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「ですからね、もし向こうに行くことがあったら気をつけなきゃいけませんよ。アイツら見境ないけど、アンタ様みたいな若者は特に大好物ですかんね」

 ヴァネシアの緊張を解す為なのか、運びは歩きながらよく喋った。

 なだらかでも凹凸の多い山道を往く単調ではない足音に木々の揺れる音と鳥の囀りが重なり、その上に男の声が乗り、娘の小さな耳に入る。

 運びは話し慣れた調子で、話題の持ち合わせも豊富だった。時折、彼が木の根やらに躓いて詰る以外は、言葉は流れる水のように聞こえた。

 ヴァネシアはそれを聞きながら、元から運びの持ち物であるように従順に進む驢馬の背で揺られていた。相槌すら返さないことも多かったが、彼はまったく、意に介していないようだった。別に、彼女は疲れているわけでも、気を張り続けているわけでもない。ただ人と話すのが久々で要領を掴めないだけだ。

 運びの気配りは異常なほど的確で、ヴァネシアに疲れたと思わせる前に日陰に入って休ませ、喉が渇く頃合には言葉にする前に水を差し出した。相手の様子を見て物事を判断するのは、彼の仕事ではとても重要なことだった。

「――そういえば、アンタ様、魔女がどういうものかご存知?」

 それまで山を二つ越えたところで活動しているという詐欺師たちの話をしていた運びは、急に止まって、一拍置いて問うた。朝から続く一方的に近い会話に問いが含まれることは多くあったが、改めて、と前置かれるその時間の作り方は村を出てからはじめてのことだ。

 ヴァネシアは首を振る。

「……魔法を使う女でしょう? 違うの」

「魔法だけなら、この国じゃ道具があれば誰だって使えます。ちょっとぐらいは知ってらっしゃるでしょ」

 少し考えてから発された娘の言葉を、運びは軽く蹴散らした。鼻で笑って言いながら、華奢な女の手を取り、ひやりとする物を握らせる。ヴァネシアは運びが手袋をしていることを知った。

 金属の感触と、その表面の細い模様の凹凸が細い指に触れる。

「この杖のように。得手不得手はありますけど、私は使える。でも私は魔女じゃあない」

 それが魔の杖、山村などではまるで触れる機会のない道具なのだと理解し、前で話す運びが魔法使いなのだとようやっと気づいた娘に、男は囁いた。声はまだ笑い続けていた。

「男だから、ってことじゃあなくてね。魔女はもっと特別な存在だ」

 ヴァネシアの指は、握らされたままの金属の装飾を伝ってゆるゆると動く。視力を失ってからというもの、彼女の指先は他者より格段に鋭くなっている。

 ただ、村育ちの彼女が触れられるものなど限られていた。鉄の鍋より格段に滑らか、冷たいと言うよりは涼しく、すぐに肌に馴染む……と、判ることはその程度だ。使われている金属の名前であるとか、そこに含まれる魔力であるとかは、その指からはようとして知れない。

 他に判ったのは、杖の表面を飾る模様が曲線と木の葉の形だけの、思ったより簡単なものであることだけだ。

 女の手からやんわりと杖を引き抜いて自分の元へと戻し、運びはトンと地を打った。それまで大人しくしていた驢馬がたじろぐように揺れたが、音と動きに驚いただけだろうとヴァネシアは考えた。

「土地を治める人ならざるものの嫁に迎えられ、永き命と稀有な力をその身に得た女。それこそが、魔女(ソルシエル)

 杖の端を振り下ろした地面、雑草に交じって芽吹いた小さな木の芽を見下ろしながら男は言う。何かの詩か物語を引用してきた、気取った響きの言葉だった。

「人ならざるもの?」

「昔々、っていう伝承の時代から、大陸にはどの山にも、川にも、海にだって、主がいる。ある娘は巫女として、ある娘は生贄として、ある娘は迷いこんで、その者の目に止まった」

