仕込み
んー、いまいちやる気でねぇな。なんかどうもよくなってきた。いかんいかん。っつても、俺の出番あるのか?とりあえず、脚本をアンディのところに確認しにいこう。
昨日はあれからあいつらと麻雀したけど、サンマはあんまり好きじゃねぇんだよな。かといってメンツを増やそうにも点数計算とかいちいち俺がやるのもな。ポーカーぐらいならさすがに誰でもできるか。これはあれだ、この世界は娯楽が少なすぎるんだ。カジノでも経営するのもいいかもしれないな。ったくこっち来てまで人材不足かよ。
よくある内政チートとか絶対やらねぇ。【お取り寄せ】あるしな。俺だけのアドバンテージをなんで捨てなきゃいけないのかまったくもって理解できん。食うか食われるかの弱肉強食だろうに。
俺ぁよくわかんねーんだけど、剣と魔法の世界に科学とか持ち込むとか世界観ぶち壊しすぎだろ。管理してる神様とかブチギレしそうだし。ギャンブルぐらいは大丈夫だろう。そういうことにしておこう。
ラスベガス化計画と名付けよう。そのうち夜の帝王になってしまうかもしれん。
ふむ、そうなるとやっぱり奴隷を買う方が裏切られる心配もないしアンディには精々おいしい思いをしてもらわないとな。方針も決まったので足取りも軽くアンディの店に向かう。
「んで、どーするかだいたい決めたか?」
「いくつか案がございまして……」
「聞こう」
アンディの報告によると昨日やつらが来たらしい。600万ねぇ。どう考えても無理だ。無謀すぎる。随分ふっかけやがったな。まぁ呑めるとみたんだろう。
闇金の長期的プランでもいいが、冒険者なんていつ死ぬかわからんし元が取れるかわからんから却下だな。こういう確実な手が使えないのは痛い。Aランクとかならいけるかもしれんが、一流は罠にハメるところからの仕込みがあるからめんどくさい。
んーまぁそうなるかー。思考が奴隷商人だからやっぱみんな仲良く奴隷落ちですか。マッチとポンプいるしいけるだろう。
「プランBで。人選は?」
「プルーノ男爵に頼んでみます。お得意様ですので大丈夫でしょう」
「あのおっさんか。ブツはこっちで適当に用意しとくわ。あとでマッチから受け取ってくれ」
「かしこまりました。ではこの後で男爵と条件をつめてきます」
細々とした打ち合わせを終え店を出るとおやつ時だった。ちょっと茶しばいてからマッチに会いに行くか。それらしいブツも考えんとあかんしな。
知り合いの店でいいか。ここから割りと近いし。
「マスターいつもの」
「いらっしゃいませ。いつものですね。少々お待ちを」
ここは貴族に仕えていた元執事が引退して始めた店だ。しばらくいってない間に客が貴族になれた雰囲気を味わえるということでそこそこ人気になったらしい。これが本物の執事喫茶だな、うん。
実はここもタダなんだ。最初は紅茶しかやってなかったんだが、コーヒーを飲みたい俺がリクエストして【お取り寄せ】でいろいろ出した結果、マスターがどハマリしちまった。定期的にコーヒー豆を卸すついでに店での飲食はタダになった。
ぼんやりと俺専用ソファーでリラックスしてると店内にいい匂いが漂う。そろそろ来るか。
「お待たせいたしました」
「おーきたきた。あとで豆補充にいくけどリクエストあるか?」
「はい。はわいこなを多めでお願いします」
「やっぱりそっち系がいいのか。まー好みだしな。わかった」
普通にうまい。研究熱心というかなんというか。一年ぐらいで上達しすぎなんじゃねーか?マスターぱない。
ブツは適当なイミテーションでいいんだが、宝石はこっちでもあるしな。手ごろな値段で珍しそうな宝石系ねぇ。……真珠でいいか。内陸部だし知らんだろう。つーか、パチモンっつっても価値なんてわからんしいいシノギになるかもしれん。とりあえずプルーノ男爵に目利きしてもらって貴族にうけるか調べるのも追加だな。出所はダンジョンってことにしておこう。珍しいものはたいていダンジョン産だしな。予定変更だ。
そうと決まればアジトに戻ろう。どっちかは戻ってきてるだろう。
アジトに着くとマッチが掃除をしていた。
「アニキ、お疲れ様です」
「おーご苦労。ポンプのやつは?」
「例のパーティに入って一緒にダンジョンに潜ってます」
「そうか。まぁポンプがついてるなら大丈夫だろう。マッチ、お前の首尾は?」
「へい。報告書はこちらに」
パーティ名:ソードマジック 結成:約3年
パーティーリーダー:マーティ 剣士 Cランク
メンバー:カレン 剣士 Cランク
:ジーク 盾士 Cランク
:ナナリー 魔法使い Cランク
