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Hand In Hand  作者: 和希
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9



「っ」


幸いにも、タイミングよく現れたバスに、私は慌てて乗車する。


早く、ここから居なくならなくちゃ。


彼から、離れなくちゃ。


これ以上弱い私をさらけ出す前に、一刻も早く早く。



「っ、楓ちゃんっ!」


矢島 圭介の叫び声と共に、扉が閉まりバスが発車した。


慌てて乗り込んできた私のことを訝しげに見てくる乗客も居たが、そんなの気にする余裕もなく、私は一番奥の座席へと腰かける。


窓に雨粒が伝い落ちていく様を上手く働かない思考の中、ただボーっと見つめた。


どうして、アイツとキスなんかしてしまったんだろう。


どうして、一時でも流されてしまったんだろう。


私の頭を占領するのは、そんなどうしようもない疑問たちと、遼に対する謝罪だけ。


後悔しても遅い。


なんて言葉、嫌って言うほど痛感してきたのに、私はまったく成長できていない。


そんな自分が悔しくて、悲しくて、苦しくて、涙が出る。


「─…っ」


遼、会いたい。

今すぐ、会いたい。


幻でも、幽霊でもいいから、会って私を抱き締めて、私を好きだと言って。





会いに、来て。





──矢島 圭介が残した唇の熱さが、腕の温もりが、遼を思わせ私をどうしようもない気持ちにさせた。


知っているのに、何度こうやって願おうが、何度こうやって泣こうが、遼が会いに来てくれないことを、遼と会えないことを、私は十分知っているのに


(それでも、)


願わずにはいられなかった。



頬を伝い流れ落ちる涙が染みる。


その涙の温かさを感じる度に、自分は今ここで生きているのだと、ここに存在しているのだと、実感させられて、私にはそれが痛くて、堪らない。


そして、遼と私は違う世界に居るのだと、思いしらされる。


その度に、私の心は絶望に踏み潰され、泣き叫ぶように悲鳴をあげた。


そうして、跡形もなくグチャグチャにされた心は、どうすればいいんだろう。


絶望を通り越したその先には、一体何があるんだろう。


それ以上の苦痛か、

それ以上の悲しみか、

何なのか分からない。


…でももう、

どうだっていい。


私はもうとっくに、『私』を諦めている。

人生を、未来を、自分を、諦めてしまっている。



だってこの先、私を待っているのは暗くて長い道だけだから。


遼が居ない人生なんて、私にとっては何の価値もない。



遼が居なくなったあの日に、私はもう、何もかも捨ててきた。



遼を想う、


その気持ち以外を、

私は捨ててきたんだ。





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