 運びは歩みを再開し、ヴァネシアの疑問を待ち受ける(てい)で間を空けずに言葉を紡いだ。

 朗々と続く昔語り。村の老人たちがするような話は、しわがれた聞き取りづらい声ではなく、若くはっきりとした声で。

「娘を伴侶として選んだ強大な力の持ち主は、軟弱な人の体だっていとも簡単に作り変える。私たちの考えが及ばないようなことを簡単にやってのける」

 耳を塞いだとしても声は聞こえるだろうと、ヴァネシアは思った。叫び怒鳴りつけるわけではないのに強制力のある声だと、彼女には聞こえたのだ。

 魔法使いが呪文を唱える時は、こんなものかしら。この男も魔法使いだからこうやって喋るのかしら……

「たった一晩の婚礼で、その娘の人生は一変する。人ならざるものを夫として受け入れ、体も、魂も、命もその前に投げ出す。全てを入れ替える。魔女たちは人の(なり)をしちゃいるが、人じゃない。魔女は魔女という、人とはまったく別の生物だ」

 半ば受け流すように聞きながらも言葉の示すところを考えていたヴァネシアは、頬に熱を感じた。不健康な白色をした肌がうっすらと火照る。木々の合間をすり抜けた夏の日差しが当たるからではない、内側から生じた熱だ。若い娘らしく困惑と嫌悪をもって眉を寄せ、彼女は運びに問いかけた。

「貴方、どうしてそんなに詳しいの」

 次に来た沈黙は、勿体つけたが為の空白だとヴァネシアには判った。彼女が見えない目で睨みつけてやると、運びが短く笑う。最初に銀貨五枚と言ったときのように、事の重さを曖昧にする調子だった。目の見えない娘の天秤は更に狂う。

「町にはいっぱい本があるんですよう。……なんて誤魔化しはお好きじゃないね。此処だけの話、私は魔女に会ったことがあるんです。この国で一番強い、西のほうの渓谷の魔女にね」

 昨日の夕飯は、と言うように、運びは気軽に言った。ヴァネシアが目を丸くする。

 男の告げた事柄がどれほどの事なのか、彼女にはよく分からない。村の外にいる魔女たちがどのようなものなのか、好かれているのか嫌われているのか、国で一番強いとはどういうことか、全てが判然としない。

「他の魔女がどんなもんか、ちょっと興味があります」

 運びはそれまでと同じように彼女の反応を気にせず、独り言に近い形で呟いた。

 その様子がどうも、本気で好奇心で物を考えているように聞こえたので、ヴァネシアは訝しくなった。外の〝運び〟とは、もっとはっきりとした損得で動く者だと思っていたのだ。

「この仕事を安値で請けたのは、それが理由?」

「ははん、安値ね。こんな仕事に、相場も何もあったもんじゃありませんや」

 知識があり、体験すら伴っている。ヴァネシアの物差しは相手の話しかないが、それから察するには、そんな運びはどうも貴重な存在であるらしい。

 あまりの都合のよさに普通なら詐欺を疑うところだが――彼が〝運び〟ではなく〝(かた)り〟であるならば、今ではなく仕事を請ける時点でこのようなことを話して、ヴァネシアを誘惑していたことだろう。村の外に連れ出した今になってこの甘言は必要ないと、依頼主は理解していた。

 それに、何にせよ、もう遅すぎる。信じて進むより他はない。その先に待つのが不幸であったとして、ヴァネシアにはそれしかなかった。

「ま、そんなわけですから、心構えはしておいた方がよろしいですよ。ちょっと魔法が使える婆さんだと思って行くと、きっと後悔する」

 話を纏めた運びは一時黙り込んだ。それからまたくだらない話を再開するまでには時間がかかったが、話し始めてしまうと、魔女の話のことを忘れたかのような軽い口振りだった。

