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プロローグ

現在(今)より遥か遠い遠い昔。

何処からともなく突如現れ、平和な村を次々と襲う黒い集団がいた。

自らが造り出した「黒のドラゴン」によるその狩りは残虐無慈悲、被害は甚大であった。

罪もない村人を殺め、家や田畑を焼払い、女、子供までもがその殺戮の手にかかった。

「黒のドラゴン」その姿はそう、悪魔と呼ぶに相応しい醜く恐ろしいものであった。

そしてまた一つの村、ロキシス家の納める村が黒の集団によって今まさに滅ぼされようとしていた。



「まだ見つからないのか!」

黒のドラゴンを操る黒騎士ダルガドは苛立ちを隠せなくなっていた。

「それが森に逃げ込んだのを・・・」

「うぎゃあ」

言葉を遮るように、ダルガドは忌々しく剣を振り下ろした。

「役立たずどもめ。もうよい!私が行く!」

ダルガドは黒のドラゴンにまたがり叫んだ。

「ロキシスの娘が白のドラゴンを連れているのは間違いない、何としても見つけ出すのだ!

白のドラゴンの幼生とあらば優に一国を買えるだけの価値がある。

それだけではない、万が一その白のドラゴンがドラゴンメイトと出会い覚醒すれば

必ずしや我々を滅ぼす脅威となるであろう。」


ダルガドは剣を高く掲げた。


「皆の者、我に続け!白のドラゴンを見つけ捕えるのだ!」

ダルガドは黒のドラゴンにまたがり火の海に覆われた土地を仰ぎ見ながら森をめがけて飛んでいった。



「はあ、はあ、はあ・・・」

暗い森の中を息も絶え絶えに走るロキシスの娘。

その手には白のドラゴンの幼生がやさしく握られていた。

「大丈夫だよ。心配しないで。安全な場所に私が逃がしてあげるから」

娘は真っ赤に焼ける村を振り返ることもせずある場所を目指してひたすら走った。

頬は煤で黒く汚れ、流れる涙もぬぐわずにただただひたすら走り続けた。



「白のドラゴン、見える?あれだよ、あの木だよ!この森を護っているご神木テルマノールの木」

最後の力を振り絞りロキシスの娘はその木を目指して全力で走った。



一方、ダルガドは燃え広がる村を見下ろしながら嘲笑った。

「ふん、まったく退屈な村よ。黒のドラゴン、幼生を捕えたあとは、ロキシスの娘をお前にくれてやるぞ。」

ダルガドはドラゴンの首もとを撫でた。


「グゴゴゴゴ、グルゥゥ・・・!!!」

黒のドラゴンは雷のような雄叫びをあげ、凄まじい勢いで地上へと降りていった。

「野鼠を見つけたか。愚かな小娘よ、私から逃れることなど出来るわけがなかろう」


バサ、バサ、バサ。

耳を覆いたくなるような大きな羽音が響き渡ると一瞬で辺りが真っ暗になった。

ロキシスの娘は息を飲んで空を見上げると、今にも黒のドラゴンが襲いかかろうと物凄い速さで飛んできていた。

強い風が巻き上げる粉じんから身をかわしながら、ロキシスの娘はダルガドを鋭く睨みつけ踏ん張って立った。


「娘よ、ドラゴンの幼生はどこだ。」

「知らない!ここにはいない!」

「素直に渡せば、お前の命だけは助けてやろう。」

「私は知らない。たとえ知っていてもあなたたちには絶対に教えない!」

「気の強い小娘だ。ならばお前を捕え調べるまで。」


目の前に立ちはだかる黒のドラゴンの恐ろしい形相にたじろぎもせずロキシスの娘は呟いた。


「お父様、お母様、もうすぐそちらに参ります」


ロキシスの娘は腰元に隠し持っていた短刀を自らの胸に当て叫んだ。


「私はロキシスの娘。あなたたちに、あの子は渡さない!」


そして短刀で胸を貫いた。

「ウッ」



薄れゆく意識の中、ロキシスの娘は黒のドラゴンが表れる前の出来事を思い出していた。

そう、テルマノールの木が答えてくれた出来事を・・・


「お願い!テルマノール。この白のドラゴンを護って!お願い!時間がないの!」

ロキシスの娘は泣き叫びながら必死に祈りをささげた。


「お願い!テルマノール!!」


その声を優しく包み込むように一瞬辺りがフワッと春の日差しのような温かい

光に包まれた。


気が付くとテルマノールの木の根本が淡く輝き小さな窪みが現れていた。


「ありがとう、テルマノール」

ロキシスの娘はその窪みに幼生をそっと隠した。

「いつの日かきっと人々が平和で穏やかに暮らせる世界が来ますように。

白のドラゴン、それにはあなたの力がきっと必要になるわ。それまで、ゆっくりとお休みなさい」


そしてロキシスの娘はテルマノールの木をあとに走りだした。

白のドラゴンの大きな瞳には、走り去るロキシスの娘の後ろ姿が映っていた。

その瞳から一粒の大きな涙がはらりとこぼれ落ちた。




「愚かな娘よ。自ら死を選ぶとは。」

その様子を一瞥するとダルガドは兵に向かって言った。

「ここにはもう用はない。引き上げるぞ。森ごと焼き払え!!」

「しかし、白のドラゴンがまだ見つかっておりません」

「かまわん、白のドラゴンは所詮幼生、自力では動けまい。

惜しいが白のドラゴン共々森ごと焼き払うのだ。」


ダルガドは黒のドラゴンの手綱を引いた。

「おぉ、そうであったな。娘をくれてやる約束であった。」

黒のドラゴンは大きく口を開けると横たわるロキシスの娘を一息に飲みこんだ。





そして時は流れ黒歴2050年。

文明は目まぐるしい変化をとげていた。

世界は黒の組織により支配され、人々は黒の人民と奴隷民にわけられた。

全若者は12歳を過ぎると首都圏に建設されたセクターの中にある”ブラッディ・ターミナル”という全寮制の学園に強制収容された。

そして社会から完全に隔離され黒の組織の監視下のもと従順な構成要員「黒の人民」となるべく18歳まで完全教育がなされるのであった。


18歳を過ぎると学園生は黒の人民になれるかどうか選別された。

組織の一員になれなかった者は奴隷民と呼ばれ、家

畜同様に人としての一切の自由を奪われ組織のために一生働かされた。

そして最も恐れられたのは見せしめのために行われる奴隷民および反逆者への"狩り"と呼ばれる討伐であった。

黒の組織は黒のドラゴンの血を用い様々な動物を品種改良して恐ろしい黒獣を作った。

そして刑罰と称し、その黒獣に人間狩りをさせる処刑ゲームに興じるのであった。


世はまさに「黒の時代」。その象徴である黒のドラゴンは「神」として崇められるのであった。

一方、奴隷民や反逆者たちはこの黒の世界を滅ぼし、自由に生きられる世界へ誘ってくれる救いの主の出現を心から願うのであった。


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