ナナリーの葛藤
あーもうやってらんねえです。なんであんな決闘なんてしてしまったのでしょう。おまけにカレンちゃんはどこかに連れていかれるし、レアドロップのシルバーソードも持っていかれました。うまく隠してましたけど、あの身のこなしはAランクはありましたよあの人。マーティが一撃も当てられないなんて。これからどうしたらいいんでしょうか。
そこに部屋のドアをノックされてジークさんがやって来たのだと予想がついた。彼を招き入れて少し相談しよう。
「マーティはまぁその大丈夫だ。二、三日もすれば治るだろう」
「そうですか。えっとジークさんはこれからどうします?」
「カレンを探すぜ。マーティを止めなかった責任は俺にもあるしな。ナナリーはマーティについていてくれ」
もう夜も遅いので手短に要点だけ話したら終わりだった。責任感の強いジークさんだけど実際のところはそこまで頼りにならない人だ。あんな馬鹿をほっといてカレンちゃんを追えばよかったのに。あのコワモテのお兄さんの方が一枚も二枚も上手だったし、もうこのパーティは駄目かもしれない。そんな予感を覚えながら眠りについた。
昨日あんなことがなければ、と思うほどいい天気です。朝食を食べてマーティの部屋に来てみましたが呑気に寝てやがります。また勝手なことをしないように監視していなければなりません。これもパーティメンバーの義務なのでしょうか。
「んん、ここは・・・・・・?」
「宿ですよ。おはようございますマーティさん」
昨日倒されてからの一部始終を語ってジークさんがカレンちゃんを探していることを伝えました。少しは反省してくれるといいんですけど、なんか怒ってますね。
「・・・・・・クソッ」
「今日は大人しくしててくださいね。朝食を貰ってきます」
階下におりてマーティの朝食を頼みました。おや?あそこにいるのはローランさんです。フリーの斥候でなかなかの情報通。うちのパーティとも何度か組んだことがあります。あのコワモテのお兄さんの事も知ってるかもしれません。聞き込みです!
「おはようございますローランさん」
「おはようナナリーさん。同じ宿だったんだな」
「ええ。偶然ですね。あの、昨日の事って知ってますか?」
「あー。朝、ギルドの方で噂されてたぜ。あの人相手にやっちまったなぁマーティのやつ」
「そんなにヤバい人なんですか?あのコワモテのお兄さんは」
「んーぶっちゃけるとヤバイ。オニヅカヤバイ」
あのコワモテのお兄さんはオニヅカさんというらしい。ぶっちゃけられてヤバイとしか端的に言われないってことはヤバさがヤバいです。詳しく聞きたくなくなってきました。思わず黙り込んでいるとローランさんが勝手に話の続きを話しはじめました。曰く、悪人には優しい。曰く、カモられたら骨までしゃぶられる。曰く、女子供でも容赦しない。も、もうこれ以上は聞きたくないです!
「わかりました!もうわかりましたから!!」
「ん?もういいのか?まだまだいっぱいあるんだけど」
「どんだけエピソードあるんですか!よく捕まってないですね」
「いや捕まってたこともあったな。すぐ脱獄してたけど。まぁあれだタブーになってるんだよ。オニヅカには関わるな、がこの街のルールだ」
「関わってしまったら?」
「・・・・・・諦めろ」
もーダメです。終わりました。絶望しかありません。
おそらく脱獄したのも捕まえるのは無意味だぞってアピールなんでしょう。なんて恐ろしい人。オニヅカヤバイ。超ヤバイ。これは本格的に泥船ですね。逃げる準備をしないと私まで骨までしゃぶられることになりかねません!嫌です!ノーフューチャーです!ローランさんにお礼をいってマーティさんの朝食もって戻ります。
「マーティさん朝食ですよー。あれ?んんん?いないっ!?」
行動力ありすぎですマーティさん。ジークさんに伝えないと!全部ジークさんに丸投げすることにしました。しがないいっかいの魔法使いですし、なんの役にも立たないです。フェードアウトします。
すれ違ったとき用に宿とギルドに伝言を残しておきましょう。私のことまで探されても迷惑ですし。宿の主人に伝言を頼んでギルドに行きます。
ギルドにやってきました。入るなり憐れむような視線がビシバシ来てます。もう皆さんだいたいの事情をお知りのようですね。こうなりゃ開き直るしかありません。
「おーい、そこの魔法使い」
「なんでしょうか?」
普段絡まれることなんてないのに速攻で声をかけられます。ここは私だけでも無関係だと思わせないといけませんね。先手必勝です!
