5話
「蓮弥何やってんだろ……」
陽介は1人そう思った。もうとっくにハンバーガーなんて来てるはずだし、何に時間がかかってるのか分からなかったが、席を立つのも少し面倒くさかった。
「まあ待ってればそのうち来るだろ……」
陽介はもうほとんど食べ終わっていて残りわずかとなったフライドポテトを食べながらスマートフォンの画面に目を落としていた。見ているのは今話題となっている『連続通り魔殺傷事件』についてのニュースだった。
「被害者は今までに10人、その内殺されたのが4人目と8人目の被害者、犯行時刻はすべて21時から22時の間か……」
この事件には警察も全力で捜査しているのだが犯人はまだ捕まっておらず国民からはこんな危険な犯人を野放しにしておくなんて、と警察の実態に対する反発の声が出ている程だ。特にこの事件は霧島町周辺で起きており、夜21時以降は外に出歩くのを極力避けることが呼びかけられており、塾やクラブ活動で夜遅くにならないように早めに切り上げるなどの工夫がされている。
そして、警察が犯人をなかなか捕まえられないのには訳があった。
「でも不思議な事件だなー、目撃証言が全く無いなんて……」
そう、この事件には目撃証言が一つもなく、更には被害者にその事件について聞いてみても皆口をそろえてこう言うのだ。
「覚えていない」
と。
「今日のコンサートにも現れなければいいんだけど……」
陽介が最後のポテトに手をつけようとした時、階段を上がってくる友人の姿が見えた。
「蓮弥ここだー。何してたんだよ今まで……、って、なんちゅう顔してるんだよ」
蓮弥の様子は明らかにおかしかった。まず手に持ってるトレイにはセットを頼んだであろう形跡があったが何故か新作バーガーしか乗ってない。これは階段で足でも踏み外してこぼしたのか、と思ったが蓮弥の表情は気持ちの悪い笑顔が張り付いており陽介の印象としてはハンバーガーをこぼしたのに笑顔でいれる変な人となっている。たまらず何があったのか状況を聞く。
「それが実はさ……、会っちゃった……」
「会ったって、誰に?」
「手も握られちゃった」
「だから誰に?」
「玲ちゃん」
「玲ちゃん?」
「rememberの玲ちゃん」
「rememberの……、れ……!?」
その瞬間陽介のリミッターが解除された。
「rememberの玲ちゃん!?!?」
驚きすぎて大声が出てしまう。
周りのお客さんが何だ何だと陽介に視線を向ける。陽介はすみませんと小さく呟き、いつの間にか立ち上がっていたことに気が付くと、急いで席に着いた。
「なんで玲ちゃんと握手なんかしてんだよ!!僕がダブルチーズバーガーを食べてポテトを食べながら君を待っていたあの時間に一体何があったのか詳しく教えるんだ!!」
「教えてやるよ仕方ないな~」
蓮弥はにやつきながらさっき起こった出来事を陽介に詳細に話した。
「ってことがあったんだよ。俺もこんな事があるなんて思いもしなかったから、やっぱ生きてるって最高だなって実感したよ~」
蓮弥の話を聞きながら陽介は羨ましそうな呻き声を上げる。
「何故だ……、何故蓮弥なんだ……!?羨ましい、面倒くさい何て思わずに君の様子を見に行けばよかった……!!」
「しかも俺が玲ちゃんの真っ正面の席かも知れないって言ったら、『じゃあこのお詫びはコンサートで返しますね』って!くぅ~~~!!」
「でもなんでこんなとこに居たんだ……?それにコンサートの最終確認だってあるだろうし……」
確かにこんな本番直前に彼女がこんな場所にいたのは少し不自然な気もする。
「ああ、それがどうしても新作バーガーが食べたくてサッと抜け出してパッと食べて戻ろうとしたらしいんだけど、思いのほか時間がかかっちゃったらしくて、それで急いで階段を下ってるところに俺が現れたって分けだ」
蓮弥は嬉しそうに語り出す。こいつはこれからこの話を何回も自慢げに話すだろうなと、陽介は思った。
「って、何さりげなく玲ちゃんとトークを楽しんでるんだ……!?何だよ友達かよ!ああ羨ましい!」
「まあそう言わずに、今回は俺の幸せを歓迎してくれよ。それに陽介の推しメンは玲ちゃんじゃないだろ?」
「まあ、そうなんだけどさぁー、玲ちゃんも可愛いし、会えるんなら会いたかったよ……」
うなだれる陽介を尻目にハンバーガーを食べながら、悦に浸っていた蓮弥だったが、時計を見るともう18時になろうとしているところだった。
「陽介!そんな落ち込んでる場合じゃないぞ!これからが本番だ!」
そう言ってハンバーガーを口に押し込むと陽介を叩きつける。
「あ痛っ!……あー、この思いは絶対コンサートで晴らしてやる!!」
陽介は立ち上がると蓮弥と共に会場へと向かい店を後にした。