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◇
ザァザァと音を奏でながら、落ちてくる雨の雫。
その様子からして暫くは止みそうにないなと、放課後の昇降口で私はひとり肩を落とした。
…あのお天気キャスターめ、化粧ばっかに気をとられてないでちゃんと仕事しろっつの。
今朝、私が見ていたニュースのお天気キャスターは、降水確率10%だと微笑みながら言っていた。
勿論その言葉をまるまる信じてしまった私は、当然のように傘を持っていない。
「─…どうしよう」
バスで通学している私。
けれど、いくらバス停が高校から近いと言っても、雨の中を歩いて行くのには結構な距離がある。
(びしょ濡れでバスには乗りたくないな…)
私は再び、止みそうにない雨を見て、灰色の空を睨むように見上げた。
「…楓ちゃん?」
ふと、背後から私の名前を呼ぶ声がして、私は声のする方へと振り返る。
「どうしたの」
そこには不思議そうな顔をして、こちらを見ている矢島 圭介の姿があった。
「……。」
今日は終礼が終わったにも関わらず、私の元へと来なかったコイツ。
珍しい事もあるもんだなと内心ホッとしていたのに、
(最悪だ)
よりにもよってコイツに会うなんて。
「…アンタこそ、どうしたのよ」
「ん?俺?俺は委員会があったから」
私の無愛想な声にも、表情を曇らせることなく質問に答えた矢島 圭介。
だからか、コイツが今日私の所へ来なかったのは。
「でも、楓ちゃんに会えるなんてマジラッキー。実は今日会いに行こうとしたら、委員会の先生に強制連行されたからさぁ」
そうやって聞いてもいない事をぺらぺらと話すコイツ。
先生に強制連行されるくらいだから、きっと何回も委員会を休んでいたんだろう。
先生も、この問題児のせいで余計な手間が増えて可哀想に…。
「で、楓ちゃんはどうしたの?」
「─…別に…」
傘を持っていないとコイツに言うのがなんだか癪で、私は言葉を濁す。
けれどコイツは、そんな私の様子に気付いたのか、気付いていないのか
「…ひょっとして、傘忘れた?」
そう首を傾けた。
両手に傘らしきモノを持っていない私に対して、コイツの右手には藍色の傘が一本、しっかりと握られている。
なんだか少しだけ、コイツに負けた気分…。
「じゃあさ」
コンコンと地面を蹴り靴を履きながら、私の方へと一歩近付いたコイツ。
「一緒に帰ろっか」
「……。」
この時私は、つくづく傘を持っていない自分を、恨まざるを得なかった。