表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂の棺  作者: 天海六花
闇の中の深紅
6/59

2

     2


 安宿の硬いベッドの上で、先ほどから鬱陶しい唸り声をあげているのはカルザスだ。

 依頼者であるティケネーを殺害され、その犯人も捕らえられなかったカルザスは、難を逃れたティケネーの身内から当初の予定の半額しか、金を支払ってもらえなかったのだ。いや、半額でも支払ってもらえた事はあまりにも意外で、俺としてはなぜ支払われたのかが不思議でならんくらいだ。

 警護の依頼は“依頼者が殺害される”という明らかな失敗だというのに、ティケネーの身内が半額とはいえ金を支払ったという事は、奴は身内にも煙たがられていたという事実を指すのではあるまいか?

 悲しむ素振りは世間の目を欺くためか? 人という生き物は恐ろしいものだ。

 依頼者を死なせてしまったという事実、暗殺者を取り逃がしてしまったという失態。その二つの現実にカルザスは今朝からこうして一人、不貞腐れておる。

 責任感からではない。ただ、自分の力が通用しなかった事が歯痒いのだろう。

 この男は確かに腕が立つ。人当りが良く従順で素直という部分もあるが、自分の能力をやや過信しすぎているきらいも無くはない。それだけ見えぬ部分のプライドが高いのかもしれん。

 ──いつまでも鬱陶しい。さっさと忘れて、とっとと次の仕事を見つけろ。幸い、貴様の評判はさほど悪くなっておらんのだからな。

「でも悔しいですよ。目の前で取り逃がしちゃうなんて」

 相変わらずしつこいというか、強情というか……。

 ──相手が悪かったのだ。暗殺者などという輩と初めて相対したのだろう? ティケネーの身内も、暗殺者に狙われたのだと知って、お前の失態は仕方がないと諦めたではないか。

 内心は分からんがな。なにせ金を支払ったのだから。

「それでも悔しいですよ」

 風通しの悪い部屋は少々蒸す。汗ばむ額を押さえ、カルザスは薄汚れた天井を見上げる。そして何度目かのため息を吐いた。

「せっかくシーアさんが暗殺者の行方を教えてくださったのですよ。なのに見失ってしまうなんて……」

 カルザスは苦しげにそう呟き、はっと息を飲む。

「……シーアさんは……暗殺者の姿を見ている?」

 ──顔は見ておらんと言うておったろう?

「でも暗殺者にしてみれば、正体を知られる糸口になり得る人物をみすみす放置しておくでしょうか? 口封じをしようとするのでは……」

 慌てて身支度を整えるカルザス。

 まさかあの女の護衛をしてやろうなどと言い出すのではなかろうな? そう思った俺の不安は的中した。

「シーアさんが危険です! 彼女の近くに、きっとあの暗殺者はまた現れます! 今度こそ、捕まえますからね!」

 俺は呆れて何も言えなくなった。一体どこまでお人好しなのだ、この男は!

 あの日シーアと分かれた飯屋兼宿屋。カルザスは安宿を飛び出して、慌ててシーアのいる宿へと向かったのだ。

 ……いちいち付き合う俺の身にもなれ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