「前衛の火力重視パーティ。Cランク昇格は1年前で、最近、ダンジョン攻略にこの街にやってきたとのこと。マーティとカレンは幼馴染で恋仲だという噂アリ。前衛3人の評価はそこそこ。唯一、後衛のナナリーは優秀な魔法使いで火・水・風の3属性持ちで過去には引き抜きの話もあったそうです」
「ほう。思わぬ掘り出し物がいたな。あの小物っぽい嬢ちゃんがなぁー」
「マーティは正義感が強くその分トラブルが多いですね。ジークはストッパーってところでしょうか。カレンはあんまり賢くなさそうっす。ナナリーはあんまり自己主張しないタイプで後をついてってる感じっす。報告は以上っす」
「ご苦労。そこらへんも報告書にまとめて書いてファイルしとけ」
魔法使い、魔法使いねぇ。貴重っちゃ貴重だが、いないわけでもないレベルなんだよなぁ。うちで囲ってもせいぜいマッチとポンプとでダンジョンに行くぐらいしか使い道がない。一応聞いておくか。
「おい、マッチ。ナナリーを入れてお前ら三人でダンジョン攻略やってみたいか?」
「そうっすね。面白そうっす。ポンプの奴もアジトで筋トレばっかしてるよりはダンジョン潜ってた方が楽しいでしょうし」
あー基本仕事がないと放置プレイしてたからな。暇を持て余していたか。
「そうか。わかった。ダンジョンで鍛えておくのも悪くないかもしれん。今後S・Aランクともやりあうこともあるかもしれんし、そうなるとあと二人は欲しいな。やはりスカウトするしかないか」
「あ、アニキ?」
話している途中だというのに考え込んでしまった。
「大丈夫だ。任せておけ。それで今後の予定だが……」
マッチにはソードマジックに近付いて例の仕事の斡旋役や男爵との顔合わせもある。ということを話していく。ポンプには書置きを残し、真珠の目利きの為に俺も同行することをアンディに伝える為に用意万端でマッチと一緒にでかける。
アンディのところに寄ると、もう話は通してあるとのこと。いつでも来てくれてかまわないとのことなのでさっそく男爵邸へ。
切れ者そうな執事に案内されて中に入る。
「旦那様、オニヅカ様をお連れいたしました」
「久しぶりだな男爵様」
「アンディから話は聞いている。お前まで来るとは聞いてないんだが」
「ブツに使うものなんだが、ちょっと男爵様に目利きをしてもらいたくてな」
「何か珍しいものなのか?」
「ああこれだ。あー男爵夫人も呼んでくれ。こういうのは女性の方がわかるかもしれん」
男爵が執事に命じるとしばらくして男爵夫人がやってきた。
その間に男爵の目利きをしてもらった。そして幸いなことに真珠は高評価だった。
「どうも、お久しぶりです。男爵夫人」
「こんばんは、オニヅカ様。お久しぶりでございます」
挨拶をしつつ男爵夫人の目がすでに真珠にいってるんですが。この人、目ざといからな。
「これはなんですの?とってもキレイですわ……」
「真珠といいます。何と言われてもまぁ困るんですがね。宝石の輝きとはちょいと違いますが、この真珠のネックレスの連なりは見事でしょ?」
「ええ!素晴らしいわ。ドレスの色や瞳の色や髪の色に合わせた宝石を身に着けるのが一般的ですが、色によっては高価になりますし、かといって違う配色の宝石を身に着けるのはバランスが難しいんですの。でも、しんじゅ?でしたらどの色にも合わせやすいと思いますわ」
すっかり興奮しちゃって男性陣置き去りなスピードでまくしたてる男爵夫人。
お墨付きは貰えたので大丈夫だろう。合わせやすいのはいいけどそれはそれで価値が下がらないんだろうか。ヘビロテアイテム扱いされても困る。
「これは貴重なものでして、よく見ると真珠の大きさがすべて揃っているから美しいんですよ。真珠の大きさをすべて一定に保てるかは、真珠を多く揃えてその中から同じ大きさのものだけをネックレスにしているわけです」
試しに持ってきた先に出したものより一回り大きなネックレスを並べるように出してみる。
「……こ、国宝級ですわ」
評価高過ぎでしょうよ。ま、いいや。だいたいわかった。
「目利きのお礼に両方差し上げますよ」
そう言うと、男爵夫人は失神してしまった。俺は悪くねぇ。
「おいオニヅカ!」
ま、ちょうどよかったか。とりあえずマッチを紹介しとかないと帰れない。
「いや、予想できんでしょう。真珠は男爵に預けておきますからうまくやっといてください。あ、ちゃんとブツの方は別に用意してあるんで。後日、俺の後ろにいるマッチが訪ねてくるんでよろしくお願いしますね。では!」
ふー。これで仕込みは終わったし、あとはお任せでいいな。
メシ食って帰ろう。