「お前、マーティんとこのパーティメンバーのナナリーだったよな?」
「は、はい。っていうか、違うんです!昨日のあれはマーティさんが勝手に!それで、それでカレンちゃんは・・・・・・」
「あ、いや、おまえさんは悪くねぇよ。ちょっと心配でな。なあみんな!」
ふふふ、チョロいです。ちょっと上目遣いでウルウルしとけばオッケーです。皆さん分かってくれたみたいで良かったです。
「あ、あの!マーティさん見ませんでしたか?ちょっと目を離した隙にいなくなってしまって探してるんです」
「ここには来てねえな。ってか、マーティのやつはオニヅカのこと知らないのか?」
「話す前に出てちゃったんです」
「そうか。まぁなんだ、マーティはともかく、嬢ちゃんはもう関わらん方がいいぞ」
このおっさ、おじさんの話ではどうやら私はセーフらしい。マーティさんはロックオンされててアウトっぽい。ここは素直に忠告に従いましょう。お礼を言ってギルドの受付嬢さんに伝言を頼んでおきます。
その後、宿に様子を見に戻ってきたジークさんと合流し、事情を説明してマーティさんとも無事に合流できました。顔を腫らした男を見つけるのは割と簡単でした。
ジークさんが調べたところによるとアンディという奴隷商人のところにカレンちゃんはいるそうです。うう、尚更パーティを抜けるなんて言い出しにくくなりました。
そうこうしてるうちに着いてしまいました。
「カレンがここにいると聞いた。返してもらおう」
「あなたがマーティさんですか。お噂は伺っています。ですが、私どもも商売でして商品をタダというわけにはいきませんし」
「いくらだ?」とジークさんが今にも殴りかかりそうなマーティさんを制して聞きます。
「600万ですな。まぁ多少性格が悪いですがそこはそれ、そういう女を自分好みに、というお得意様もおられまして、実はもう予約が入っているのですよ」
奴隷ってそんな高いんですか??しかも予約とかすっごい嘘っぽいんですけどー
「ずいぶん手回しがいいんだな?」
「時は金なりがモットーなので。ただ、ご予約のお客様がご多忙らしく売れるのは当分先になるかもしれません」
「つまり、お主は何が言いたいのだ?」
「いえ、そんなたいしたことではありませんよ。予約といっても手付金もまだですし、必ずご購入されるかはわかりかねますので」
「チッ、じゃあそのお得意様とやらが来るまでに僕達がカレンを購入しても問題ないんだな?」
「ええ。大丈夫でございます」
マーティが言質は取ったぞ!みたいな顔してるけど、確認しただけなような。
手付金ぐらい先に払っておいた方がいいかもしれません。
「話はわかった。一旦、宿に戻ろう」
「ちょっと待ってください。今、予約か手付金を払っておいたほうがいいんじゃないでしょうか?これでは後で不利になるような気がします」
それもそうだと、手付金はいくらか聞いたところ20万でいいらしく、なんとかみんなの手持ちで足りたので払いました。その時に奴隷商人が私を見ていたのがとても嫌な感じがしました。
そして宿に戻り、金策会議です。といってもやれることはダンジョンに潜ってレアイテムを見つけるかS級モンスターの討伐クエストぐらいしか思い付かず、とりあえずはカレンちゃんがいない分、パーティメンバーを募集することが決まり、解散したのでした。
アンディがナナリーを見ていたのはナイスアシストだったからです。
手持ちがなければ選択肢が取りづらくなって自転車操業になりやすいですから。