかり気絶してしました。ここは連携とかする場面じゃなかったのでしょうか……


 「さて、あんたが最後だがやるかい?魔法を当てられる自信があるならかかってきな」


 多分、こうなった時点で勝ちも負けもありません。ローランさんが言ってました。カモられたら骨までしゃぶられるって。カレンちゃんだけではなく、私たち全員がカモだった。なにもかもおしまいです。諦めます。降参です。


 「そうですね、やめておきます。勝てそうにないですし。ひとつ聞いてもいいですか。私たちはこれからどうなるんですか?」

 「みんな仲良く奴隷になるのさ。ナナリーはもううちに買い取りが決まってるぜ」


 「おいポンプ。くっちゃべってないでマーティを縛っとけ」


 いつの間にかオニヅカまでいます。あぁマッチさんまでいます。


 「さて、ナナリー。初めましてではないが自己紹介しよう。オニヅカだ。そこにいるポンプとマッチは俺の子分だ。ポンプはああ言ったがナナリーに関してはナナリー次第だ」


 そう言って語られた内容は……奴隷か仲間になるか。

 奴隷になってもオニヅカさんに買い取られて終わり。だけど、みんなを裏切った形にならない。しかしなんでまた仲間に勧誘するんでしょう?

 幸いあの二人は気絶していて裏切ったとしてもわかりません。でも、仲間になったところで私が奴隷にならなくて済むだけ……結果は同じ、過程は違う。ならどこが違う?……裏切るか裏切らないかが違うだけ?


 「オニヅカ……さんは私に悪党になってほしいんですか?」


 「そうだ。ポンプだってお前たちを裏切った悪党だ」


 「それでも、やっぱり仲間は裏切れません!」


 「よし、ナナリー合格!おめでとう」

 「おめでとう」

 「おめでとさん」

 「めでたいなぁ」


 「あ、ありがとうございます?」


 なんで、オニヅカさんこんなにいっぱいおめでとうって言うんですか。

 ってなんで合格?!


 「ナナリー、お前は賢い。俺がマーティに目をつけなくてもいずれ問題を起こしていたのはわかるな?ちょっと自分たちより強い奴がいたらそれまでだ。では、どこで何を間違ったか。ナナリーはついていく人間を選び間違えた」


 確かにそうかもしれません。意見は出すけど、方針はいつもマーティさんが決めていたし。リーダーが問題を解決すならともかく問題を起こすリーダーなんて……

 

 「後悔しているな。マーティは今回の件が起こるまでは明確にミスをしていなかった。だから、パーティを抜ける理由もなかった。でも、このままでいいのかって心のどこかで感じていただろう?」


 「それは、……そうかもしれません」


 「さっき仲間は裏切らないと言ったが、今はどうだ?見捨てられないか?このまま間違えたまま奴隷になるか?」


 「…………」


 「一度だ。一度だけ裏切れ。ナナリーの罪は選択を間違えたことだ。間違っていたなら正せばいい。だが同時に犠牲も必要だ。仮にこのまま奴隷になったとしてお前の中で何が変わる?何も変わらないだろう」


 私が奴隷になっても何も変わらない。ついていく人が変わるだけ。

 また誰かに自分の運命を委ねるの?そんなの……


 「奴隷ではなく仲間としてついてこい。そして学べ。いつか俺を殺しても裏切ってもいい」


 なんなんでしょうこの人は!言ってる事がめちゃくちゃです。裏切るのは一度だと言いながら自分は裏切られてもいいなんておかしいです。


 「ただし、あいつらの為だとかそういう言い訳をして裏切るのはやめておけ。それで俺に復讐したところで裏切った事実は変わらんし、恨みが消えるわけでもない。なんで裏切ったんだとかそんなことをずっと言われ続けるだけだ」


 私はローランさんからオニヅカさんのことを聞いて、ギルドで忠告をされた時からパーティを抜けようとしていたんです。カレンちゃんの居場所がわかって言い出しにくくなってそれで流されてしまったんだ……。

 私は間違えた。また間違うところだった。奴隷なんて嫌だ。

 もう流されない。自分で決めるんだ。

 

 

 「わかりました。ちゃんと自分の意志で裏切って悪党になります」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