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第一章 ④

「失礼します。会長、黒の組織から動画が送られてきました。明日の狩りに関するものだと思われます。」

「ありがとう、分かったわ。大至急モニターの前に生徒会のみんなを呼んで。」


生徒会室にいた役員達は作業の手を止めてモニター前に集まると固唾かたずをのんで画面を見つめた。


凪は摂を見ると、彼女は小さく頷いた。

「いいわ、動画を再生して。」


ザーっと言う荒い砂嵐のあと、鋭い牙を剥き出しにした黒獣が逃げ惑う人達を噛み殺す場面が映し出された。

生徒の誰もが画面から目を背けた。

すると突然画面が変わり、今にも張り裂けそうなピチピチの黒のスーツを着た太った女性が現れた。


「はぁ~い!第一セクターブラッディ・ターミナルの生徒のみなさ~ん、お待たせしました。ワ・タ・シだよ~」


「えっ、マチルダ・・・全然、待ってませんけど・・・」

凪はボソッと呟いた。


マチルダは、厚化粧の浮腫むくんだ顔に満面の笑みを浮かべながら話を続けた。


「黒の組織広報担当のマチルダだよ~。

どうだった?怖かった?冒頭の映像あれはね、映画じゃないんだぞぉ~前回行われた”狩り”のハイライトシーンなのでしたぁ~。

早速なんだけど明日行われる”狩り”について説明するわね!頭の悪いアンタたちのために特別にLessonしてあげちゃうわね!それじゃあ、いくよ~♥」


マチルダは短くて太い人差指を画面いっぱいに突き出した。

その時、勢い余ってスーツの脇の部分がビリっと裂けた。


「Lesson1! 獲物について。

明日の”狩り”に獲物としてエントリーされているのは、タラ~ん!

この方々です!いかにもって方から、史上初、記念すべき現役の学生さんまで全8匹。こらこらっ!失礼だぞぉ~全8名様。」


マチルダの掲げたボードには、屈強な男達に混ざって奏と額の顔写真も載っていた。


「続いてLesson2 !ルールについて。

ルールは超簡単。

よ~いドン!でスタート。そして制限時間内にゴールにたどり着く、たったそれだけ。ポイントポイントで黒獣さん達が放たれるから気を付けなきゃね~捕まったら最後、餌になっちゃうんだから。

あ、もしゴールまで行けたらその時点でゲームは終了!生き残った獲物さん達は全員解放になります。まぁ、今まで1人もいないんだけどね。

はい、チ~ン。ご愁傷様♥」


「まだまだいくわよ〜Lesson3!コースについて。

今回の”狩り”で使われるコースなんだけど、これまた史上初、第一セクターブラッディ・ターミナルの校庭の門がスタート地点なの。そして門を出て北に進むと裏山のふもとに出るわ。この麓から見える古い大木が今回のゴールよ。

およそ3キロの道程ってとこかしら。もちろん狩りの模様を中継しちゃうから、お楽しみにね!」


「Lesson4! 武器について。

襲いくる黒獣達にお手々でパ~ンチってのはあまりにも可哀想なので、武器はこちらで用意しちゃいます。

その武器を使ってゴールを目指すの。黒の組織ってホント心優しいわぁ。最新の武器だからみんなゴール出来るはずよ!な~んて絶対無理無理。

はい、チ~ン。またまたご愁傷様♥」


「いよいよLesson5!これで最後よ~黒獣について。

今回の狩りを盛り上げてくれる黒獣さん達は、こちらで~す。」

画面狭しと並べられた檻の中、冒頭で牙をむき出していた黒獣をはじめ様々な黒獣がうめきながらうごめいていた。


「なんと言っても今回の超目玉は、あの一番大きな檻に入った大型のレア獣よ!やだ~マチルダ、失禁しちゃう♥」


一番奥の唯一布が被せられているその檻がアップになった。姿を見ることは出来なかったが他の黒獣とは明らかに違う殺気が画面からも伝わってきた。


「は~い、これでマチルダのレッスンは終わり。狩りの詳細、ちゃんと分かってくれたかしら?明日はワ・タ・シと一緒に盛り上がりましょっ!

あっ、そうだ。お友達の平塚奏さんにはみなさんからの伝言ってことで『明日、おもっきり楽しんでね』って私から伝えておくわね。それじゃあ、ちゃお~♥」


マチルダのふざけた口調を残して映像はそこでプツリと切れた。



静まり返る生徒会室の中、うつむいたままの摂の背中が小刻みに震えていた。


「東咲さん、大丈夫?」

凪は心配そうに摂のそばに行った。

それでもまだ摂は、うつむいたまま小刻みに背中を震わせていた。


「東咲さん?」

凪は摂の肩に手をおいた。


ブハッ!!


いきなり顔を上げて摂は笑い出した。


「だってマチルダって人、おかしすぎです!!あのキャラは反則でしょ。わ、私、女装したドルンガ監視官かと思っちゃった。我慢してたんですけど、もう、おかしくておかしくて。。。」


キャハハハハ!!

摂はお腹をかかえて笑った。


「東咲さん!あなたって人は・・・自分の置かれた立場をわかってるの?」

呆れた顔で凪は大きく溜息をついた。

「ごめんなさい。私そんなつもりじゃ・・・でも、スーツのサイズもピチピチだし、ビリッて脇のところが裂ける音が聞こえましたよねぇ、lesson1のとき。」


ククククッ

摂は笑いをこらえようと必死だった。


「あ〜お腹痛っ。

とにかく黒獣を蹴散らして裏山の大木まで行けばいいんですよね。」

屈託のない摂の性格に生徒会室の重い空気が和んだ。


「ところでレア獣って何ですか?」

摂は真面目な顔で凪に尋ねた。

「黒獣は黒のドラゴンの血をいろいろな動物に注入して作られるってことは、あなたも知ってるわよね。そこまでは同じなんだけど、動物の中にはドラゴンの血に拒絶反応を起こす個体がいるの。そのほとんどは死んでしまうんだけど、拒絶反応を起こしても死ぬことなく変異をとげた個体がレア獣になるのよ。」

「なんか、可哀想・・・」

「確かにね。黒獣は家畜同様にある程度飼いならすことが出来るらしいんだけど、レア獣は残虐非道で誰にも抑制出来ないって聞くわ。人が作り出した最も恐ろしくて最も醜い化け物よ。」


その時初めて、摂の顔に緊張が走った。

(絶対に、奏ちゃん達を助けなきゃ)


「さぁ、みんな。明日まで時間がないわ。」

生徒会役員たちはそれぞれの持ち場に戻っていった。


「東咲さん、今回の事は生徒会から組織に対して既に抗議文は提出済みよ。

でも特例の件は、当日ドルンガ監視官に直接ぶつけることになるわ。平塚さん達のためにも、あなたも出来る限りの準備をしておいて。」


「はい。」

摂は凪から渡されたインカムの入った小箱をギュッと握りしめた。


(今、私にしか出来ない事をやる・・・)

摂も凪も同じ言葉を心で呟いていた。


その日、生徒会室の明かりは消えることがなかった。


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