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柚葉愛美 大事な人

「うん、なかなかおいしいよ。」

「なかなかって何よ、えらそうに。」

「ごめんごめん。すっごくおいしいよ。」

「よろしい。」

 大学生活の為に借りた愛美専用の一室。憧れの一人暮らしも入学して早二年。そんな生活も思う存分満喫させてもらっていた。

 友達が泊りに来てコンビニで買いそろえた酒とつまみを共に馬鹿話や恋話に花を咲かせる時間が本当に楽しかった。でも、そんな時間も大事な人との時間の前では霞んでしまう。目の前で愛美の作ったハンバーグをもふもふと頬張り、頬をぱんぱんに膨らませる青木友哉の顔を見て愛美はそんなふうに思った、

「そういえば、今日もさなちゃんとデートしてたんだろ?何してたの?」

 尋ねる友哉の顔には嫉妬や責める様子は何もなく純粋な疑問といった感じだった。友達との時間より彼氏との時間を大切にしたらどうだ、なんてちょっとぐらいヤキモチめいた事を言ってくれてもいいのになと思うが、友哉にそんな感情がない事は付き合って半年の時間でよく分かっていた。

「何って、いつも通りよ。ランチしてお買い物して、ちょっとカフェでお喋りしてたわよ。」

「本当に、仲良いよな二人って。羨ましいな。」

 友哉はよく私達の関係を羨ましがる。彼だってフットサルのサークルで多くの仲間と時間を共有して友達だって多くいるようだし、度々サークル仲間や学部仲間と遊んだり飲んだりもしている。何を羨ましがる事があるのかと疑問に思うほどの充実っぷりを見せているのに、どうやら傍目から見た彼の環境と彼自身の目線から捉えた生活にはどうも隔たりというか意識の差があるようだった。

「なかなかそうお互いを必要とした心底信頼できる相手ってのは出来ないもんだぜ。」

「なによ、じゃあ私の事は信頼出来ないわけ?」

 本気で思っているわけじゃない。こう言えば彼が困るだろうなと知った上でいたずらに投げかけてみる。案の定いやいやと慌てる友哉の姿を見て私は少し満足する。

「愛美の事は信頼してるさ。でもそれは男女の関係であって、親友のそれってまた少し違うものだろ。」

「そうかな。」

「この前だってさなちゃん言ってたぜ。”まなちゃんは親友だから大事なんだ。いつまでも一緒にいたいし、ずっと親友でいたい”って。上っ面じゃなくてさ、あんな風に言える子少ないよ。」

「ほんとにいい子だよね、さーちんは。私だってそう思うわ。」

 そう言いながらも愛美はちくっと心を小さな針で刺されたような痛みを感じていた。愛美と毛色は違うが、友哉もコミュニケーション力は高い。ぐいぐいと絡むようなタイプではないが、自然と違和感なく隙間に入り込める柔軟さと適応力があった。それに加えて友哉は誰にでも平等な人付き合いが出来る。派閥やグループ等もちろん、男女共にまんべんなく交流関係を築いていた。女性に対しての下心を見せることなく、人間という単位で彼は人と接していた。

 付き合い始めた当初、友哉は友達とご飯を食べてくると言った事があった。後で知ったが相手は友哉と同じ学部の女の子で、しかも二人きりだった。当然愛美はなんで言ってくれないんだと言葉を荒げた。しかし当の友哉は不思議そうな顔をして、「友達と一緒にご飯食べて何が悪いんだ?」と言った。その後愛美が世間一般ではそれは浮気だとかいろいろと言葉を並べ立てたが友哉は ”ただの友達だ。” ”こういうのが世間的に浮気だからって彼女との関係性を切るなんて自分の気持ちに嘘をつくことになる。嘘なんて最低だ。”と、一切折れなかった。

 それ以来愛美は友哉の人付き合いに対して文句は言わないようにしている。実際の所、女にだらしないわけではないし、真面目な性格なのでその心配はないなと付き合っていく時間の中で自分自身を納得させる事が出来た。

 それでも時たま思うのだ。友哉に感情がなくても、相手はそう割り切っていない可能性は十二分にあり得る。特に佐奈とは愛美自身がよく一緒にいる事と、親友という所に興味を持ったようで、友哉は佐奈と二人で時間を過ごす事もあった。これまた真面目な佐奈が初めて友哉からご飯に誘われた時、律儀にも愛美に連絡をくれた事からこの子も間違いを犯す事はないかと一応安心してはいるが、それでも少し複雑な気持ちなのが正直な所だ。

「大事にしろよ。」

「言われなくても。」

 そう答えるも、少し笑顔がぎこちなかったかもしれないと愛美は自分の頬をさすった。


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