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第一章 ①

「摂さん、おはようございます。」

クラスメイトの平塚奏ひらつかかなでが足を引きずりながら東咲摂とうさきせつのそばに歩いてきた。


「あっ、奏ちゃんおはよう。もう大丈夫なの?」

「はい。痛みは治まりましたけれど完治は難しいだろうってお医者様が仰ってますの。」

「そうなんだ・・・大変だったね」


2週間前、奏は学園に現れた獣に突然襲われた。幸い命に別状はなかったが、鋭い牙で左足を傷つけられる大けがをした。それは明らかに黒獣の暴走による事故だったが、安全を謳う学園内で発生したこの事故を黒の組織は重視し、奏は反逆者の放った野犬に襲われたと声明を出しこの事故を隠蔽した。



「このくそガキが!我々にそのような口を聞いてただで済むと思うのか!!」

黒馬にまたがる第一セクター監視官ドルンガの怒鳴り声が学園中に響き渡った。



「摂さん、なにかあったのでしょうか?門のところに人だかりが出来てますの。」

「ほんとだ、また組織の奴らが何かしてんじゃない?行ってみましょう。」

摂は奏を支えながら正門へと急いだ。



「絶対、絶対、あれはコロタだもん!首輪だって同じだし、お姉ちゃんがつけた名札だって同じだもん!コロタ!コロタ!」

ドルンガの部隊のトラックに積まれた檻を指さしながら男の子が泣き叫んでいた。


がく!!」

奏は足を引きずり人だかりをかき分けて額のもとに駆けていった。


「お姉ちゃん。見て!あそこにコロタがいるんだよ!あそこにコロタが・・・」

奏は額の口を慌ててふさいだ。


「はぁ?なんだお前は!このガキの姉ちゃんか?」

「は、はい。ごめんなさい。弟は先月学園に来たばかりで何もわかってなくて・・・」

奏は震える声でドルンガに謝ると弟の頭を押さえこみながら深々と一緒に頭を下げた。


「ふん、弟思いの優しい姉ちゃんてとこか?だがよぉ、こんな大勢の前で我々黒の組織に逆らうような真似をされちゃあ黙って帰るわけにはいかねぇのよ。はぁ?あの黒獣がお前の飼っていた犬だと?ふざけやがってこのクソガキが!俺達を侮辱するってことは、黒の組織を侮辱するってことなんだよ!」

周りを取り囲みこの騒動を見ていた生徒たちに対して見せしめるようにドルンガは大声で話し続けた。



「だからさ~姉ちゃんよぉ、弟に責任とってもらわないと・・・それとも何かぁ?あんたが代わり責任とるってのかよ?」

奏は恐怖のあまり小刻みに震えたまま顔をあげることが出来なかった。


「ちょっ、ちょっと、まちなさいよ!」

摂は奏でのそばに駆け寄ると二人をかばうように立ちドルンガを睨み付けた。


「奏ちゃん、謝ってるじゃない!それにどうして額くんの言ってることが間違ってるって言えるのよ!」

「あぁ?なんだ、お前?俺たちがこいつの犬を盗んで黒獣にしたとでも言うのか!」

「そ、それは。。」

「摂さん、もういいの。お願いやめて。」

奏では泣きながら摂を見上げた。



「おいおい、どうでもいいけどよぉ。弟をかばって責任とるっていい話じゃねえか。なあ、おめぇ~ら。」

ドルンガは大きく両手を広げて高笑いをした。



「いったい何事ですか!」

群がる生徒たちの後ろから一人の少女が現れた。


「ほう、これはこれは、南條凪なんじょうなぎ生徒会長ではないですか。」

「うちの生徒がなにか問題でも?」

「いやね。飼ってた犬を俺たちが無理やり連れてって黒獣にしただなんて、こいつがとんでもねえ言いがかりをつけてきたもんでねぇ。」

「そのようなことが・・・申し訳ありません、ドルンガ監視官。」

凪は凛々しく頭を下げた。


「生徒会長、頭なんてさげることないわ!」

摂の怒りは収まらなかった。

「だって、本当のことでしょ?首輪も名札も同じだって言ってるじゃないの!」

「はあ?そんなもん、どこにでもあるようなもんだろうが!」

「何よ!、そんな言い訳・・」


パシッ!


「言葉を慎みなさい!」

凪は摂の頬を思い切り叩いた。




「ドルンガ監視官、この度は重ね重ね申し訳ありませんでした。この南條凪に免じてどうか今回の件、穏便にお済ませくださいませ。」

凪は深々ともう一度頭をさげた。

「仕方がありませんなぁ~南條家の次期当主であらせられる凪様のお願いとあっちゃあ~今回だけは私も目をつぶりましょう。」

ドルンガはなめ回すように凪を見た。そしてニヤリと笑いながら学園をあとにした。



「なんであんな奴らに頭を下げるんですか?そんなの間違ってる!」

摂は悔しさをこらえ凪をじっと見つめた。

「そうかもしれないわね。でもね、力のないものが何を言っても仕方がないの。あなたの正義感でこの学園の他の生徒を危険にさらす訳にはいかないのよ。授業が始まります。さあ、みんな、早く教室に入るのよ!」


凪のどこか哀しげな眼差しに摂は何も言い返すことが出来なかった。

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