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Hand In Hand  作者: 和希
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8

怖い。


コイツの視線が、

真っ直ぐな想いが


怖くて、堪らない。


『永遠』なんて存在しないことを痛いくらい理解している私には、この先に、見えない未来に、異常なまでの恐怖を感じる。


「楓ちゃん」


「…い、や」


私の目線に合わせるかのように、コイツが腰をあげた。

彼の瞳に私が映る。


やめて。見ないで。


お願いだから。


こんな弱っていて、今にも震え出しそうな私なんて、見られたくない。


隙なんて、見せちゃ駄目なのに、アイツ以外に、心を開かないって決めたのに、


誓ったのに、


そんな私の想いなんて無視して、涙が勝手に零れ落ちそうになる。


愛されることなんて、望んでないの。


私はただ、ずっと…、




「…楓ちゃん、」


「っ」






「好きだよ」











優しい微笑みと、言葉を聞いたその瞬間、私の唇に熱が灯った。



矢島 圭介は、私の心を落ち着かせるかのように、幾度となく口付ける。


背中には、いつの間にか私を抱き締めるためにコイツの腕が回っていた。


唇を合わせるだけのキス。

だけど私は、息の仕方を忘れてしまったかのように、酸素を取り込むことができなかった。


それは驚いたからなのかどうかは分からない。


けれど、彼のその熱に、背中に回る腕の温もりに、荒れていた胸の中が落ち着いていったのを感じた。


やめなくちゃ。

突き放して、ここから出て行かなくちゃ。


確かにそう思うのに、私は動けずにいる。


人の温もりがこんなにも優しいなんて、こんなにも自分を支配するなんて、予想もしていなかった。



「…んっ」


私の唇をゆっくりと開こうと動き出した矢島 圭介の舌。


その動きに逆らえず、私は薄く唇を開いた。



だけど、





『楓』










「─…っ!」


矢島 圭介の口内からした微かなレモンの味が、私を現実に引き戻し、



──ドンッ!



気が付けば、力一杯、矢島 圭介を突き飛ばしていた。





「っ、楓ちゃん…?」


突然私に突き飛ばされた矢島 圭介は、目を見開きながらも私を見つめる。


「あっ、わ、私…」


罪悪感。

唇を通して伝わったあの味が、私に黒く汚れた感情を溢れさせた。


こんなつもりじゃなかったのに。コイツとキスなんかする筈じゃなかったのに。


困惑する。手が震える。頭が上手く回らない。


ただ、ひとつだけ言えるのは、あのキスは、あのレモン味のキスは、アイツのものだった。


アイツだけの、香りだったのに。


『楓、キスしよっか』


『っ!?』


『まぁ、言われなくてもするけどな』


そうやって、レモンキャンデーを食べた後に必ずといってする、アイツのキスが大好きで、


好きで好きで、好きで、



「…っ」


ごめん。ごめんね。



「楓ちゃ…」

「もう、近寄らないで」


ツラいから、寂しいからって、一瞬でもコイツの温もりに流されてしまって、ごめんなさい。



「もう、二度と」



もう、二度と

裏切らないから。




「私に関わらないで」




私には、君だけ、


遼だけが居ればいい。






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