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怖い。
コイツの視線が、
真っ直ぐな想いが
怖くて、堪らない。
『永遠』なんて存在しないことを痛いくらい理解している私には、この先に、見えない未来に、異常なまでの恐怖を感じる。
「楓ちゃん」
「…い、や」
私の目線に合わせるかのように、コイツが腰をあげた。
彼の瞳に私が映る。
やめて。見ないで。
お願いだから。
こんな弱っていて、今にも震え出しそうな私なんて、見られたくない。
隙なんて、見せちゃ駄目なのに、アイツ以外に、心を開かないって決めたのに、
誓ったのに、
そんな私の想いなんて無視して、涙が勝手に零れ落ちそうになる。
愛されることなんて、望んでないの。
私はただ、ずっと…、
「…楓ちゃん、」
「っ」
「好きだよ」
優しい微笑みと、言葉を聞いたその瞬間、私の唇に熱が灯った。
矢島 圭介は、私の心を落ち着かせるかのように、幾度となく口付ける。
背中には、いつの間にか私を抱き締めるためにコイツの腕が回っていた。
唇を合わせるだけのキス。
だけど私は、息の仕方を忘れてしまったかのように、酸素を取り込むことができなかった。
それは驚いたからなのかどうかは分からない。
けれど、彼のその熱に、背中に回る腕の温もりに、荒れていた胸の中が落ち着いていったのを感じた。
やめなくちゃ。
突き放して、ここから出て行かなくちゃ。
確かにそう思うのに、私は動けずにいる。
人の温もりがこんなにも優しいなんて、こんなにも自分を支配するなんて、予想もしていなかった。
「…んっ」
私の唇をゆっくりと開こうと動き出した矢島 圭介の舌。
その動きに逆らえず、私は薄く唇を開いた。
だけど、
『楓』
「─…っ!」
矢島 圭介の口内からした微かなレモンの味が、私を現実に引き戻し、
──ドンッ!
気が付けば、力一杯、矢島 圭介を突き飛ばしていた。
「っ、楓ちゃん…?」
突然私に突き飛ばされた矢島 圭介は、目を見開きながらも私を見つめる。
「あっ、わ、私…」
罪悪感。
唇を通して伝わったあの味が、私に黒く汚れた感情を溢れさせた。
こんなつもりじゃなかったのに。コイツとキスなんかする筈じゃなかったのに。
困惑する。手が震える。頭が上手く回らない。
ただ、ひとつだけ言えるのは、あのキスは、あのレモン味のキスは、アイツのものだった。
アイツだけの、香りだったのに。
『楓、キスしよっか』
『っ!?』
『まぁ、言われなくてもするけどな』
そうやって、レモンキャンデーを食べた後に必ずといってする、アイツのキスが大好きで、
好きで好きで、好きで、
「…っ」
ごめん。ごめんね。
「楓ちゃ…」
「もう、近寄らないで」
ツラいから、寂しいからって、一瞬でもコイツの温もりに流されてしまって、ごめんなさい。
「もう、二度と」
もう、二度と
裏切らないから。
「私に関わらないで」
私には、君だけ、
遼だけが居ればいい。