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Hand In Hand  作者: 和希
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なのに、それなのに、


高校で再会した楓ちゃんは、まるで人形のように笑わなくなってしまっていた。


それに、恋人の影も形もなくて…俺は大きく戸惑ってしまった。


普通なら、ずっと好きだった子が彼氏と別れたと知ったなら、嬉しいと思うんだろう。


でも俺は嬉しいと思う前に、楓ちゃんのことが心配で堪らなくなった。


あれだけ幸せそうにして、俺の知る限りでしかないけど、ずっと一緒に居たのにどうして今、一緒に居ないんだろうか?


どうして楓ちゃんは、笑わなくなってしまったんだろうか?


そんな疑問が胸の中に渦巻いて。


(アイツが居ないから…?)


事情も何も知らない俺は、ただ単純に楓ちゃんがまだ恋人のことを好きだからだと思った。


笑わなくなったのも、何かアイツに酷いことをされたんじゃないか、と。




だから俺は、笑わなくなった楓ちゃんにもう一度笑ってほしくて、


何が楓ちゃんをそんな風に変えてしまったのか知りたくて、


楓ちゃんに近付いた。




そこに下心がなかったかと言えば、嘘になる。


やっぱりどうしても俺は、楓ちゃんが好きで。



だから近寄るなと楓ちゃんに言われても、ちゃんとした理由が聞きたかった。


俺をそこまで頑なに拒絶する、他人を寄せ付けないようにしている、その理由を。

















そして、

その理由を聞いた時、


俺は衝撃と後悔で、ただ何も言えずに立ち竦むことしかできなかった。













『さよなら…』


そう言った時の楓ちゃんの表情が、頭に焼き付いて離れない。


全てを諦めているような暗い色を宿した目が、今にも消えてしまいそうなその儚げな存在が、


俺の胸の奥深くまで突き刺さって。



楓ちゃんはどんな想いで恋人のことを口にしたのだろう。


どんな想いで俺の告白を聞いて、どんな想いで他人を拒絶していたんだろう。



(─…最悪だ)


楓ちゃんに笑ってほしいと思いながら、俺は楓ちゃんをどれだけ傷付けてしまっていたのか。


何も知らなかったとは言え、楓ちゃんに近付いて、その心に土足で踏み込んでしまったことには変わりない。


ツラかっただろう。

悲しい過去を思い出して、恋人が死んだと口にするのは、もうこの世に居ないと説明するのは、堪らなく苦しかっただろう。


ツラい現実をもう一度実感するのにも、それ相応の覚悟がいった筈だ。


楓ちゃんにそんな想いをさせた自分が、楓ちゃんの痛みやツラさを担げない自分が、堪らなく悔しくて、後悔した。


ちゃんとした理由を聞きたいという自分のエゴを押し付けてしまったことに、楓ちゃんを傷付けてしまったことに。




後悔とか、懺悔とか、そんな感情がグルグルと俺の体を巡って、世界を黒く黒く染めていく。


背を向けて去る楓ちゃんに何も言えずに、立ち竦むことしかできなかった自分が歯がゆくて、とてもちっぽけだと思った。



身近な人が死ぬということを経験したことのない俺は、楓ちゃんの痛みも恐怖も、想像の範囲内でしか分からない。


でも、俺はもう楓ちゃんに近寄ってはいけないんだと、離れなくてはいけないんだと、それだけは分かって。


ツラい思い出を話してまで俺に近付いてほしくないと、もう放っておいてと楓ちゃんは言ったんだ。


なら俺はもう、楓ちゃんに関わるべきではない。


これ以上楓ちゃんの領域に踏み込んで、楓ちゃんを苦しめることなんて、俺にはできない。




好きな人に、大切な人にしてやれる唯一のことが離れることだなんて、


悔しくて、虚しかった。









俺はそれから、楓ちゃんとの間に距離を空けて、近寄らないようにした。







でも、それでも、頭を掠めるのは楓ちゃんのことばかりで、



だから俺はもう一度、もう一度だけでいいから、チャンスが欲しかった。


男のくせにしつこいって分かってる。いい加減にしろって怒鳴られるかもしれない。


でも、これが済んだら、もう二度と楓ちゃんに近寄らないから。

今度こそ、目の前に現れないって誓うから。



だから、楓ちゃん、


俺の話を聞いて。



そして、願わくばもう一度


あの頃のように笑ってほしいんだ…─。















「─…ごめ、なさ…」


俺がいつから楓ちゃんに惹かれていたのか、何故彼氏が死んでいたことを知らなかったのか、その全てを説明すると楓ちゃんはそう弱々しく呟いた。


その声がだいぶ遠くに聞こえ、だんだんと霞みを増す視界に、本格的に危ないと悟る。意識が持っていかれそうになる。


だけど、まだ肝心なことを楓ちゃんに伝えていない。


俺は過去の話をして、楓ちゃんの誤解を解きたかったが、楓ちゃんに謝ってもらいたかったわけではないんだから。





「…楓ちゃん、」



痛む体を無視して、俺はもう一度言葉を紡ぎ始めた。





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