 そうして二人は山を進んだ。日が高くなりだし、気温が上がってきても歩調が緩慢になることはなかった。運びは暑さも疲労も感じていないのではないかという調子で話し続けた。単なる町の成り立ち話があれば、俄かには信じがたい幻想の話もあった。中には竜や人魚の話まであり、範囲は、巨大なこの国の端にまで及んだ。伝聞かとヴァネシアが問えば、いくつかは、とからかうような言葉が返された。一所に留まらない運びは、娘よりも遥か多くのものを見聞きして生きてきたのだった。彼女には想像もつかないほどの多くのものだ。

 風が木々を揺らす音の中に、別のものを感じ取ったのはヴァネシアが先だった。

 葉のさざめきに交じり転がる水の音。疎らだった音は段々と増えて大きくなり、ざあ、と一体化して湿った匂いと共に山を覆う。

 見上げたヴァネシアと運びの顔にも雫が落ちる。しかし、空は明るい。二人の上には雨と同時に陽射しも降っていた。目の見える運びは勿論、ヴァネシアも木漏れ日を肌で感じていた。

 昼前の青空から、雨が降り注ぐ。

青雨(あおさめ)――」

 それまで童歌の起源を説明していた運びは天気雨のことを指す方言を口にして立ち止まった。ヴァネシアは運びの方を覗ったが、運びは沈黙して答えない。そもそもヴァネシアの方を見ていなかった。彼は顔が濡れるのも厭わずに、じいと空を見て、その様子を窺っていた。

 やがて、運びは先程よりも速度を上げて歩き始めた。急に動かなくなった驢馬を力任せに引いて、前へ前へと突き進む。

「っちょっと、」

 驢馬が嫌がるので、その背のヴァネシアは酷い揺れに晒された。慌ててしがみつきながら悲鳴を上げるが、運びがその手を緩めることはなかった。

「何よ! どうしたの!」

 ヴァネシアが上で叫ぶので、また驢馬が暴れる。運びは後ろ手にそれを宥め、濡れた草木を掻き分けて前へと進む。ヴァネシアの細い足にも濡れた草が触れる。

 それまでそういったことに気をつけていた運びが、急に構わずに進みだした――娘の混乱は深まるばかりだ。

「青雨の時、木の間を駆け抜けてはならない。何故なら、神隠しに遭うから」

 しばらく進んだところで突然、口の利き方を思い出したように運びは呟いた。ヴァネシアの息継ぎの間に割り込んだ、的確な一言だ。

「晴れの雨は路を歪め、普段とは違う繋ぎ方をする。っていう、バルヴェリアの伝承です。さっき話した〝騙り〟たちのとこですよ」

 そういえば、そんな南の地名を聞いた気もする――が、それが今の状況とどう繋がるのか、混乱した娘に考えつくわけがなかった。落ち着いていてもどうだかわからない。

 そのようなことは承知しているのか、運びはすぐに、ゆっくりと聞きやすさに努めた声で結論を口にした。興奮を押さえつけ、冷静になろうとしている声だった。

「空が歪んだのが見えた」

「え――?」

「歪めたのは魔女だ。読んだとおりだ。魔女が路を繋ぎ変えて、招き入れて下さる」

 声は彼女のすぐ近くでした。

 その言葉の次の瞬間、二人は一際強く驢馬が飛び跳ねたような錯覚を共有した。揺れたのは驢馬ではなく周囲の空気で、膨れ上がり、爆発するように弾けたのだった。

 雨を掃う渇いた風が吹きつける。音がするほど強い風に、ヴァネシアは目を閉ざして俯いた。長い髪が後ろに引っ張られるようになびく。

 暴れ狂っていた風が徐々に静まっていくのに伴い、空はさっきよりも明るくなった。生い茂る木の下、疎らにしか日光に晒されない場所に居たはずのヴァネシアの額に、遮る物の無いきつい陽射しが触れる。恐る恐る、彼女は目を開く。

