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秘宝の王と異世界転移  作者: ところてん
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生命を躍らせて

 俺は今危機的状況に追い込まれている。背後には守るべき少女、前方には俺が100人いても敵わないだろう上位悪魔。逃げれば少女と俺は死に、戦えば俺は死に少女も死ぬ。結局死ぬ。

 思えば、最初に依頼された時から嫌な予感はしていたのだ。そこそこ名が売れているとはいえ一介の傭兵でしかない俺に、なぜ神に愛された聖印の巫女の護衛依頼が来たのか。みんな断ったのだきっと。あのえげつない依頼料はそういうことだったのだ。

 ああ、逃げたい。しかし少女とは何日かの交流で仲良くなってしまっている。彼女は今も恐怖に身体を震わせているし、これを置いていくのは流石に酷すぎる。まるで悪魔の所業だ。目の前の本職にすら呆れられること間違いなしだ。


 傭兵になったのが運の尽き、いや、そうなるともっと前から俺はこうなる運命だったのだろうか?


 物心ついた時から傭兵だった。どうやら俺は孤児だったようで、両親は見たことがない。だが周りにはたくさんの屈強な戦士たちがいて、彼らが俺の親代わりであり、傭兵としての訓練が俺の生活だった。

 そのおかげもあって、成人してから金に困ることもなく、傭兵としてもそこそこの実力があったと思う。だが世界にはドラゴンや悪魔と渡り合う化け物も沢山いて、俺は中堅のお手頃な依頼先だ。まあ、だから金に困らなかったのだが。


 そうやって平和に地道に稼いでいた俺に、大口の依頼が舞い込んだ。それは街から街に移動する間の護衛依頼であり、傭兵の言わば十八番だ。大抵この手の依頼は私兵を持たない弱小商人が寄せるものだが、その依頼金は国からの戦時要請にも劣らぬ高額なものだった。無論傭兵ギルドの連中はその胡散臭さに二の足を踏み、俺も関わるのはごめんだと沈黙を貫いたがなんと使命が入った。こんなことは初めてだったが、依頼主がギルドから信用されている証拠でもあるので渋々依頼を受けることにした。(使命はギルドを通して行われるものである)


 その結果がこれだよ!


「アミディラナオランクトゥフ。ナリディアダン」


 目の前の悪魔が笑みを浮かべて何か呟いている。しかし顔は昆虫みたいだし身体は二足歩行の鹿みたいなので本当に笑っているのかは判らない。


「アリ、アリ、アリ。ダタナン。ア?」


 さっきから話しかけられているようだが、本当にこいつは意味のあることを話しているのだろうか?悪魔は高位に近づけば近づくほど人の外見に似るというが、俺のような一般人からすれば動物型の悪魔でさえ勝てないだろうからあまり関係がない。こいつがどの程度の知能を持つかなども関係がない。多分瞬殺だ。瞬殺。


 俺の思考が死への諦めで停止しようとしていると、剣を持つ腕に微かな重みを感じた。ちらりとその方を見ると、小さく可愛らしい手が俺の服を不安げに摘んでいる。

 そこには涙を一杯に貯め、大きな瞳を潤ませる少女がいた。少女は俺と目が合うと、緊張で青くなった唇をぎこちなく動かした。


「よ、傭兵さんは、逃げて・・・ください。私が残れば大丈夫です。悪魔は、聖印を憎みます・・・から・・・」


 そんな少女の健気な言葉は尻すぼみに消えていった。彼女から逃げろと言われた俺の表情が、激しい怒りに満ちたからである。

 ああ、俺は馬鹿だ。俺は大切なことを忘れていた。


 俺はすっかり萎縮してしまった少女を安心させるように、満面の笑みを浮かべた。


「俺はさ、金が大好きなんだ。今回の成功報酬、諦めるには額が大き過ぎだ」


 少女の頭に手を置いて、未だ何かを呟いている悪魔を睨む。


「この血に懸けて」


 俺は呪文を呟いて、悪魔に向かって駆け出した。









 悪魔の魔力波動を感知し現場に急行した聖騎士が見たものは、胴を斬り裂かれ絶命した悪魔と、身体の一部を欠損し血塗れで動かない傭兵、そして傭兵の側で泣き叫ぶ少女の姿だった。





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