葵佐奈 焦り
「ねえ、これかわいくない?」
大学の講義が終わり、ふらっと立ち寄った店で愛美が手に取ったフレアスカートは確かにかわいいなとは思ったが、それ以上の詳しい事は分からなかった。ただどうやらそれがこの夏”くる”と言われている品だという事だけは愛美の様子から窺い知れた。
私は知ってるんだぞ、ちゃんと世の流れを。そう言わんばかりに自信に溢れ、自慢気に笑みを浮かべるその顔を佐奈は何度も見てきた。
「今年は全体的にレトロな流れが来てるんだよね。ちょっと昔懐かしさを感じさせるような柄がすごくおしゃれなのよ。これすごくいいなー。」
「へえ、そうなんだ。」
スカートを手に上機嫌な愛美とはよそに佐奈は焦りを感じていた。
このままじゃ、本当に置いていかれる。
愛美がそんなひどい人間ではない事を佐奈はもちろん分かっているつもりだ。友達想いで、佐奈の悩みにも本気で耳を傾けアドバイスをくれる。ただ、人種という点で愛美と佐奈は明確に異なっている所がある。
何事においても流行り廃りに敏感で常に世の先端を行く愛美はおしゃれで、話題も豊富で、周りを飽きさせないそんな魅力に満ち溢れたカリスマ性のあるスタータイプであるのに反し、佐奈はどちらかといえば世の流れに疎く、話下手で愛美のように誰とでもすぐに打ち解けるようなコミュニケーションなんて気軽にとる事はどう頑張っても出来なかった。
それでも愛美と知り合ったおかげで、昔に比べればおしゃれにもなったし綺麗にもなったと思う。友達の輪も広がった。高校の頃までは地味目な佐奈だったが、愛美と二人で歩いている姿を見て、愛美はもちろんだが自分に対してもモデルみたいに綺麗だなんて言われるまでにもなった。
愛美には本当に感謝している。自分にとってはかけがえのない親友だ。自信を持ってそう言える。でも、時々怖くなる。
いつでも先を見つめる愛美の視界から、いつか自分が消えてしまうんじゃないか。愛美のその大きく輝いた瞳に、私の存在が映らなくなる日が来るんじゃないか。世の流行と同じように、葵佐奈という存在が愛美の中で廃れ忘れ去られていく未来を想像した。
その度に佐奈は思う。もっと頑張らなくちゃ。愛美のそばにいて恥ずかしくない存在でいなくちゃ。
「まなちゃんみたいにならなくちゃ。」
ぐっと拳に力を入れ、いつもの様に佐奈は自分を鼓舞した。
親友ならば、親友としてちゃんと出来る事をしなければ。