「客なんていつぶりのことだろうね」

 風が凪いだ直後の静寂、しわがれ、掠れた声が二人の来訪者へと届いた。大声で怒鳴りつけたのではない、とても静かな呟きのようなそれ。しかしヴァネシアは瞠目し身を縮めたまま、縫いつけられたように動けなくなった。

「お会いできて光栄です、山の城の魔女、ニクトワール」

 横で、運びが恭しく言う。聞いたヴァネシアは努力に努力を重ね、顔を上げた。

 彼女の暗い視界の中――欠けた五感から紡がれる意識の中にいるのは、伝え聞いてきた魔法使いの老婆の姿ではなかった。見えずとも感じる強烈な存在感は、そのような矮小な存在には納まりきるものではなかった。

 どれほど大きな、どれほど恐ろしい見目の化け物を前にすれば、このような気持ちになるだろうか。

 深く鮮やかな紅い双眸に、見つめられている。そう、見えないはずの色を、ヴァネシアは知覚していた。

 運びの手がいきなり腕を掴んだので、ヴァネシアは悲鳴を上げそうになった。彼はゆっくりと、彼女の体を解すように動かして、石像と化している驢馬の背から降ろした。ヴァネシアは笑う膝を押さえながら、どうにか地面に足をつけることが出来た。

「銀貨五枚で、魔女の元まで。確かに運びましたよ」

 それきりで動けなくなったヴァネシアに、手を放した運びは今までよりは少し強張ったかという程度の声音で告げた。

 高すぎず低すぎず、この場に相応しいとは言い難い事務的な内容。ヴァネシアは震えながら彼を見上げた。

「待って!」

 凍りついていた唇がようやく声を発した。ヴァネシアの手が弾けるように、男の腕を掴もうと伸びる。目が見えない上に慌てた彼女の狙いはまったく外れたもので、細い指は宙を掻く軌道を描いた。

 しかし、彼女の手は男の手に触れた。

「帰りの、道が、分からないじゃない。貴方の仕事はまだ終わっていないのよ」

 ひきつけを起こしたように震えて息を吸う娘を見下ろし、手を受け止めた運びは、手袋ごしでも分かるほど冷えた指先を優しげに握りながらニクトワールと呼んだ魔女を見た。

 魔女は表情を変えず、何も言わない。この場に同席する許可は得たとして、運びは一人頷いた。

「……じゃ、仰るとおりに致しましょ」

 物分りの良い従者の言葉で肯き、娘の手を引いてゆっくりと魔女の前へと促す。その動きに恐れや躊躇いは感じられない。実に悠然とした動きだった。

 これが既に魔女を知る者の余裕だろうか。恐怖にも近い圧迫感を胸に突きつけられたヴァネシアは彼の存在に勇気づけられ、徐々に膝の動きを滑らかにする。

「私、は」

 魔女の前に立ち、詰った息を押し出して口を開く。

「フォルカーとニーナの娘、村の端の小屋に住むヴァネシアだね」

 怯んだ言葉を引き継ぎ、老婆の声が柔らかく言葉を発した。途端、縄を緩められたようにヴァネシアの肩から力が抜ける。もう見えない目に赤色が映ることもない。母の腕に包まれているような強烈な安心感に、ヴァネシアは自分が無為に怯えていたように感じて恥ずかしささえ覚えた。

「どうして……」

「おや、私は魔女だよ。分かって来たのではないのかい」

 細く漏れた声にニクトワールが笑う。魔に属するものの恐ろしい哄笑ではなく、慈愛に満ちた老婆の微笑だった。

 どうにか下がったヴァネシアの肩を、老婆の小さな手が撫でる。それだけで夏の外気の中でも冷えていた体温が戻ってくるので、ヴァネシアは呆けたような顔で動けなくなった。

「お前について知っていることは他にもある。胸に二つほくろがあり、右の脹脛(ふくらはぎ)には……犬に噛まれた痕がある。それに、今朝カップを割ったね。違うかい?」

 彼女の指摘は全て当たっていた。今は服に覆われて見えない胸元に小さなほくろが並んでいるのは生まれたときからで、ヴァネシアの、まだ目が悪くなかった頃の記憶にある。右足は八年前に近所の犬に噛まれた傷がいくらかの凹凸を残しているし、指先にも、今朝に落としてしまった陶器の破片による傷が薄く残っているだろう。

