1話
ジリリリリとけたたましく目覚まし時計の鳴り響く朝、菊池蓮弥は目を覚ました。
目覚まし時計を止め、もう一度眠りについた。
「……はっ!!」
蓮弥が本格的に目覚めたのはそれから45分後の事だった。
私立霧嶋高等学校。
そこが蓮弥の通う高校の名前だ。蓮弥は家から高校まで自転車と電車を使って登校する。何時もならば学校には20分前には着くように登校しているのだが、今日は暖かい布団に誘惑され45分の後れをとってしまい、電車の乗り継ぎも悪かったため、一時間以上も遅刻してしまっていた。
教室。
蓮弥のクラスである2年C組の後ろのドアの横にピッタリと張り付き中を確認する。
(チッ……、やっぱ現文は入りづらい……)
現代文の中谷先生はヒドく真面目な性格をしており、授業中の一切の死語を禁止している。
体格も良く、40代後半で白髪交じりの頭をオールバックにし、細い目で見る者を怯ませる鋭い眼光の持ち主だ。
その見た目から生徒たちの間ではクロコダイルと呼ばれている。
例え誰かが悪ふざけをしてみたものならばたちまち廊下に引きずり出されるだろう。
クロコダイルが黒板に向かいこちらに背中を向けている間に後ろのドアを静かに開ける。
幸い蓮弥の席は一番後ろのドアの横だ。
この位置ならドアをあけてすぐに着席できる。
椅子のこすれる音に気をつけながらも素早く着席する。
(よし、バレてねえ)
クロコダイルが現代文の登場人物の心境を説明しているのを最初から居たとでも言わんばかりに周りにうまく溶け込んだ。我ながら上出来だと思うのだった。
「それでは次の授業は百二ページの三行目から再開する。各自次の授業までに一読してくるように」
何とかクロコダイルの授業を耐え抜いた。
蓮弥は安堵しながら教科書を机に直そうと教科書を手に取ろうとしたその時、凄みのある声が蓮弥に向けられる。
「菊池、お前は私に何か言うことがあるんじゃないか?」
「遅刻してきたにも関わらず先生の目を盗んで始めから出席していたように見せかけてすみませんでした」
即答だった。
この後蓮弥がこっぴどく怒られたのは言うまでもない。