2話
クロコダイルに怒られた後、蓮弥はげっそりとした様子だったが、その後の授業も耐え抜き昼休みとなった。
「蓮弥クロ先に怒られたんでしょ??どうだった??やっぱり怖かった??」
今蓮弥と一緒に昼食を食べているこの生徒は隣の二年B組の神木文乃だ。蓮弥とは幼なじみでもあり家も近いので昔から仲が良かった。そんな文乃はあのクロコダイルに怒られた事に興味があるようで、笑顔で蓮弥の思い出したくない悪夢を聞いてくる。
「あのなあ、あれは怖いとかそんなレベルじゃないんだよ。マジであの視線だけで殺されるんだ。あれだけで蛇に睨まれた蛙どころかゴーゴンに睨まれた村人Aみたいになっちまう。それに加えてあのドスの利いた声。もはやあいつは本家のクロコダイルより凶悪だよ」
「そうかなー。私はクロ先良い先生だと思うけどなー。授業は丁寧で分かりやすいし、以外と可愛いとことかあるし」
「あいつに可愛いとことかあるなんて、そんな分けねえだろ。」
「幼稚園生のお子さんにもらったうさぎのキーホルダーを携帯に付けている」
「可愛い!?」
「人は見かけによらないんだよ。それに怒られたのは蓮弥のせいだしねー」
あ、その玉子焼きちょうだい、と文乃が箸を伸ばす。
「文乃は怒られたこと無いからそう言えるんだって。アイツの本当の恐ろしさが分かってないんだよ。そのうさぎのキーホルダーもクロコダイルの非常食だぜきっと。」
あ、その美味そうなのくれよ、と箸を伸ばす。
「でもちゃんと注意してくれるのは良いことだよ。ってそんな事ありません」
文乃が蓮弥の箸をヒョイとかわすと、そのまま弁当箱をたたんでしまった。
「じゃあまた面白いことあったら教えてねー」
そう言って文乃は立ち上がると自分の教室へと帰っていった。
「人は見かけによらないねー」
弁当を食べ終え教室に戻る帰り道、後ろから声をかけられた。
「おい!蓮弥!大ニュースだ!」
「……!陽介、どうした?」
彼の名前は佐伯陽介。蓮弥と同じクラスの生徒で中学からの付き合いである。
「僕らの憧れのアイドルrememberのコンサート!」
rememberとは今大人気のアイドルグループの事だ。総勢14人からなるこのグループは今やミュージック番組だけにとどまらずバラエティ等にも引っ張りだこ、コアな層から子供やお年寄りまでに人気があり、今や知らない人はほとんどいない程だ。
そしてこの二人はrememberの熱狂的ファンだ。
「で、そのチケットがファンクラブ会員には先行販売されてただろ!?そのチケットが……、」
陽介が鞄に手を伸ばす。
「な……なななな……、お、お前まさか……」
蓮弥の顔が驚愕の表情に変わり、全身が小刻みに震えだす。まさかもしかしてとあまりの期待に蓮弥は無意識のうちに立ち上がっていた。
陽介はぐっとため込んでから
「当たったんだよーーーー!!」
満面の笑みで叫んだ。
「よ、よよ、良く……」
「良くやったーーーー!!!!」
教室にそんな陽気な会話が響く。
だがこのコンサートが蓮弥の運命を大きく動かす引き金になるとはこの時は知るよしもなかった。
出来る事ならば、この時間に巻き戻りたい。