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「そう、これは悲しい娘の物語」


 むかしむかし、ひがしの山おくに、小さなお城がありました。

 そこには金のかみに青いひとみのお姫さまが、ひっそり住んでおりました。

 お姫さまはひとりきりです。

 お父さまとお母さまは、三年もまえからはやり病にかかってふせっています。それでお姫さまは、小さな小さなお城をつくり、ずっと山の神さまにいのっているのでした。


 ――どうかどうか、神さま、お父さまとお母さまの病気を、なおしてください。


 けれど神さまはやってきません。山はしんとして、きつねやふくろうの鳴き声がするだけでした。

 神さまがやってこないかわりに、お姫さまのところには、夜がくるたび、王子さまたちがたずねてきます。お姫さまのために、とびきり美しいエメラルドや、町でしたてられた桃色のドレス、大きな花束やすてきなことばをつめこんだ手紙をもって。

 けれどもお姫さまは、うつくしい王子さまのだれともことばを交わしません。それどころか、お姫さまはとてもかなしいきもちで、もう死んでしまいたいほどでした。

 お姫さまがほしいのは、きれいな宝石でもすてきなドレスでもなく、お父さまとお母さまの病気をなおすお薬や、魔法のお医者さまだったからです。けれどどの王子さまも、だれも、それを持ってきてはくださいませんでした。

 お姫さまはしくしくしくしく、泣きながらいのりつづけました。

 お姫さまのなみだは流れつづけて、山にはあたらしい川が五つもできてしまいました。それでもなみだはかれません。

 王子さまたちは川をこえて、宝物をいっぱいもって、お姫さまに会いにきます。けれどお姫さまはだれにもへんじをしません。

 それは、ある満月の夜のこと。

 お姫さまはいつものように、お城の上で山の神さまにいのっていました。下では王子さまたちがよんでいますが、のぞいてみる気にもなりませんでした。

 まあるい窓のような月がてらすあかるい空が、とつぜん、ふっとくらくなりました。なにごとかと見上げたお姫さまの口も、月のようにまあるくなります。

 月からすがたをあらわしたのは、おおきなおおきな黒い羽をひろげた化け物でした。

 化け物はお城のやねの上におりて、ばらばらと逃げていく王子さまたちを見下ろしてにやにやしました。

 おどろいて声もでない、とりのこされたお姫さまに、化け物は言いました。


 ――姫、姫、泣くのならわしと結婚しようではないか。

 ――わしは王子たちのようにうつくしくもなければ声もしわがれておる。きらきらの石もさらさらの布ももってはおらぬ。

 ――しかしそのかわり、おまえにいやしの力をくれてやろう。

 ――わしと結婚しようではないか。どうだ。姫、姫。


 おそろしさに真っ白になっていたお姫さまですが、石うすを引くような音の化け物のこえを聞くうちに、青いひとみはかがやいてきました。

 お姫さまは、化け物にこたえます。


 ――わたしは、宝石も、ドレスもいりません。王子さまたちも愛してはいないのです。

 ――お父さまとお母さまを助ける力をくださるあなたのほうが、わたしにはとても魅力的なのです。


 お姫さまは、王子さまたちが遠くからなにごとか叫ぶのも聞かず、化け物と結婚のやくそくをしました。

 にんまりわらった化け物はお姫さまに、ふしぎな力をさずけました。化け物のざらざらした前あしがお姫さまの右手を握ると、そこにあたたかな光がともって、春風のようにふんわりとやさしくゆれます。

 お姫さまはおおいそぎで、お父さまとお母さまのところへとはしりました。熱いお父さまの手をにぎり、冷たいお母さまの手をにぎりました。

 するとどうでしょう、お二人はみるみるうちに元気になって、ながいこと閉じていたまぶたがひらいたのです。

 お姫さまはもちろん、とてもとてもよろこびました。

 けれども、お姫さまのお父さまとお母さまは笑ってはくださいませんでした。

 なぜなら、お姫さまの青いひとみは、いつのまにか真っ赤になっていたからです。それはあの化け物と同じいろでした。


 ――ああ、なんということ。わたしたちのむすめが、魔女になってしまった!



 ……という、史実。


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