4話
時の流れというのは早いもので、気付いたときには時の流れに置いて行かれていることなんて良くあることだ。お笑い芸人が面白いギャグを言うとそれが一時的に爆発的に流行る。だがそれはほとんどが一時的な事で一年もすればそのギャグは飽きられそのお笑い芸人もあまりテレビで見なくなる。そしてまた新しいお笑い芸人が新しいギャグを発して流行する。その繰り返しである。洋服やケータイ電話にしてもそうだ。今年の流行りはこのカラーでこういった服が流行ります、こういったファッションが流行ります。そういった服装でさえ一年もすればまた新しいファッションが生まれ少し前の洋服では時代に乗り遅れたものとなってしまう。
今最新のスマートフォンはこういった機能が付いていて凄いです、バッテリーが凄く保ちます!そうは言っても半年後にはそれを更に上回る性能を持つスマートフォンが生まれるのだ。
さて、ここまで何が言いたいのかと言うと、『時の流れはとても早い』と言うことだ。
7月11日、あれからもう二週間が経っていた。
「遂にやって来たぜこの時がー!」
ライブ会場となるミストモールの前で蓮弥は叫ぶ。
「やってきたねこの時が!そう、僕がこのライブチケットを当てたおかげでここに来ることが出来たのさ!もっと僕を称えてくれ!!」
「陽介くん、本当にありがとう。この恩は忘れないよ……」
それに、と蓮弥は付け加える。
「俺たちの席、前の方なんだろ……?」
陽介はフッと笑うと自慢のチケットを蓮弥に差し出し
「……A列の4番席」
と陽介は決め顔でそう言った。
「……凄すぎる……凄すぎるぜよっさん!俺はお前のような友達を持てて嬉しいよ」
演技なのか本当なのか、蓮弥の目には涙が浮かんでいた。いや、この様子は本物だろう。
「それにしてもまだ時間があるね。今が16時で入場が18時半だから、どこかで晩ご飯食べておこう」
そうだな、としばらく歩きながらこの場所ならメンバー全員がはっきり見えるな!とか、玲ちゃん俺の正面じゃねこれ?と言ったような会話を交わしていると某有名ハンバーガーチェーン店があったので、まあここにしようか、と中へと入った。
少しレジを並んでから新作のハンバーガーを注文する。陽介の方が先にハンバーガーが出てきたので席取ってくるよ、と言って陽介は上の階へと上がっていった。
「ああーやべぇ、まだ時間があるのにドキドキしてきた……。玲ちゃんだぜ玲ちゃん……。もしかしたら手とか触れたりするかも……。」
そんな期待のこもった妄想をしていると自分のレジ番号が告げられハンバーガーが出てきた。
蓮弥はそれを持って陽介が席を取ってくれている二階への階段を上がろうとした時、蓮弥は階段から下りてきていた人に気が付かなかった。
「あっ!」
その人とハンバーガーやジュースを乗せていたトレイがぶつかってしまい、蓮弥の新作バーガーLセットは見事に床にぶちまけられた。
「あぁっ、すいません!私が急いでいたせいで……!お洋服とか濡れてないですか!?」
「ああ、いや、大丈夫です!僕もちゃんと前見てなかったし……!そちらこそ大丈夫ですか!?」
ぶつかってしまった女性は律儀に蓮弥の事を気にかけてくれて蓮弥は恥ずかしい半面凄く親切な人だなと思った。
後から店員さんがやってきて大丈夫ですよと言うと二人に変わって蓮弥がこぼしたジュースの掃除を始めた。
「私の不注意で本当にすみませんでした、お代金は払わせていただきます」
帽子を深くかぶったその女性は言うとバッグから財布を取り出す。
「いやいや良いんですよこれぐらい!僕の不注意でもあるわけですし……、……ん?」
言いながら蓮弥はその女性にどこか見覚えがあると感じた。顔は帽子で確認しづらかったが、何かどこかで会ったような気がしてくる。それに、声も聞いたことがある。
「そうですか……、すみません色々ご迷惑をおかけして……」
やはりどこかで聞いたことがある……。蓮弥は確信に近いものを感じていた。
「……失礼ですが、どこかで会いま……!?」
そこまで言い欠けたとき、蓮弥にある一つの答えが走った。
いや、そんなはずは……!!もしこれが本当なら、俺は最早ハンバーガーなんてどうでもいい!!
だがそんな蓮弥の考えは全く必要のないものとなる。女性は蓮弥の手首に付けているリストバンドを見つめる。
「それって、rememberの7番のリストバンドですよね……?」
「あ、はい、そうです!この後ライブに行くので付けてきました!」
自然と蓮弥の口調が固くなる。それもそうだ蓮弥の考えが当たっているならばこの目の前の女性は……。
「そうなんですか。嬉しいです」
女性はフードを外し蓮弥の手を取りそう言うと、ニッコリと笑って見せた。
その瞬間蓮弥の鼓動が速くなる。
金髪で肩までの長さのミディアムヘアが蓮弥の目に飛び込んできた時、こんなことが本当にあるのかと蓮弥は疑った。そして何故こんなごく普通のハンバーガー屋に彼女が居るのかと色々な事で頭がパニックになっていたが、かろうじてこれだけは言うことが出来た。
「……、神木……、玲奈さん……?」
「はい」
彼女は笑顔でそう言った。