「そして、此処へは、この目を治しに来た」

 皺だらけの手が肩から離れ、娘の頬に軽く触れた。

 濁った青色の目が、丸く、大きく見開かれた。揃って、薄紅の唇が開いて震えた息を漏らす。

「治せるの? 治せるんでしょう!? シモンの足を治したのは貴女でしょう!」

 次には大声が発せられていた。彼女は久しぶりに、よく遊んでいた友達の名前を口にした。家族と共にこの魔女の元を訪れ、再び歩くことを許された少年の名前だ。

 ヴァネシアの手が運びから離れ、掴みかかる勢いで魔女の胸へと伸ばされた。手に触れた感触は毛皮でも鱗でもなく、ちゃんと人の纏う服、上質な布の質感だった。

 魔女はその勢いに身じろぎすらせず、ただ立っていた。服に皺が寄るのを見ることもなく、じっと、まっすぐにヴァネシアを見て。

「如何にも。お前の目だって治せないことはない。けれどね、お前の目を治す代償は大きすぎる」

「なんだってするわ! 見えるようになるなら、私、」

 見えない目で見返し、ヴァネシアは必死に口を動かした。

 切実に訴えかけるその様は痛々しさすら感じさせる。これが金貨で解決できる問題なら、多くの善人たちが金を置いていってくれるだろう悲痛さがあった。

 しかし。今にも泣き出しそうに濡れた青い瞳を見据えて、口を開いた魔女は残酷な一言を放つ。

「光と引き換えに、人であることを捨てられるかね?」

 言葉を耳に入れ、数秒遅れで意味を理解したヴァネシアの表情と動きとが凍りついた。

 先程の、外側からの圧力による硬直とは違う、冷たい毒が体に回ってしまったような動きの止まり方だった。

「……え?」

 これには、横で成り行きを見ていた運びも目を丸くした。娘と違って単純な驚きのみによる表情だったが、完全に想定外という顔だった。視線を僅かに上へと逸らし、何か考え事をする。

「そこの運びにどれだけ聞いた? いくら魔女と言えど、この命も永劫ではない。私はもうすぐ死ぬ老いぼれなんだ。お前のような若い娘に力を使えば、力も全て奪われてしまうだろう。私自身は、どうせ死ぬから構いはしないがね――」

 その顔もちらと見て、魔女は言葉を続けた。声色はただの老婆のように柔らかだったが、その奥に、告げるこれは真実であると裏づけする何かがあった。身に這いよっている死を、掌に掬い上げて示しているようでもあった。

 ヴァネシアはあまりのことに動けなかった。魔女の言葉と、道中で運びに聞いた魔女の何たるかが洞のようになった頭に響くのを呆然と聞いていた。

 ニクトワールの胸元にあった手が震えながら解け、力を失って下へと滑り落ちる。その反動が伝わったかのように膝がかくんと折れて、彼女は渇いた地面に崩れた。俯き、黒髪が肩から零れる。

 その様を見下ろし、魔女は悲しみを含んだ溜息を吐いた。

「城に置いてやろう。よく考えて、私が死ぬまでに決めなさい」

 帰るならすぐに帰ればいい、空き部屋は幾つもあるから好きに使え、と魔女は言った。他にも井戸の場所や蝋燭の在り処などを二人に告げたが、殆ど運びに説明しているようなものだった。運びはどこか腑に落ちない顔をしつつも、座り込んだヴァネシアの横で頷いた。

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