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Hand In Hand  作者: 和希
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6

ポタポタと、軽やかなリズムを奏でながら屋根へと降り注ぐ雨粒たち。


雨のリズムは人間の精神をリラックスさせる効果があったって、何かの本で読んだ気がする。


そんなことをボンヤリと考えながらふたりでバスを待つ。


普段の私なら、一緒に待つと言ったコイツの申し出を断って、ひとりでバスを待っていただろう。


だけど、なんだか今日は断れなかった。

これ以上、コイツに近付いたら駄目だと頭の中で警報がしているのに、言葉にしようとも上手く声が発せなかった。


おかしい。

こんなの私じゃない。


コイツには言いたいことを隠さず、ズバズバと言ってのけるのが私なのに、


今日は変だ。


コイツに厳しくあたれないなんて。



「っくしゅん!」


「っ」


突然、隣りから聞こえてきた大きなくしゃみに、私の肩がビクッと揺れる。


気を抜いてボンヤリしていたせいもあって、私は驚きを隠せない表情で隣りへと視線を向けた。



そんな私の視線に気が付いたのか、


「…驚かせちゃった?ごめんね」


そう恥ずかしそうに眉をハの字に下げて謝る 矢島 圭介。



ふと、ヤツの肩を視界に捉える。


私の方へと向いている右肩は何の変哲もないのだが、反対の、左肩が濡れていることに気が付いた。


ブレザーの紺色が黒く見える程に、ぐっしょりとしていて、それだけでも相当の水分を含んでいるのだと分かる。



「ちょ…、アンタ肩びしょびしょじゃないっ」


私は慌てて、自分の鞄からハンカチを取り出してコイツの肩を拭こうと手を伸ばした。


けれど、私が伸ばしたその手は、矢島 圭介の手によって包み込まれてしまい、


「…っ」


私はその手の温かさに、思わず息を呑む。



「いいよ、楓ちゃん」


優しい眼差しでそう言う矢島 圭介。


私を見るその視線に、私の手を包むコイツの手の温かさに、自分の鼓動が速まるのを感じる。


「……いいって…」


「指、冷たくなるし、ハンカチ汚れちゃうから拭かなくていいよ」


優しい眼差しから一転、私を安心させるかのようにコイツはニカッと笑った。


しかし、その笑顔を見て、私は眉間に皺を寄せる。


傘を私に持たせたくなかったのと同様に、肩を拭かせたくなかったのだろうけど、


…逆効果だ。馬鹿。



「いいから、風邪でも引いたらどうすんのよ」


私はコイツの温かい手を振り解き、左肩へ手を伸ばした。


「ちょ、ほんと大丈夫だって」


慌てて私の手を止めようとしたコイツを睨み付け、その行動を阻止する。


(人の好意は黙って受け取っておけばいいのよ)


随分と上から目線な考えだなと私自身思ったが、敢えてそこには触れず黙々とヤツの肩を拭いた。


みるみるうちに濡れて変色していくハンカチが、コイツの肩がどれほど濡れていたのか、表しているようだ。


こんなに濡れるまでどうして何も言わないのよ…


椅子に座り俯きながら、大人しく肩を拭かれている矢島 圭介を見下ろした。


普段、身長差からコイツを見上げることがほとんどだった私にとって、コイツの頭が下にある今の景色は新鮮だ。


雨のせいか湿気を吸った柔らかそうなコイツの髪が、微かに風に揺れる。


普通、こんなに明るい色を出そうとしたら髪の毛はキシキシに傷むはずなのに


コイツの毛はとても柔らかそうで、思わず触れてしまいたい衝動にかられる。



コイツはこんなにも綺麗な顔立ちをしていて、性格も明るくて


友達もたくさんいる。


傘に入れてもらっても、素直にありがとうとさえ言えない私みたいに、性格がひねくれているわけじゃないのに、


どうして私なんかに構うんだろう?


今だって、コイツの肩はこんなに濡れているのに対して、私の肩はちっとも濡れていない。


それはコイツが私の気付かないところで、さりげなく私を雨から守ってくれてたということで、


どうして、私なんかを守ってくれるんだろう?


私と接することで何かコイツにメリットがあるなら分からなくもないけど、残念ながら私にはコイツの得になるようなものは持っていない。


むしろ、コイツにとって私と居ることはマイナスだろう。


なのに、そんな損得勘定を抜きにしてまで私に接するのは、どうしてなのか。


考えても考えても、分からない。


普段はだらしのない顔で笑い、喜怒哀楽の表現がはっきりしているコイツなのに、


コイツの心の奥底の考えが読めない。


目の前にいるコイツが、何を思っているのか分からない。



…何をそんなに深刻に考えているんだと、周りの人は私を笑うかもしれない。


でも、人と関わることを極端に避けていた私は、コイツが寄ってきた理由をどうしても考えてしまうんだ。


分からないから余計に、何故なんだと、追求してしまいたくなる。




「─……ねぇ、」


「…?」


ただ、分からない中で

ひとつだけ言えるのは、



「どうして、私なんかに優しくするの…?」



こうして、傘に入れてくれたり、一緒にバスを待ってくれているコイツが確かに存在してるってこと。


そして、その、理由の分からない優しさに


私自身、大きく戸惑ってしまっているということだ。



「…急に、どうしたの?」


「いいから、答えて」


急にそんな質問を投げかけられて、驚いたのか矢島 圭介は弾かれたように顔を上げ、私を見た。


その瞳は微かにだが、左右に揺れていて動揺しているのが見て取れた。


私の中では、自分の知らない土地へ行くときのような、高揚と不安が対峙し存在している。



覗いてみたいと

心は言い、


覗いてはいけないと

頭が叫んでる。



コイツが私にとって、危険人物だということも、勿論、忘れてはいない。



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