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悪党がゆく  作者: ばん
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下ごしらえ

「はぁぁよく寝た」


 どうもこっちの世界に来てから規則正しくなってやがる。やっぱりというか、電気がないしせいぜい22時ぐらいでほとんどの店が店じまいする。といっても起きるのは昼過ぎぐらいになっちまうんだけどな。今日はいろいろ予定が立て込んでいる。

 身支度もそこそこにまずはアーク商会に行こう。

 あくびをしながらけだるそうに歩く。真昼間からいい大人がうろついてるように見えるだろうなぁ。だいたい職人か商人か冒険者ぐらいしか仕事ないしな。職業選択の自由を謳歌してるのは俺ぐらいなもんだ。


 道中、屋台にちょいちょいと寄ってアガリを受け取る。治安が悪いせいか屋台をやってる連中の用心棒みたいになっていて一食浮くんだからやめらんねぇ。


 「おう。肉串一本くれ」

 「へい。少々お待ちを」

 「最近なにか変わったことないか?」

 「そうだね、ちょいと前になんか顔を腫らした男がえらく焦った感じで走ってったぐらいでさ」

 「お、そうか。ま、よくあることだな。んじゃ貰ってくぜ」


 ほんとよく見てるぜ。マーティくんはカレンちゃんを探し回ってるのかな?

 一応うっかり出会わないようにフードでもかぶっておくか。まだまだ彼にはやってもらわないといけない仕事があるしな。


 肉串を頬張りながらテクテク歩いていく。大通りから横道に入って目的地に向かう。人の流れに沿って発展するからちょっと行けばもう裏通りの雰囲気だ。いかにもあやしそうな店構え、つーか入り口が小さい。そんなアーク商会。


 「邪魔するぜ~」

 「っしゃい……ませ」

 「会頭はいるかい?」

 「どうぞ億へ。ご案内します」


 人を見て態度を変える店員。いつものことだが、ここの店員の切り替えは良い。人によっちゃ不快になるかもしれないが正しい対応だ。誰にでも礼儀正しいなんて信用できねぇ。だいたいそういうヤツは内心で文句言ってるからな。っと来たか。


 「どうもお待たせしました。オニヅカ様」

 「よー。ベルナーク、今日は武器の買取だ」

 「はは、オニヅカ様が持ち込むモノはいい品ばかりですからな。期待しておりますよ」

 「っと、これだ。ソードフィッシュのドロップだ。特殊効果付き」


 そういって手渡す。世間話とかめんどうな腹の探りあいなんてしない。時間の無駄だ。俺は商人じゃないからな。そういうのは商人同士でやるもんだ。時は金なりって言うしな。基本交渉もしない。ほんとはこんなのいくらでもいいんだ。大事なのは評判だ。ダチは多い方がいいってな。


 「ふむ、そうですな。【硬化】【切れ味】【クリティカル】ですか。90万でどうでしょう?」

 「ああいいぜ。それで頼む」


 どうやらなかなかの当たりだ。こりゃ浮かれるのもわかる。使いやすいオールラウンダーみたいな剣だな。これがあればBランクいけるだろう。こりゃ普通は売らんわな。正規さんなら150万ぐらいな剣だ。問題なく換金を終える。


 「んじゃ、またよろしく頼むぜベルナーク」

 「えぇ。お待ちしております」


 用件一個目終わり。次はミミーちゃんのとこだ。あいつなんか俺のことを勘違いしてて、あのテンプレやって俺が負けて白馬の王子様を待ってるヒロインしてんだよなぁ。いやもうそうなっちゃうと悪役っていうよりお父さんな気分だ。娘が欲しかったら俺を倒せみろ!みてーな。ちょっと残念な子だ。いきおくれなきゃいいが。


 裏通りからそのまま店の裏口に行く。仕込みか休憩中だろう。


 「ちわー。ミミーちゃんか女将いるかい?」


 皮むきに集中し過ぎてる地味な女の子に声をかける。あんまうまくねぇな。それもそうか、ピーラーとかないんだもんな。つーか、なんで頑なに男を雇わないかね。ひょっとしてひょっとしなくても女将はそっち系なんだろうか。ありえる。


 「ん?えっと、二階で休んでると思います」

 「そっか。ちょいと呼んできてくれ」


 さすがの俺も女の部屋にズカズカと入り込むような真似はしない。あいつらは俺の【お取り寄せ】知ってるからな。扱いが青い猫型ロボットに近い。迂闊だった俺が悪いんだけどな。エサは小出しにするに限る。


 「来たわね。ほらほら早く行きましょ」


 もう挨拶すらなし。あり地獄がなんかか?

