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第一章 ⑥

狩りの主催を命じられたドルンガには失敗は決して許されなかった。

名目上、今回の狩りは組織の活動に対する妨害と反逆者への刑罰であったが、上層部の意向はそうではなく、最近誕生した「レア獣」の威力と能力を実際に人体を使って調査することにあった。


「遅い!まだ護送車は到着しないのか!」

ドルンガは苛立っていた。


その間にも黒獣を乗せたトラックが次々と校庭に入ってきた。


「ドルンガ監視官、黒獣運搬車、全て到着しました。」

「分かっておるわ!護送車が到着次第、檻の移動がすぐに出来るようにクレーンの準備をしておけ!」


狩りのスタート地点である第一セクターブラッディ・ターミナルは物々しい雰囲気に包まれていた。



ピンポンパーン


「生徒会長の南條です。ブラッディ・ターミナルの生徒の皆さんにお知らせします。本日、狩りがとりおこなわれている間は決して校舎の外には出ないでください。その他、全ての指示は生徒会にしたがってください。もう一度繰り返します。本日、狩り…」



ブロロロロロォォォ。。。



砂埃を上げ予定の時刻より10分遅れで護送車が校庭に入ってきた。


「急げ!予定の時刻を過ぎておるぞ。A班は獲物の確認、B班はただちに檻の移動にかかれ。」

「了解しました。」



タッタッタッ



執行部隊A班は護送車を取り囲み獲物たちを強引に引きずり出した。


「おい、もたもたするな!さっさと一列に並べ!」


獲物達は強制的にドルンガの前に整列させられた。


「ふん、今回の獲物はどいつもこいつもパッとしない顔をしてやがる。このドルンガ様主催の狩りにはまったく不十分だわ。せいぜい死ぬ時くらいは派手に盛り上げてくれよ。」


奏と額は恐怖に震えながら、岩のようにいかつい男達に紛れ隠れるようにうつむいて並んでいた。



「ちょっと待ちなさいよ!」

勇壮な声が校庭に響いた。


奏はその声を聞き、顔を上げるとドルンガの前に摂が立っていた。

「摂さん!」

奏は泣きながら叫んだ。



「はあ~?なんだ~また、お前か!」

「昨日の約束、忘れてないでしょうね!」

「はぁ~、約束?なんだそれ?」

全く覚えのない話にドルンガは怪訝そうに摂を見た。


「奏ちゃんの代わりに狩りには私が出るっていうあの話よ。」

「はぁ?」

「忘れたの?昨日、あなたが私に言ったのよ。」


(だったら足の悪いこいつの代わりにお前が狩りに出てみるか?)


「私は、その時すぐに承諾したわ。だから、その時点で私は奏ちゃんの代わりに狩りに出る権利を得たのよ。」


摂は少しも怯むことなくドルンガをジッと見た。


「お前、馬鹿じゃね~のかぁ?狩りに参加したいなんてわざわざ申し出るやつがどこにいるんだよ。仮にそんな話があったとしてもなぁ、口約束なんてもんは何の効力もね~んだよぉ。このバーカ!」


ドルンガはあざ笑った。


「お待ちください!ドルンガ監視官。」

その時、執行部隊を分け入って颯爽と凪が表れた。


「これはこれは生徒会長。丁度よかった。こいつ、面倒くさいんで、さっさと連れてってくれませんかねぇ。」


凪はドルンガの前まで進むと、手に持っていた狩りに関するマニュアルを渡した。


「ドルンガ監視官、東咲さんの言ってることは間違いありません。私達もこの子には困っております。どこから見つけてきたのか…ただ生徒会としては組織が作られたマニュアルを軽視するわけにはいかないもので・・・」


ドルンガは渋々とマニュアルに目を通した。



【第35条 獲物の交代は原則として認められないが、黒の組織(監視官クラス以上)が許可した場合のみ、特例として獲物の交代を認めるものとする】



「と、当日になってこのような申し出は認められん!」

明らかにドルンガは動揺していた。



その時だった。

「よいではないか、ドルンガ。その娘が代わりに出たいというのであれば認めてやっても。」

黒装束に身を包んだ長い黒髪の男が衛兵に囲まれ現れた。


「これはこれは、グレデモール様。わざわざお越し下さったのですか。」

ドルンガは一礼した。


「時間がない。狩りをスムーズに進めるのだ!」

「はっ。」

ドルンガは畏まって答えると摂と凪を睨みつけた。


摂は小さな声で囁いた。

「生徒会長、あのグレデモールって人、誰ですか?」

「この都市にある8つのブラッディ・ターミナルの監視官をまとめる人よ。あまりいい噂は聞かないわ。気を付けた方がいいのは確かよ。」

凪は摂に耳打ちをした。



「ほらよっ!」


奏は乱暴に列から連れだされると摂の前に突き飛ばされた。


「奏ちゃん。大丈夫?」

奏は泣き崩れた。

「摂さん、ごめんなさい。私のせいで・・・本当にごめんなさい。」

摂は奏の頭を軽くポンポンッと叩きながらニコリと微笑んで言った。


「奏ちゃん、心配しないで。必ず額ちゃんと一緒に戻ってくるから。生徒会長、奏ちゃんのことよろしくお願いします。」


インカムの入った隠しポケットを抑えながら、摂は凪に目くばせをして自ら獲物の列に並んだ。



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