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ESCAPE  作者: 蛞蝓
8/18

7話

「みんな今日は私達のコンサートに来てくれてありがとーーーーー!!!!」

ワアアアアアア!!会場からの歓声がステージに向かって放たれる。

人気アイドルグループremember、広い世代に人気のこのアイドルグループがここ、霧嶋町ミストモールでコンサートを行っていた。動員数は1万人にもなり、その人気度が伺われる。

「玲ちゃーーん!!」

そんな超人気アイドルグループのss席に友達の力で当選したラッキーボーイ菊池蓮弥はこの日テンションMAXであった。

そしてrememberの代表曲の一つ『POP CANDAY』が流れ出す。

高まる歓声、盛り上がる会場、まるで1万人の人達が一つになったような一体感で会場は大盛り上がりだ。

曲がサビに入り掛かる時、rememberの中で1、2を争う人気メンバー神木玲奈のソロが入る。

雰囲気が一変し玲奈のソロに聴き入る。

蓮弥は間近で聴けるだけで最高だったが歌い終わりに玲奈と蓮弥の目があった。

えっ?目合ってる……?

すると玲奈はニコッと笑いウインクをした。さらに手を振ってメンバーと入れ替わると、自分の立ち位置へと戻っていく。それは明らかに誰かに向けられた物だと言うことが分かったが蓮弥はそれが誰に向けられた物かはっきりと分かった。

「蓮弥みたか!?今玲ちゃん誰かにウインクしたぞ!?誰だよチクショー!!」

「……俺だ」

「え?」

「玲ちゃんが恩はコンサートで返すって……」

その言葉を聞くと陽介は恨めしそうな顔をして激しく声援を送った。

そんなコンサートも二時間が経過し、一万人もの人々を熱狂させたrememberのコンサートは幕を閉じた。

「いやー良かった、凄く良かった。こんな幸せはもう一生ないかもな~」

満面の笑みで言う蓮弥だがそれとは対照的に陽介は不満げな顔だった。

「ずるいよ陽介ばっか良い思いしちゃってさー!なんで玲ちゃんのウインクが貰えるんだよ、なんで玲ちゃんに手を振られるんだよ、なんで玲ちゃんと握手が出来て会話が出来るんだよー!」

「そればっかだな陽介。コンサートは最高だったんだし、そこは気にしないでくれ。思い出は俺だけの物にしといてくれ」

「思い出は共有してくれ。……まあ良いさ、蓮弥の言う通りコンサートは最高だったんだしね」

コンサートの余韻に浸りながら帰り道を歩く。

こんな日が何時までも続くと最高だななどと考えていると、明日から始まる学校が億劫になってくる。

(明日文乃に会ったら今日の出来事を自慢してやろう)

一つ明日の学校に行くための目的を立てる蓮弥だった。

駐輪場まで歩いて2人は自転車に跨がると、夜道をライトで照らしながら走り出す。蓮弥の家はミストモールまで自転車で20分ほどの距離なので電車などにお金を取られることはなかった。陽介は蓮弥とは途中違う方向になる。自転車に乗りながらも二人はまだコンサートの熱は冷めることはなく熱く語り合い、十字路に差し掛かると陽介は、じゃあまた明日ね、と言い手を振った。こちらもまた学校でと手を振りそれぞれの帰り道へと別れた。


帰り道。陽介は鼻歌交じりに夜の道を自転車で走る。蓮弥とは違い陽介は家が遠いので学校用として使っている自転車を駅から乗ってきていた。しばらく漕ぐと駅が見えてくる。周りは同じライブ帰りの人が多く、切符売り場には沢山の人で混雑していた。だが陽介には定期がある。わざわざこの長蛇の列を並んで切符を買う必要がないので少しだけ気分が良かった。

それにしても改札前も人が多いな……。

陽介は人混みをかき分けながら進み出すと、前方から来た人と体がぶつかった。

「いてっ」

思わず声を漏らしたが、すでに相手は立ち去ったようで、誰とぶつかったのか分からなかった。しかもこの人混みの中で見つけるのは相当難しいだろう。陽介は何だよと思いながらも、そのまま改札に入り、定期を通す。反対側から出てくる定期を受け取ろうと手を伸ばそうとしたその時、妙な違和感が陽介を襲った。

(……、なんだ、これ……?)

視界がグラリと傾く。平衡感覚が分からない。自分は今歩いているのか、倒れようとしているのか、それすらも分からない。

(なんだこれ……)

そんな事を考えるうちにドサリと何かが倒れた音がした。陽介は一瞬理解が遅れたが、やがて気付いた。

(あぁ、僕が倒れた音だ……)

少しして周りから悲鳴が聞こえる。陽介を囲むようにして皆が一斉に離れたのがかろうじて分かった。

(……、痛い。お腹……痛い)

陽介の手は震えていたが、陽介にはそれすら理解できなかった。

痛いと気づけば痛みはどんどん増してくる。

恐る恐る震える手を腹部にあてる。するとぬめりとした物が陽介の手に纏わりついた。


それは陽介から流れ出した真っ赤な血液だった。


血を見た瞬間、状況を理解する前に、陽介は意識を失った。

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