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暗闇の中、ざわざわとした周囲の声が聞こえてきて、重たい瞼を持ち上げる。
どうやら意識を失っていたのはほんの一瞬だったみたいで、グラグラとした視界をなんとか元に戻そうとした。
だけど、焦点が合った瞬間、
「─…え?」
私は何が起きたのか、状況を把握することができなかった。
目の前には矢島 圭介が居て、背中にはコイツの腕が回ってて、それは先程と変わらないのに、私達が居る場所が問題だった。
見上げるとさっきまで私達が居た地上があって、見下ろしていた筈の階段があって、
(…え?)
そこでようやく私は、私達は階段を転げ落ちて、地下に落ちてしまったのだと分かった。
そして、私の体に大した痛みがないことから、
『楓ちゃん…!』
矢島 圭介が私のことを庇ってくれたということも。
「─…っ」
それが分かった瞬間、急激に体が冷えていき、唇がカタカタと震えだす。
何で?どうして?
どうして、私のことなんかを…─。
「…ねぇ、」
ゆっくりと体を起こし、矢島 圭介に呼び掛ける。
けれど、そんな私の呼び掛けに対する返事はない。
目の前にはただぐったりと横になっている矢島 圭介が居て、その姿はまるで眠っているだけのよう。
…知っている。この姿を私は一度見たことがある。
これは、この姿はまるであの日の遼のようだ。
眠っているだけのように見えるのに、死んでいた遼のよう。
「─…っ」
そう思った途端、恐怖が全身を包みわけが分からなくなる。
自分が一体どうするべきなのか、現時点でどう行動することが最善なのか、パニックに陥ってしまって分からない。
ただ震えながら、泣くことしかできなくて。
「…いや、だ」
視界が歪む。息ができない。何でこんなことに。さっきまで普通に立って、私と話していたのに。分からない。分からない。
だけど、でも
「─…やだぁ…っ」
お願い、目を開けて。
彼みたいに、遼みたいに、
居なくなったりしないで。
馬鹿だ私は。
『絶対』なんてないということも、『明日』なんていつ失われてしまうか分からないことも、嫌っていう程知っていたのに。
遼を失ってしまったあの日に、嫌っていうほど実感したのに。
後悔を繰り返す。
動かなくなったコイツを見て、私を庇ったコイツを見て、話をちゃんと聞いてあげれば良かったと思っても、遅いのに。
死んでしまってからではもうどうにもできないと、相手は何も言ってくれないと分かっていたのに。
(─…どうして、)
どうして私は、何かを失ってからでしか、気付くことができないんだろう。
「お願い…」
震える手を、動かない矢島 圭介の手に、そっと重ねる。
そこにはまだ、人の温かさが、生きている温かさがあって、
「─…死なないで」
滝のように涙を流しながら、震える声で、だけどはっきりとそう呟いた。
死なないで。
目を開けて。
今度は頭ごなしに怒鳴ったりしない。今度はちゃんとアンタの話を聞くから、
だから、お願い
『楓ちゃんっ』
生きて、いて。