 強引に必殺あててんのよ。をされて連行される。


 「わかったわかったからひっぱんなよ。ミミーも呼んでるんだろうな」

 「もちろんよ~。奥でお茶の用意してるわ。ティータイムにしましょ。オニヅカちゃんはお菓子の【お取り寄せ】頼むわね~」


 ナチュラルにたかられてるがいつものことだ。まぁいい狩り場なのはお互い様ってところだから文句も言えない。あの剣が90万だからな。お菓子の数千円ぐらい安いもんだ。それで済めば、の話だが……。


 「ったく、渡すもん渡したらさっさと帰るからな俺は」

 「ささ、座って座って~」


 席につくとテキパキとお茶を淹れてくれるミミーちゃん。さす看むす。

 これ見よがしに置かれた空の皿を見つつ思案する。今日はどれにすっかな~甘いもの甘いものっと。【お取り寄せ;マカロン】


 「ほいよ。マカロン」

 「おおお!なんかかわいい!食べちゃうのもったいない~!」


 ミミーちゃんお約束のリアクションども。その可愛いものを無慈悲にパクパクしちゃうんだぜ~。


 「んで、今回は店のもん壊してないし、そんな高いのはダメだかんな」

 「はいはーいわかってますよ~」

 「私の一言があったからだと思うんだけどねぇ??」

 「お、女将には化粧品ね。わかってますとも。ミミーはどうするよ?」

 「ん~~甘いものもいいしキレイになるのもいいし~」


 いっつも悩むからもう慣れた。こいつはキレイになって男に貢がせたプレゼントと俺からのおいしいお菓子を天秤にかけてる。長期的か短期的かみたいな感じだ。女将ぐらいになるともう目先の利益には釣られない。アンチエイジングしたほうが得だからな。まだリターンはあるらしい。さっさと女将には渡しておこう。【お取り寄せ】っと。


 「はいこれ。いつもの使ってるとシワとかシミとかなくなるやつね」

 「これよこれ。最近、評判いいのよね。もう五歳ぐらい若返ったかしら」


 適当に全面的に同意しておこう。めんどくさいし。

 そうこうしてるうちにミミーは決めたらしい。


 「今回は私もお化粧品で!」

 「なんだ狙ってる男でもいんのか?お前まさかあいつじゃないよな?」

 「あ~昨日の人~?ないない。オニちゃんに負けてるし」


 三角だろうが四角だろうがいかないと彼氏もできないというのに。まあいいっか。【お取り寄せ】っと。


 「あ、そうだしばらくここには来ないわ。んじゃ俺行くから」


 さくっと渡してお暇しましょ。なんか断末魔みたいなの聞こえてるけど無視無視。

 さて、めんどくさいのが最後に残ったわけだ。あいつらんとこ行くか。

 町外れのアジトまで散歩だ。ちょっと遠い。


 「あ、アニキお疲れさまです」 

 「ようマッチ。ポンプは?」

 「裏で筋トレしてます。呼んできます」


 名前に関しては偶然とかではなく俺が名付けた。いやまぁ、マッチのやつは元からマッチ棒みたいに細くて赤髪だったからあだ名がマッチなんだ。ついでに本物のマッチを見せてやったら本人が気に入ってしまってそのままにしてるんだ。

 ポンプは元々マッチの相方組んでたやつで俺も俺もってうるさいから仕方なく……もうなんていうかノリで。

 ついでにやっぱりマッチが火付け役。ポンプが消火役。だいたい腕力で解決するからポンプには筋トレグッズとプロテインを与えている。という二人の舎弟。

 マッチがポンプを呼びに行ってる間に【お取り寄せ】で色々補充しておく。うちは衣食住完備のホワイト企業です。


 「お、来たか。ちょいと仕事だ。っつってもまだまだ下準備段階なんだけどな。マッチはマーティって奴のCランクパーティの情報収集。ポンプはそのパーティに潜入な」


 とりあえずカレンの穴をポンプで埋めておく。いいとこで裏切るスタイルがポンプの好みらしい。俺も裏切られないようにしないとな。


 もう指示は出したのでくっちゃべりながら昨日のことを話しておく。

 なんだかんだ二人は優秀に育ったのでいつも順番を逆に説明している。あとは自分で考えるだろう。あんまり手がかからなくなってきたから今度スカウトでもしよう。ハニトラ要員とか暗殺系。あーどっかに忍者とかくのいちいねーかなー

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