3話
「rememberのコンサート良いなー私も行きたかったなぁー」
学校の帰り道、文乃にrememberのコンサートよ陽介と行けることになったことを伝えると、文乃は羨ましがった。
「へっ、良いだろ。あのrememberのコンサートだぜ~?今やrememberは大人気アイドル、チケットは僅か5分で完売、関連グッズも即売り切れ!そしてメンバーはみんな可愛い!そんな大人気アイドルのコンサートに行けるなんて夢のようだよ!陽介にはマジで感謝しねえとな!」
普段よりも自然と蓮弥の口数が多くなる。
「確かにみんな可愛いよね~。私はあの子が好き、……えーっとあの金髪の…」
「神木玲奈19歳、身長164cmスリーサイズは上から84、59、86体重非公開で好きな食べ物はビブラートのクッキーシュー、趣味はジグソーパズルを完成させること。愛称は玲ちゃん。俺の推しメンでもある」
金髪と言っただけで全く聞いていないことまで説明し出す蓮弥。普段からは想像しにくい程の饒舌さでまくしたてる。
「そうそう玲ちゃん玲ちゃん。あの子可愛いよね~。て言うか本当に蓮弥は自分の好きなことはよく喋るね」
普通の人ならば蓮弥の話に引いてしまいそうなものだが文乃はむしろ蓮弥に感心したと言った様子だった。
「まだまだ話し足りないぐらいだけどな。あー玲ちゃんに11に会えるのか~!」
コンサートが行われるのは二週間後の土曜日、今からでも高まる気持ちが抑えられないといった様子だった。
「はあ、私はその頃暇なんだろうな~。」
「そう言えば文乃は普段休みの日とかなにしてんの?友達と買い物に行ったりとかしないのか?」
蓮弥と文乃は幼なじみなので小さい頃はよく一緒に遊んでいたものだが、年頃ということもあり最近はそういった事は無くなっていた。
「行かないねー、休日はずっと家にいるよ」
「ずっと家にいるって、少しは外に出た方が良いぞ。人間も日の光を浴びねえと腐っちまうぜ?」
「苔が生えて来ちゃうかもね」
わさわさーって
「そん時はお前を学会で発表してやるよ。光合成の出来る初めての人間だってな」
「じゃあ私有名人になれるね!あの耳の聞こえない作曲家みたいに」
「俺が嘘つきみたいになるからそれは止めてくれ」
そんな何とでもない会話を交わしながら歩いていると蓮弥の家についていた。
喋りながら歩いていると時が経つのは早いものだ。
「それじゃあまた明日ね」
「おう、また明日」
自分の家へと歩いていく文乃を見送り、蓮弥は帰宅した。
蓮弥の家の道を真っ直ぐ歩き、坂を上がり少し歩くと文乃の家がある。文乃の家を横切りまた歩くと長い階段が現れる。神社へと続く階段だ。文乃はその階段を上り、鳥居を潜り、古びた木製のベンチに腰掛ける。
文乃は蓮弥には見せない様な寂しげな表情を浮かべると、小さな声で呟いた。
「嘘ついちゃった……」
文乃は髪をとめていたヘアピンを外し、うつむいた。
「私は、ここにいるよ。本当は家にはほとんど居ない」
町のはずれにあるこの神社からは霧嶋町全体の景色を見ることが出来る。立派な建造物こそ無かったが、文乃はここから見えるこの景色が大好きだった。
「……後一人、後一人でこの町が終わる……」
文乃はヘアピンを握る。花の模様をあしらった綺麗なヘアピンだった。
「これ以上、この町で好き勝手させない……!」
文乃の目には強い意志が宿っていた。